梨乃のおかげで、彼氏疑惑で仲違いは避けることができた。でも、こんどは別の難題がやってきた。
「ねぇ、美守。彼氏じゃないならぁ、あたしたちにも紹介して欲しいなぁ」
「そーだね、こんどミンナで遊ぼーよ」
昼休み、示し合わせたように萌と愛海がそう持ち掛けてきた。
今日はやたらと二人でこそこそ話していたけど、まさかそんな相談をしていたとは。
どうしよう、茜と友達を会わせても大丈夫なのか。
迷っていると、萌と愛海の顔がわかりやすく曇った。
「えぇ、まさかだめなの?」
「なんでよ。いいじゃん、べつに」
「えっと、だめってわけじゃないんだけど、ちょっと、彼に聞いてから……」
「大丈夫だって、あたしたち、美守の友達だもん。ね、いいよね」
「そうだよ。トモダチのトモダチはトモダチでしょー」
友達の友達は他人なのでは?
疑問に思ったけれど、あまりにも圧が強すぎて断れなかった。いつの間にか、水曜日の放課後に、みんなで遊びに行くことになってしまった。
家に帰るとすぐ、私は茜に頭を下げた。
「茜、ごめんっ」
「なんだよ、帰ってくるなり。まずは『ただいま』だろ」
「あ、うん。ただいま、茜」
「おう、おかえり、美守」
家で帰りを待ってくれている人(正体は狐だけど……)が居て、おかえりと言ってくれる。なんだかくすぐったい。
「なんか、ありがとね。茜がうちに来てよかった」
自然と口から滑り落ちたお礼の言葉に、茜はきょとんとして首を捻る。
「ありがとう? 可笑しな奴だな、礼を言うのはこっちだろ。寝床に飯、おかげさんで今年も冬を越えられる。ありがとな」
「どういたしまして」
「それで、帰るなりの謝罪の理由はなんだ?」
「うん。じつはね、私の友達が茜に会いたいって」
「んあ? ああ、狐に触りたいってか。いいぜ、お安い御用だ。俺は病気もダニも持ってねぇから、安心して触れるぜ」
「違うの」
「違う?」
「人間の茜に会いたいんだって……」
茜がぽかんと口を開けた。
「あ、私が話したわけじゃなくって、その―…」
ああ、どうしよう。何を言っても言い訳がましく聞こえる。どう言ったら、茜に誤解されずに済むのだろう。素直に言えば、茜ならわかってくれるだろうか。だけど、茜に聞く前に萌たちと茜を会わせる約束をしてしまったのは事実だ。
茜、怒るかなあ―…
必死にどう状況を説明するか、言い訳をするべきかを考えていると、茜がいきなりふはっと気の抜けた笑い声を漏らした。
そんなに大きくない茜の手が、ぽんぽんと私の頭を撫でる。
「一緒に歩いているところを見られちまったんだろ?」
「う、ん」
「それで俺に興味を持って、会わせろと頼まれた」
「うん」
「断る間もなく、会う約束をさせられたってところか」
「すごい、どうしてわかるの?」
「そりゃ分かるさ、お前のことならな」
太陽みたいに眩しい笑顔。
こんな顔でそんな台詞を言われたら、狐が相手でもクラクラしてしまう。
深い意味はないのかもしれない。でも、もしかして茜は私のことを好きなのではないかと、ドキドキしてしまう。いや、完全に私の独り相撲の妄想だけど。
人生で一度くらい、少女漫画みたいな甘いときめきを味わってもバチは当たらないだろう。私は敢えて、妄想を打ち消さなかった。
そのおかげで真っ赤な顔をしていたのだけど、茜はからかってこなかった。さすが空気の読める男だ。
少年のような純粋さと、大人の男の人のようなこなれ感。二つの性質を持っている茜はとても魅力的だった。狐の世界ではどうか知らないけど、人間の世界ならば茜はそうとうモテること間違いなしだ。
「それで、俺はいつお前のダチに会えばいいんだ?」
茜の質問にはっと私は我に返る。
そうだ、今は妄想に耽っている場合じゃない。
「茜、会ってくれるの?」
「ああ、構わねぇぜ」
「でも、いろいろと茜が困るんじゃないの?」
「安心しな。狐だってことはバレねぇようにするさ。人間のことはよく研究してんだ。ヘマはしねぇよ」
「ありがとう、茜。なにかお礼をしなくちゃね」
「礼ねぇ。なら、前払いでいいか?」
にやりと茜が悪魔めいた笑顔を浮かべる。
まさか、狡賢い狐の本性をついに現わして、とんでもない見返りを求めてくるとか。
化け狐や妖狐が出てくる怖い話はいくつか知っている。まさか、茜もそういう悪い狐だったなんてことないよね。
困惑する私に茜は言った。
「ねぇ、美守。彼氏じゃないならぁ、あたしたちにも紹介して欲しいなぁ」
「そーだね、こんどミンナで遊ぼーよ」
昼休み、示し合わせたように萌と愛海がそう持ち掛けてきた。
今日はやたらと二人でこそこそ話していたけど、まさかそんな相談をしていたとは。
どうしよう、茜と友達を会わせても大丈夫なのか。
迷っていると、萌と愛海の顔がわかりやすく曇った。
「えぇ、まさかだめなの?」
「なんでよ。いいじゃん、べつに」
「えっと、だめってわけじゃないんだけど、ちょっと、彼に聞いてから……」
「大丈夫だって、あたしたち、美守の友達だもん。ね、いいよね」
「そうだよ。トモダチのトモダチはトモダチでしょー」
友達の友達は他人なのでは?
