単純な私の気分は簡単に上昇して、夢見心地な足取りでカラオケ店に向かう。
私、茜、梨乃、萌、愛海、瀬名君。六人でカラオケ店に入店した。こんなにたくさんの人とカラオケに来たのは初めてだ。
中学校から仲良しの加奈とはよくカラオケに行くけれど、梨乃と萌と愛海は学校以外での付き合いはあまりなくて、たまに学校帰りにスイーツを食べに行ったり、映画に行ったりするだけの浅い付き合いだったから。
一番に曲を入れるのはもちろん萌。その次は愛海。その次は梨乃。そして最後に私。茜と瀬名君は二番手を勧められたけど、二人とも聞き専だからと断っていた。
意外にも瀬名君は意外とリップサービスしないタイプの人だった。
萌の歌にも愛海の歌にも賛辞を送ることなく、ほぼ無反応だった。むしろ茜のほうが何らかの誉め言葉を口にして、場の空気を和やかに保とうとしていた。
梨乃が歌いだすと、萌と愛海はお互いの時と違って、遠慮なく茜や瀬名君に話しかけはじめた。
「茜くん、どこの学校なの?」
「学校は家の事情で行ってねぇよ」
「マジそれ、家ビンボーなの?」
「いや、普通だ。おい、ダチが歌ってんのに聴かなくていいのか?」
「いいの、梨乃はそんなの気にしないよぉ」
いや、気にすると思うんだけど。
私が加奈とカラオケに行く時は、相手が歌っている時にまったく関係のない雑談をしたり、スマホをいじったりしない。ちゃんと相手の歌を聴いている。自分の歌の時にずっと喋っていられたら、悲しいんじゃないだろうか。
萌と愛海、おたがいが歌っている時は雑談していなかったところに悪意を感じる。
私も梨乃もたぶん、軽んじられているのだろう。
でも、それを指摘して怒れるほど私は強くない。梨乃も諦めた顔をしている。
「ワリィが、俺は曲を聴きたいから雑談はそっちの瀬名とでもしていてくれ」
茜にきっぱりと断られて萌と愛海がびっくりした顔をする。
茜はカラリと爽やかな笑顔で「悪いな」と言うと、梨乃のほうに体を向けた。
「いい歌声だ」
感嘆交じりに茜が褒める。
その声が聞こえたのか、梨乃が柔らかそうな頬を朱色に染めた。
梨乃が歌いながらさりげなく茜の方を見る。
茜が柔らかく微笑みかけると、梨乃の頬がさらに赤く上気した。あんな梨乃、はじめて見る。
あれ、もしかして梨乃、茜に惚れたんじゃ―…
友達に好きな子ができた。喜ばしいことだ。中学校の頃、加奈に好きな人ができた時は自分のことのように喜んで、応援した。
だけど今、私は何故だかちょっとだけ複雑な気分だ。
私、茜のことをどう思っているんだろう。
茜を見ようと視線をずらした。タイミングがいいのか悪いのか、瀬名君がこちらを向いたのと同時だった。おかげで彼と目があってしまった。
涼やかな瞳。どこか色っぽい優美な微笑。
好きだ、瀬名君のこと。
ひときわ高く鳴り響く鼓動に、そう確信する。危うく茜に脱線するところだった自分が情けない。美形ならば誰でもいいのかと、我ながら呆れてしまう。
梨乃の歌が終わって、私の番が回ってきた。
本当なら立ち上がって気持ちよく歌いたい。でも、誰も立って歌っていないから目立ってしまう。気合満々の痛い奴だと思われたくない。
私は座ったまま歌いはじめた。
相変わらず萌と愛海は瀬名君に話しかけていたが、瀬名君が二人に相槌を打ちながらも、私の歌に耳を傾けてくれているのがわかった。
私の歌を聴いて欲しい。もっと、もっと。
声にできない夢を託して、歌を紡ぐ。
「ガチ歌いとか、イタくね?」
ぽそっと愛海がそう呟いたのが聞こえた。
「ほんとうだねぇ。自分の歌に酔ってるのかなぁ」
クスクスと萌が返事をする。
熱した身体に冷たい真冬の水をかけられた気分だ。悔しい。歌に傾けていた想いがいっきに辛い現実に引き戻される。
馬鹿みたい、熱唱するとか本当に痛い子だな。
気持ちが冷めかかった時、魔法の声が聞こえた。
「酔いもするさ。綺麗な歌声じゃねぇか」
熱に浮かされた茜の声。
茜が聴いてくれている。二人きりの森のコンサートを思い出し、高揚した。
どんなにすごい歌姫の声だって、世界中ぜんぶの人に届くわけじゃない。もし届くのだとしたら、世界一の歌姫が平和を歌えば、戦争なんて起きない。だけど現実では、令和の世になってもどこかの国では戦争が起きている。
聴いてくれる人が一人でもいるなら懸命に歌う。それでいい。
大好きな曲を熱唱すると、心地いい疲労を感じた。
「けっこうやるじゃん」
「美守、歌うまいんだねぇ」
否定的だったはずの愛海と萌が、ちょっとだけばつの悪そうな顔でそう言った。
「ありがとう。萌、愛海」
私はとびきりの笑顔で二人にお礼を言った。
