もやもやした気持ちのまま、今日の目的の場所についたんだ。
 王宮の中でもかなり奥の場所なんだって。
 
 コンコン。

「どうぞ」

 侍従のお姉さんがノックしてドアをあけたんだ。
 中には、大人の女性とカッコいいお兄さんと小さな女の子がいたんだよ。

「久しぶりね、リリーナ」
「お久しぶりでございます、王妃様」

 おお、大人っぽい女性はこの国の王妃様なんだ。
 金髪の長い髪で、お胸がとっても大きいんだよ。
 流石は王妃様だ。

 りっちゃんとポチが部屋の中に入ったら、侍従のお姉さんが部屋から出て行っちゃったんだ。
 
「人払いしていたのよ。ここは王族のプライベートな空間よ。もっとも、リリーナも直ぐにこの場所に入れる資格を得るわ」
「へえ、そうなんだ」

 王妃様がニコリとしながら、わざわざ教えてくれたんだよ。
 王妃様ってとっても良い人なんだなあ。

「自己紹介しましょうか。私は王妃のエリザベスよ。こちらにいるのが息子のケインで、リリーナの婚約者ね。それでこの子が長男の娘のグレースよ」
「ポチはポチです!」
「あら、元気に挨拶してくれて有難うね」

 おお、このカッコいい男の人がりっちゃんの旦那さんになるんだ。
 金髪の短い髪で、優しそうなスーパーイケメンなんだ!
 グレース様も金髪のふわふわのセミロングの髪で、とっても可愛いんだ。

「ポチちゃんとは初めましてになるね、ケインだ。一応、リリーナの婚約者となっているよ」
「おお、凄いカッコいい! りっちゃん、イケメンの旦那さんでいいね!」
「ちょっとポチ! 何を言っているのよ!」
「ふがふが」
「はは」

 ポチが思ったことを言ったら、りっちゃんが顔を真っ赤にしながらポチの口を塞ぐんだ。
 いいじゃん、カッコいい人なんだから。

「グレースなの。三歳なの」
「おお! ポチはポチなんだよ」
「ポチちゃん、ぎゅってしていい?」
「どんとこいだよ!」
「じゃあ、ぎゅー! えへへ」
「ポチもぎゅー」
「あらあら、とっても可愛いわね」

 グレース様は、明るくてニコニコしていてとっても可愛いんだよ。
 ポチも直ぐにグレース様と仲良くなりそうだよ。
 二人して抱き合って、ほっぺをすりすりしているんだ。
 王妃様もポチとグレース様の事を見て微笑んでいるんだ。
 自己紹介も終わったので、ポチはグレース様と手を繋いでソファーに座るよ。
 りっちゃんも、ケイン様と仲良さそうに一緒にソファーに座っているんだ。
 そんな皆の様子を、王妃様がニコニコとしているんだよ。
 と、ここで王妃様がりっちゃんとポチに質問してきたんだ。

「そういえば部屋に入る時に、二人とも少し暗い顔をしていたけど、何かあったの?」
「えーっと、その……」
「香水臭いおばさんが、りっちゃんの事をいじめていたんだよ」
「ちょっと、ポチ!」

 りっちゃんが慌ててポチの事を止めようとするけど、ポチは絶対に誰かに言った方がいいと思ったんだよ。
 王妃様なら話しても大丈夫だって思ったの。
 すると、王妃様が直ぐにりっちゃんに声をかけたんだ。

「あの侯爵夫人ね。自分の娘とケインをくっ付けようと企んでいるのよ。だから、リリーナに散々酷いことを言っているのよ」
「えー、なにそれ。酷いなあ。りっちゃんは街の人にも優しくて、とっても良い人なんだよ」
「私もリリーナがとても良い人というのは分かっているんだ。それに侯爵の娘は、その、夫人の様にちょっと問題のある人で、そもそも結婚しようとは全く思わないよ」
「普段から貴族がとか言っているけど、それなら侯爵家なのに公爵家に喧嘩を売るなって言いたいのよ」
「グレースも、あのおばさん嫌いなの」

 おお、王族の皆があの香水臭いおばさんの事をボロクソに言っているよ。
 勿論、ポチもりっちゃんをいじめたあのおばさんは大っ嫌いなんだ。

「あの侯爵家は、晩餐会には当主しか呼んでいないわ。あの二人は今までも様々なパーティで問題を起こしているからね」
「そうですか、それは良かったです」

 りっちゃんも王妃様から香水臭いおばさんと娘が晩餐会に参加しないと聞いて、明らかにホッとしているよ。
 大事な場面を、香水臭いおばさんに台無しにされたらたまらないよね。
 すると、王妃様がニヤリとしてりっちゃんとケイン様の方を向いたんだ。
 これは何か企んでいる顔だよ。

「そうだわ。晩餐会でダンスを踊るけど、ラストダンスを一緒に踊って二人の婚約の事を公にしなさい」
「「えっ!」」
「ラストダンス?」

 王妃様の提案に、りっちゃんとケイン様はビックリしているけど、ポチは何が何だか分からないんだ。
 なので、思い切って王妃様に聞いてみよう。

「王妃様、ラストダンスって何ですか?」
「晩餐会やパーティでは、社交ダンスとかを踊る事があるのよ。そして、一番最後に行われるラストダンスに参加する人は、お互い意中の人同士で踊るのが通例なのよ」
「おお。なら、りっちゃんとケイン様が一緒に踊っても何も問題ないよ!」

 ポチも王妃様の意見に大賛成だけど、りっちゃんの表情が冴えないよ。
 どうしたのかな?

「私、今まで足が悪かったから、ダンスの練習をしたことないのよ」

 そっか、りっちゃんはつい最近まで歩くのも大変だったもんね。
 でもリハビリを頑張って走る事はまだ難しいけど、歩くのはもう大丈夫になったんだ。
 そんなりっちゃんなら、きっと大丈夫。

「りっちゃん、特訓だよ! 頑張って歩けるようになったりっちゃんなら、きっと大丈夫だよ!」
「えっ?」
「それに、ある程度りっちゃんが踊れれば、きっとケイン様がごまかしてくれるよ」

 ポチはケイン様の方を向いたんだ。
 すると、ケイン様もニコリとポチに笑いかけてくれたんだよ。

「そうだな。私だってそこそこダンスには覚えがあるから、ある程度踊れれば全く問題ないぞ」
「ほら、りっちゃんは頭も良いし直ぐにダンスを覚えちゃうよ」

 もうここまできたら、りっちゃんも覚悟を決めたみたいだよ。

「うん、上手く踊れないかもしれないけど、できるだけ頑張ってみるよ」
「おお、ポチもりっちゃんのダンスの特訓のお手伝いをするよ!」

 りっちゃんはポチのご主人様なのだから、ポチもできるだけお手伝いをするんだ。
 りっちゃんもふんすってやる気になっているよ。
 すると、王妃様がポチに向かって微笑んできたんだ。

「ふふふ、ポチちゃんの笑顔は周りを元気にするわね。公爵領でのポチちゃんの色々な噂を聞いたけど、やはり本物は凄いわね」
「ポチちゃんすごーい!」

 グレース様も一緒になってポチの事を褒めるから、少し恥ずかしくなっちゃった。
 でも、やる気になったりっちゃんの為にポチも頑張るぞ!