今どき、SNSでメッセージもビデオ通話もできるのに、芹香さんは絵手紙を送ってくれた。
しかも、丁寧な直筆のメッセージまで添えて。長々と──私のためだけに。

手紙を開けた瞬間、少しだけ古びたインクの香りがした。まるで昔の時代にタイムスリップしたみたい。
その香りに包まれながら、私は目を通し始める。

「成美ちゃんへ、
日々忙しい中で、少しでもあなたに元気を届けられたらと思って書いてみたよ。これからもずっと、あなたの味方だからね。大丈夫、私たちの関係は変わらないよ。」

その一文が、私の心にすっと染み込んでいった。まるで芹香さんの声が聞こえるような気がして、胸が温かくなる。

学校の屋上。晴れた空の下で、私はその手紙を太陽に透かしてみる。
消し跡がひとつもない。
一度で綺麗に書き上げたんだ。私のことを思いながら、真剣に。

「成美ちゃんへ」の文字を指でなぞりながら、私はしばらくその手紙をじっと見つめていた。
文字一つ一つに、彼女の気持ちが込められていることがよくわかる。手紙を読むたびに、心がじんわりと温かくなる。こんなふうにしてもらえるの、きっと私だけなんだろうな。

忙しいのに、こんな時間をかけてくれるなんて……。
優越感でいっぱいになる。

私だけが受け取ったこの手紙。たった一枚だけど、なんだか他の人には絶対にわかってもらえないような、特別なものに感じる。もし他の子たちに見せたら、きっと嫉妬されちゃうよね。
だって、芹香さんは人気者だった。誰からも好かれていて、みんなが彼女を大切にしている。でも──そんな彼女が、特別に可愛がってくれたのは私だけ。
今だって、私のことを想ってくれている。だって、この手紙が何よりの証拠だもの。

ああ、自惚れてしまいそう。
だけど、この気持ちが少しでも芹香さんに届いているなら、嬉しい。
どんなに忙しくても、私のために時間を作ってくれるなんて、他には考えられない。私は芹香さんにとって、きっと特別な存在なんだろう。

「成美、またここでサボってる。覚える気あるの?」

不意にかけられた声に、私は慌てて走る。
思わず手紙をポケットに押し込んで、クラスメイトの幸太の方へ向かった。
心臓がバクバクと鳴っているのを感じながら。

「それ、なぁに?」

幸太が目ざとく気づいたけれど、私はすぐに笑顔を作ってごまかす。
「……なんでもないよ。」

幸太は少し怪しんでいる様子だったけれど、それ以上は追及しなかった。
私たちの間柄には、よくわからない気まずさがあったけれど、それでも長い付き合いだから、彼は気にしないふりをしてくれた。
でも、さっきの手紙だけは、彼には見せたくなかった。

幸太も芹香さんのこと、知ってるから。
だから、この手紙も秘密にしておきたかった。
私だけの、大切な秘密。