カラオケで自信がついた私は、翌日、夢への第一歩を踏みだした。
私、茜、梨乃、萌、愛海、瀬名君。六人でカラオケ店に入店した。こんなにたくさんの人とカラオケに来たのは初めてだ。
中学校から仲良しの加奈とはよくカラオケに行くけれど、梨乃と萌と愛海は学校以外での付き合いはあまりなくて、たまに学校帰りにスイーツを食べに行ったり、映画に行ったりするだけの浅い付き合いだったから。
一番に曲を入れるのはもちろん萌。その次は愛海。その次は梨乃。そして最後に私。茜と瀬名君は二番手を勧められたけど、二人とも聞き専だからと断っていた。
意外にも瀬名君は意外とリップサービスしないタイプの人だった。
萌の歌にも愛海の歌にも賛辞を送ることなく、ほぼ無反応だった。むしろ茜のほうが何らかの誉め言葉を口にして、場の空気を和やかに保とうとしていた。
梨乃が歌いだすと、萌と愛海はお互いの時と違って、遠慮なく茜や瀬名君に話しかけはじめた。
「茜くん、どこの学校なの?」
「学校は家の事情で行ってねぇよ」
「マジそれ、家ビンボーなの?」
「いや、普通だ。おい、ダチが歌ってんのに聴かなくていいのか?」
「いいの、梨乃はそんなの気にしないよぉ」
いや、気にすると思うんだけど。
私が加奈とカラオケに行く時は、相手が歌っている時にまったく関係のない雑談をしたり、スマホをいじったりしない。ちゃんと相手の歌を聴いている。自分の歌の時にずっと喋っていられたら、悲しいんじゃないだろうか。
萌と愛海、おたがいが歌っている時は雑談していなかったところに悪意を感じる。
私も梨乃もたぶん、軽んじられているのだろう。
でも、それを指摘して怒れるほど私は強くない。梨乃も諦めた顔をしている。
「ワリィが、俺は曲を聴きたいから雑談はそっちの瀬名とでもしていてくれ」
茜にきっぱりと断られて萌と愛海がびっくりした顔をする。
茜はカラリと爽やかな笑顔で「悪いな」と言うと、梨乃のほうに体を向けた。
「いい歌声だ」
感嘆交じりに茜が褒める。
その声が聞こえたのか、梨乃が柔らかそうな頬を朱色に染めた。
梨乃が歌いながらさりげなく茜の方を見る。
茜が柔らかく微笑みかけると、梨乃の頬がさらに赤く上気した。あんな梨乃、はじめて見る。
あれ、もしかして梨乃、茜に惚れたんじゃ―…
友達に好きな子ができた。喜ばしいことだ。中学校の頃、加奈に好きな人ができた時は自分のことのように喜んで、応援した。
だけど今、私は何故だかちょっとだけ複雑な気分だ。
私、茜のことをどう思っているんだろう。
茜を見ようと視線をずらした。タイミングがいいのか悪いのか、瀬名君がこちらを向いたのと同時だった。おかげで彼と目があってしまった。
涼やかな瞳。どこか色っぽい優美な微笑。
好きだ、瀬名君のこと。
ひときわ高く鳴り響く鼓動に、そう確信する。危うく茜に脱線するところだった自分が情けない。美形ならば誰でもいいのかと、我ながら呆れてしまう。
梨乃の歌が終わって、私の番が回ってきた。
本当なら立ち上がって気持ちよく歌いたい。でも、誰も立って歌っていないから目立ってしまう。気合満々の痛い奴だと思われたくない。
私は座ったまま歌いはじめた。
相変わらず萌と愛海は瀬名君に話しかけていたが、瀬名君が二人に相槌を打ちながらも、私の歌に耳を傾けてくれているのがわかった。
私の歌を聴いて欲しい。もっと、もっと。
声にできない夢を託して、歌を紡ぐ。
「ガチ歌いとか、イタくね?」
ぽそっと愛海がそう呟いたのが聞こえた。
「ほんとうだねぇ。自分の歌に酔ってるのかなぁ」
クスクスと萌が返事をする。
熱した身体に冷たい真冬の水をかけられた気分だ。悔しい。歌に傾けていた想いがいっきに辛い現実に引き戻される。
馬鹿みたい、熱唱するとか本当に痛い子だな。
気持ちが冷めかかった時、魔法の声が聞こえた。
「酔いもするさ。綺麗な歌声じゃねぇか」
熱に浮かされた茜の声。
茜が聴いてくれている。二人きりの森のコンサートを思い出し、高揚した。
どんなにすごい歌姫の声だって、世界中ぜんぶの人に届くわけじゃない。もし届くのだとしたら、世界一の歌姫が平和を歌えば、戦争なんて起きない。だけど現実では、令和の世になってもどこかの国では戦争が起きている。
聴いてくれる人が一人でもいるなら懸命に歌う。それでいい。
大好きな曲を熱唱すると、心地いい疲労を感じた。
「けっこうやるじゃん」
「美守、歌うまいんだねぇ」
否定的だったはずの愛海と萌が、ちょっとだけばつの悪そうな顔でそう言った。
「ありがとう。萌、愛海」
私はとびきりの笑顔で二人にお礼を言った。
カラオケで自信がついた私は、翌日、夢への第一歩を踏みだした。



