柊くんがいなくなった春は終わりを迎え、今は梅雨。
湿気が多く、どんよりとした日が続く。
探しに行ったあの日以来、私は探すこと自体を止めた。退学したと聞いた時、驚きとショックで、辛かった。
でも、それは彼の為ではなく、自分の為だ。辞めるほど追い込まれていた彼を、再びここへ連れ戻すのは地獄以外ないだろう。
「翠、帰ろ」
「うん」
私自身は、何の変哲もない生活に戻った。
「今日も、雨凄いよね!湿気のせいで髪の毛うねりまくり~」
「そうだね。」
「ねえ、最近話してる時、ずっと上の空だよね」
「そうかな」
「私と話してても楽しくないの?」
「別に、楽しいよ」
「別にって何?翠さ、変わったよね!彼といて変わったよ!それも悪い方に」
まただ。自分に都合の悪い態度を取られると、皆、口を揃えて言ってくる。
「彼のせいじゃない。私の元々の性格だよ。これが、本当の私だよ」
「なんで?なんで、そこまでして彼を庇う発言ばかりするの?」
不満そうに、眉をしかめてくる愛花ちゃん。
「庇ってないよ。」
「嘘だ!だって、翠優しかったじゃん!ずっとさ、笑顔で幸せそうだったじゃん!彼と出会ってから、変だよ!」
一呼吸置いてから、愛花ちゃんの目を捉え、ゆっくり話す。
「変わっても無いし、変でもないよ。私は、本当にただ、良い人を演じてただけ。内心、愛花ちゃんに彼の事を否定されるたび、はらわたが煮えくり返りそうだったもん。愛花ちゃんの心の奥が、自分しか分からない様に、私が隠してる部分は私にしか分からない。だから、決めつける言葉を言ってくるのはやめて。」
「私は、ただ親友として」
「ありがとう。愛花ちゃんの元気にいつも救われてたよ。進級早々、励ましてくれた言葉、本当に嬉しかった。私は、私で良いんだって認めてもらえた気がして、愛花ちゃんが私の居場所だった。」
「だったって?過去形?」
「愛花ちゃんの口から、私を否定する言葉を聞くまでは、大好きだった。今、愛花ちゃんの隣で笑ってる私は、無理してる私なの。前みたいに、心から笑顔になれないです。ごめんなさい」
深々と頭を彼女に下げる。
「ちょっと、待ってよ。こんなの酷くない?だって、だってさ、親友じゃん私たち」
「...」
「何とか言ってよ、翠」
「私が、もっと勇気のある人だったら、こんな形にはならなかったと思う。いつまでも、心に仕舞って、溜め込んでいた私が全て悪いの。だから、愛花ちゃんは、何も悪くない」
「はっ。ずるいよ、翠。その言い方は、ずるい。良い子ちゃんぶってんじゃねえよ」
手に持っていた傘を捨て、私の胸ぐらを掴んだ。
「翠のさ、そういういい子ちゃん過ぎるところ、本当に嫌いだった。目障りだと何回も思ってた。それに、何を考えてるか分からなかったあんたに、ずっとムカついてた。」
大きい雨粒が、愛花ちゃんの頬を伝い地面に落ちていく。
「口では、親友とか言ってる割にはさ、毎回一番大事な事教えてくれないじゃん」
愛花ちゃんの言う通りだ。言わずに我慢して、勝手に落ち込むのは違う。だからこそ、愛花ちゃんとも向き合わなくちゃいけない。
「私、前に言われた愛花ちゃんの言葉が嫌だったの。」
私が、話し始めると、強くつかまれていた手が、離れた。
「愛花ちゃんに親友か彼か選択を迫られた時、正直、どちらも大切にしたかったから。それに、私のこと本当に大切に思ってくれてる事も知ってたから。でも、それが凄く重荷で、愛花ちゃんの言った事が正解だと言い聞かせればするほど、一緒にいるのが苦痛に感じていったの。」
私が言い終わると、「ごめんなさい」と謝罪と共に頭を下げられた。
「翠から、本音を奪ってたのは、私の方。翠は何も悪くない。それでも、一緒にいてくれてありがとう。」
曇り空には、似合わない笑顔を向けられ、「本音を聞かせてくれてありがとう」と一言、私に伝えると落としてた傘を拾い上げ、一人歩き出す。私は、その背中に向かって呼び止めた。
もう、間違えた選択を一生したくない、私自身の心の現れの、行動だと思う。失って後悔するくらいなら、ダメもとでもやれ。
「待って、愛花ちゃん!」
呼びかけに応じて、足を止めてくれた彼女の方まで、走って距離を縮める。
「これから、本当の親友になることは出来ないですか?我儘を言ってるのは分かってる!けど、なりたいの!本音を言い合えた仲だからこそ、もっと知っていきたいの」
私のあまりの勢いに驚いたのか、少しの間黙り込んでしまった。
「翠は、それで良いの?私、酷い事言ったんだよ。気づ付ける言葉を」
「私も、愛花ちゃんの気持ちに気づいてなかった、今日初めて聞けて、嬉しかったの。」
染み込ませていた、自分への無理という諦めの言葉が、そんな簡単に消えるのは難しい。それでも、変わっていきたい。
「愛花ちゃんと、もっと色んなお話をしたいと、心から思えたの。だから、お願いします」
「お願いするのは、私も一緒だよ。翠、ありがとう。引き留めてくれて」