疑問に思ったけれど、あまりにも圧が強すぎて断れなかった。いつの間にか、水曜日の放課後に、みんなで遊びに行くことになってしまった。
家に帰るとすぐ、私は茜に頭を下げた。
「茜、ごめんっ」
「なんだよ、帰ってくるなり。まずは『ただいま』だろ」
「あ、うん。ただいま、茜」
「おう、おかえり、美守」
家で帰りを待ってくれている人(正体は狐だけど……)が居て、おかえりと言ってくれる。なんだかくすぐったい。
「なんか、ありがとね。茜がうちに来てよかった」
自然と口から滑り落ちたお礼の言葉に、茜はきょとんとして首を捻る。
「ありがとう? 可笑しな奴だな、礼を言うのはこっちだろ。寝床に飯、おかげさんで今年も冬を越えられる。ありがとな」
「どういたしまして」
「それで、帰るなりの謝罪の理由はなんだ?」
「うん。じつはね、私の友達が茜に会いたいって」
「んあ? ああ、狐に触りたいってか。いいぜ、お安い御用だ。俺は病気もダニも持ってねぇから、安心して触れるぜ」
「違うの」
「違う?」
「人間の茜に会いたいんだって……」
茜がぽかんと口を開けた。
「あ、私が話したわけじゃなくって、その―…」
ああ、どうしよう。何を言っても言い訳がましく聞こえる。どう言ったら、茜に誤解されずに済むのだろう。素直に言えば、茜ならわかってくれるだろうか。だけど、茜に聞く前に萌たちと茜を会わせる約束をしてしまったのは事実だ。
茜、怒るかなあ―…
必死にどう状況を説明するか、言い訳をするべきかを考えていると、茜がいきなりふはっと気の抜けた笑い声を漏らした。
そんなに大きくない茜の手が、ぽんぽんと私の頭を撫でる。
「一緒に歩いているところを見られちまったんだろ?」
「う、ん」
「それで俺に興味を持って、会わせろと頼まれた」
「うん」
「断る間もなく、会う約束をさせられたってところか」
「すごい、どうしてわかるの?」
「そりゃ分かるさ、お前のことならな」
太陽みたいに眩しい笑顔。
こんな顔でそんな台詞を言われたら、狐が相手でもクラクラしてしまう。
深い意味はないのかもしれない。でも、もしかして茜は私のことを好きなのではないかと、ドキドキしてしまう。いや、完全に私の独り相撲の妄想だけど。
人生で一度くらい、少女漫画みたいな甘いときめきを味わってもバチは当たらないだろう。私は敢えて、妄想を打ち消さなかった。
そのおかげで真っ赤な顔をしていたのだけど、茜はからかってこなかった。さすが空気の読める男だ。
少年のような純粋さと、大人の男の人のようなこなれ感。二つの性質を持っている茜はとても魅力的だった。狐の世界ではどうか知らないけど、人間の世界ならば茜はそうとうモテること間違いなしだ。
「それで、俺はいつお前のダチに会えばいいんだ?」
茜の質問にはっと私は我に返る。
そうだ、今は妄想に耽っている場合じゃない。
「茜、会ってくれるの?」
「ああ、構わねぇぜ」
「でも、いろいろと茜が困るんじゃないの?」
「安心しな。狐だってことはバレねぇようにするさ。人間のことはよく研究してんだ。ヘマはしねぇよ」
「ありがとう、茜。なにかお礼をしなくちゃね」
「礼ねぇ。なら、前払いでいいか?」
にやりと茜が悪魔めいた笑顔を浮かべる。
まさか、狡賢い狐の本性をついに現わして、とんでもない見返りを求めてくるとか。
化け狐や妖狐が出てくる怖い話はいくつか知っている。まさか、茜もそういう悪い狐だったなんてことないよね。
困惑する私に茜は言った。



