部屋の姿見をじっと覗き込む。
 奥二重だけどまあまあ大きい目、やや低めだけど小さい鼻、色気はないけど薄い唇。パーツの形も配置も悪くないのに、絶妙に地味な顔が映る。ついでに言うと、痩せているけどチビで華奢というより貧相。

 私にも、何か一つぐらいチャームポイントがあればいいのに。

 鏡を見ると自然と溜息がこぼれる。鏡に向かって「世界一美しいのは誰」なんてセリフを平気で言う、白雪姫に登場するお妃様が羨ましい。

 深草美守(ふかくさみもり)、高校一年生。もしできるなら、ミトコンドリアからやり直したい。
 モデルみたいな美人に生まれたかったとは言わない。でも、何か一つでも自信が持てる容姿に生まれたかった。そうしたら、今より少しは楽しい毎日を過ごせていたかもしれない。

 「美守、勉強しないと将来ニートになるわよ」

 母の口癖だ。テストで百点をとろうが、宿題をしていようが、一日一回は私を見てそう言わずにはいられない。

 「楽しいことは大学に入ってからしなさい」

 今年の四月に増えた母の口癖だ。
 その言いつけを守って、私は高校生に入ってからは部活にも入らず、学校と塾と自宅を往復するだけの毎日を過ごしている。

 本当は歌手になりたい、歌のスクールに通いたい。
 でも、言えない。私なんかが歌手になりたいなんてお笑い種だ。現実が見えていないって笑われるに決まっている。

 「あんたって本当に普通よね」
 幼い頃、何かの拍子に母が冷淡に言い捨てた言葉がずっと胸の奥に刺さっている。

 偏差値がそれなりに高い大学に入って、それなりにいい会社に就職するか公務員になって、それなりの人生を送る。永遠にそれなりが続いていくのだろう。

 「私って、本当につまらない人間だなあ」
 自虐的な言葉に傷付くこともない。なにもかも普通の私にはそんな権利はないから。

 物思いにふけって、すっかり手が止まってしまっていた。今日中に終わらせようと思っていたのに。
 母の言う通り頑張っていたら将来は明るいはず、安心なはず。
 そう言い聞かせて、難解な問題集に挑んだ。