雨の音が辺りに響く中、幸せで静かに涙を流した。
湿気が多く、どんよりとした日が続く。
探しに行ったあの日以来、私は探すこと自体を止めた。退学したと聞いた時、驚きとショックで、辛かった。
でも、それは彼の為ではなく、自分の為だ。辞めるほど追い込まれていた彼を、再びここへ連れ戻すのは地獄以外ないだろう。
「翠、帰ろ」
「うん」
私自身は、何の変哲もない生活に戻った。
「今日も、雨凄いよね!湿気のせいで髪の毛うねりまくり~」
「そうだね。」
「ねえ、最近話してる時、ずっと上の空だよね」
「そうかな」
「私と話してても楽しくないの?」
「別に、楽しいよ」
「別にって何?翠さ、変わったよね!彼といて変わったよ!それも悪い方に」
まただ。自分に都合の悪い態度を取られると、皆、口を揃えて言ってくる。
「彼のせいじゃない。私の元々の性格だよ。これが、本当の私だよ」
「なんで?なんで、そこまでして彼を庇う発言ばかりするの?」
不満そうに、眉をしかめてくる愛花ちゃん。
「庇ってないよ。」
「嘘だ!だって、翠優しかったじゃん!ずっとさ、笑顔で幸せそうだったじゃん!彼と出会ってから、変だよ!」
一呼吸置いてから、愛花ちゃんの目を捉え、ゆっくり話す。
「変わっても無いし、変でもないよ。私は、本当にただ、良い人を演じてただけ。内心、愛花ちゃんに彼の事を否定されるたび、はらわたが煮えくり返りそうだったもん。愛花ちゃんの心の奥が、自分しか分からない様に、私が隠してる部分は私にしか分からない。だから、決めつける言葉を言ってくるのはやめて。」
「私は、ただ親友として」
「ありがとう。愛花ちゃんの元気にいつも救われてたよ。進級早々、励ましてくれた言葉、本当に嬉しかった。私は、私で良いんだって認めてもらえた気がして、愛花ちゃんが私の居場所だった。」
「だったって?過去形?」
「愛花ちゃんの口から、私を否定する言葉を聞くまでは、大好きだった。今、愛花ちゃんの隣で笑ってる私は、無理してる私なの。前みたいに、心から笑顔になれないです。ごめんなさい」
深々と頭を彼女に下げる。
「ちょっと、待ってよ。こんなの酷くない?だって、だってさ、親友じゃん私たち」
「...」
「何とか言ってよ、翠」
「私が、もっと勇気のある人だったら、こんな形にはならなかったと思う。いつまでも、心に仕舞って、溜め込んでいた私が全て悪いの。だから、愛花ちゃんは、何も悪くない」
「はっ。ずるいよ、翠。その言い方は、ずるい。良い子ちゃんぶってんじゃねえよ」
手に持っていた傘を捨て、私の胸ぐらを掴んだ。
「翠のさ、そういういい子ちゃん過ぎるところ、本当に嫌いだった。目障りだと何回も思ってた。それに、何を考えてるか分からなかったあんたに、ずっとムカついてた。」
大きい雨粒が、愛花ちゃんの頬を伝い地面に落ちていく。
「口では、親友とか言ってる割にはさ、毎回一番大事な事教えてくれないじゃん」
愛花ちゃんの言う通りだ。言わずに我慢して、勝手に落ち込むのは違う。だからこそ、愛花ちゃんとも向き合わなくちゃいけない。
「私、前に言われた愛花ちゃんの言葉が嫌だったの。」
私が、話し始めると、強くつかまれていた手が、離れた。
「愛花ちゃんに親友か彼か選択を迫られた時、正直、どちらも大切にしたかったから。それに、私のこと本当に大切に思ってくれてる事も知ってたから。でも、それが凄く重荷で、愛花ちゃんの言った事が正解だと言い聞かせればするほど、一緒にいるのが苦痛に感じていったの。」
私が言い終わると、「ごめんなさい」と謝罪と共に頭を下げられた。
「翠から、本音を奪ってたのは、私の方。翠は何も悪くない。それでも、一緒にいてくれてありがとう。」
曇り空には、似合わない笑顔を向けられ、「本音を聞かせてくれてありがとう」と一言、私に伝えると落としてた傘を拾い上げ、一人歩き出す。私は、その背中に向かって呼び止めた。
もう、間違えた選択を一生したくない、私自身の心の現れの、行動だと思う。失って後悔するくらいなら、ダメもとでもやれ。
「待って、愛花ちゃん!」
呼びかけに応じて、足を止めてくれた彼女の方まで、走って距離を縮める。
「これから、本当の親友になることは出来ないですか?我儘を言ってるのは分かってる!けど、なりたいの!本音を言い合えた仲だからこそ、もっと知っていきたいの」
私のあまりの勢いに驚いたのか、少しの間黙り込んでしまった。
「翠は、それで良いの?私、酷い事言ったんだよ。気づ付ける言葉を」
「私も、愛花ちゃんの気持ちに気づいてなかった、今日初めて聞けて、嬉しかったの。」
染み込ませていた、自分への無理という諦めの言葉が、そんな簡単に消えるのは難しい。それでも、変わっていきたい。
「愛花ちゃんと、もっと色んなお話をしたいと、心から思えたの。だから、お願いします」
「お願いするのは、私も一緒だよ。翠、ありがとう。引き留めてくれて」
雨の音が辺りに響く中、幸せで静かに涙を流した。

