買い物を終えてすっかり暮れた街を茜と並んで歩く。
「なあ、美守」
「なに?」
「お前、瀬名が好きなのか?」
甘いものが好きなのか、的な軽やかさで茜が口にした言葉に驚いて、うっかり荷物を手の中から滑り落とした。
といっても茜の服と私の服は茜がさりげなく持ってくれいて、私が持っていたのは食料品のコーナーで買ったチョコレート菓子の入った小さな買い物袋だけだ。地面に落ちたところで箱が少し折れるくらいしか被害はない。
「おっと、危ねぇ」
茜が抜群の反射神経で地面にぶつかる前に落下する袋を掴んだ。
「ほらよ、美守」
茜が宙でキャッチした買い物袋を私に差し出す。
ちょっと茜、王子様過ぎだよ。粗野そうな雰囲気なのに中身が優しい王子様って、ギャップがやばい。見た目も美貌だし、惚れちゃうでしょ。
違う違う、私が好きなのは瀬名君だって。
「あ、ありがとう」
ドギマギしてどもった私に茜は片眉を上げて小さく肩を竦める。
「手の力が抜けるぐらい驚くようなことを聞いたつもりはねぇんだがな」
「驚くよ、普通は」
「瀬名が好きなのかって聞いただけじゃねぇか」
「そんな食べ物の好き嫌いみたいな軽い話じゃないでしょ」
「そういうもんか?」
「そういうものなの」
自分の頬に手を当てると、冬の風ですっかり冷え切っていた頬がほんのりと熱くなっていた。
辺りが夕闇に包まれていてよかった。赤い顔を茜に見られずに済む。
しばらく茜は考え込むように顎に手を当てて無言で歩いていた。
「瀬名に気持ちを伝えないのか?」
静かに茜が問いかける。
私は足を止めた。茜も立ち止まる。
道にぬうっと伸びた自分たちの影法師を見ながら、私は小さな声で、でもきっぱりと答える。
「伝えないよ」
「何故だ?」
「自信がないの」
「何故、自信がないんだ?」
「私なんかじゃ、住む世界が違う。釣り合わないよ」
「身分の問題があるのか?」
「身分って、そんなの今の世の中にあるわけないでしょ」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「瀬名君、見たでしょ。あのかっこよさだよ。それにひきかえ、私は普通だから」
「普通って?」
「美形かそうじゃないかって、狐の世界にはないの?」
首を傾げる茜に逆に問い返すと、茜は納得したような顔になった。
「まあ多少はあるぜ。俺はまあ、容姿には恵まれてるほうだ。自分じゃあまりよく分からないがな」
「茜はすっごくかっこいいもんね。狐の姿も、人間の姿も」
相手が狐の茜だからか、男の子なのにすごく素直に褒められるし、自然に話すことができる。
「茜は私のこと可愛いって言ってくれるけど、私の容姿ってまあ普通でしょ。よく見積もっても中の上ってとこかな。でも、瀬名君は茜と一緒で特上でしょ。そんな人に告白するほど身のほど知らずじゃないよ」
「つまり、容姿の問題だってことか?」
真顔で茜に問い返されて、私はハッとした。
思わず黙り込んだ私を茜がまっすぐ見詰めた。
いつもの表情がくるくる変わるまっすぐで純粋な少年とは違う顔。どこか達観して、大人びた顔に少し戸惑う。
「じゃあお前は、顔が好みだから瀬名文也が好きなのか?」
茜にはっきりそう尋ねられて、言葉に詰まった。
確かに私は瀬名君の優美な顔立ちが好きだ。すらりと高い背も、長い手足にも魅力を感じる。彼の姿をみるだけでドキドキして、心臓がぎゅっと握られたように痛くなる。
でも、それだけじゃない。
私が瀬名君を好きになったのは、顔がきれいだからっていう、そんな薄っぺらな理由だけじゃない。
「なあ、美守」
「なに?」
「お前、瀬名が好きなのか?」
甘いものが好きなのか、的な軽やかさで茜が口にした言葉に驚いて、うっかり荷物を手の中から滑り落とした。
といっても茜の服と私の服は茜がさりげなく持ってくれいて、私が持っていたのは食料品のコーナーで買ったチョコレート菓子の入った小さな買い物袋だけだ。地面に落ちたところで箱が少し折れるくらいしか被害はない。
「おっと、危ねぇ」
茜が抜群の反射神経で地面にぶつかる前に落下する袋を掴んだ。
「ほらよ、美守」
茜が宙でキャッチした買い物袋を私に差し出す。
ちょっと茜、王子様過ぎだよ。粗野そうな雰囲気なのに中身が優しい王子様って、ギャップがやばい。見た目も美貌だし、惚れちゃうでしょ。
違う違う、私が好きなのは瀬名君だって。
「あ、ありがとう」
ドギマギしてどもった私に茜は片眉を上げて小さく肩を竦める。
「手の力が抜けるぐらい驚くようなことを聞いたつもりはねぇんだがな」
「驚くよ、普通は」
「瀬名が好きなのかって聞いただけじゃねぇか」
「そんな食べ物の好き嫌いみたいな軽い話じゃないでしょ」
「そういうもんか?」
「そういうものなの」
自分の頬に手を当てると、冬の風ですっかり冷え切っていた頬がほんのりと熱くなっていた。
辺りが夕闇に包まれていてよかった。赤い顔を茜に見られずに済む。
しばらく茜は考え込むように顎に手を当てて無言で歩いていた。
「瀬名に気持ちを伝えないのか?」
静かに茜が問いかける。
私は足を止めた。茜も立ち止まる。
道にぬうっと伸びた自分たちの影法師を見ながら、私は小さな声で、でもきっぱりと答える。
「伝えないよ」
「何故だ?」
「自信がないの」
「何故、自信がないんだ?」
「私なんかじゃ、住む世界が違う。釣り合わないよ」
「身分の問題があるのか?」
「身分って、そんなの今の世の中にあるわけないでしょ」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「瀬名君、見たでしょ。あのかっこよさだよ。それにひきかえ、私は普通だから」
「普通って?」
「美形かそうじゃないかって、狐の世界にはないの?」
首を傾げる茜に逆に問い返すと、茜は納得したような顔になった。
「まあ多少はあるぜ。俺はまあ、容姿には恵まれてるほうだ。自分じゃあまりよく分からないがな」
「茜はすっごくかっこいいもんね。狐の姿も、人間の姿も」
相手が狐の茜だからか、男の子なのにすごく素直に褒められるし、自然に話すことができる。
「茜は私のこと可愛いって言ってくれるけど、私の容姿ってまあ普通でしょ。よく見積もっても中の上ってとこかな。でも、瀬名君は茜と一緒で特上でしょ。そんな人に告白するほど身のほど知らずじゃないよ」
「つまり、容姿の問題だってことか?」
真顔で茜に問い返されて、私はハッとした。
思わず黙り込んだ私を茜がまっすぐ見詰めた。
いつもの表情がくるくる変わるまっすぐで純粋な少年とは違う顔。どこか達観して、大人びた顔に少し戸惑う。
「じゃあお前は、顔が好みだから瀬名文也が好きなのか?」
茜にはっきりそう尋ねられて、言葉に詰まった。
確かに私は瀬名君の優美な顔立ちが好きだ。すらりと高い背も、長い手足にも魅力を感じる。彼の姿をみるだけでドキドキして、心臓がぎゅっと握られたように痛くなる。
でも、それだけじゃない。
私が瀬名君を好きになったのは、顔がきれいだからっていう、そんな薄っぺらな理由だけじゃない。



