あの日、あの逃げた日から、話す事がなくなった私たち。
お互い何事も無かった様に学校生活を過ごしている。理由は、学校から逃げ出した私たちの事を先生が、親に報告してしまったから。
その事で、両親は酷く怒り私ではなく、彼にそれをぶつけた。
「俺たちが育てた翠が、自らこんな馬鹿な事はしない!」
「あなた、本当にどういうつもりなの?親の教育がなってないんじゃないの?」
「お二人のお気持ちは理解できますが、もう少し抑えてください。」
先生の言葉が、この二人の耳に届くわけがない。どうせ、私が何を言ったって、無駄だ。
成瀬くんは、私の両親に向かって深々と頭を下げ、謝罪の意志を示す。
「おい、お前それで謝ってるつもりなのか!」
「翠が見つからなかったら、あなた責任取れてたの?」
ただ、ひたすら頭を下げてる彼を見て、胸が痛くなった。
私に、反抗できる精神が備わっていたら、話し合える家族だったら、ここまでの騒動にはなっていなかっただろう。
「約束しろ。金輪際、うちの娘には関わるな」
「あなたの噂は、耳にしています。両親もいらっしゃらないそうね。そんな、あなたのせいで、私の娘が万が一いじめ何かにあったら、たまったもんじゃないわ!」
それでも、彼の表情は何一つ変わることはなかった。
教室に戻る前の廊下で、私は彼に対して、頭を下げて謝ることしか出来なかった。言い返せなかった自分の弱さが憎い。
「ごめんなさい。あなたを傷つける言葉を吐かせたのは、私のせいです。あなたは、何にも悪くない。悪くないです。全てはー」
肩に大きい手が置かれ、泣きそうな笑みを向けられるた。
「なんで、わた、し、私、は、おこ、れな、かったんだろ。ほんと、うは、いい、かえ、した、かった、のに、のど、に、なにか、が引っか、かってるみたいで、諦めたの。いつも、すべ、てを、あき、らめ、ちゃうの。」
彼の優しい手が、体温が、見つめてくれる目が、表情が、あまりにも暖かくて、その全てに甘えてしまう。
私が泣くなんてお門違いもいい所だ。そう分かっていても、涙が次から次へと、溢れ出して止まらない。
泣き止むまでの間、彼は何も言わずに、ずっと隣にいてくれた。
「翠、大丈夫?最近、食欲がないみたいだけど」
「あっ、うん!大丈夫だよ!私の取柄はなんて言っても元気で明るいだから!」
「やめて、翠!痛々しくて見てられないよ!」
「だって、こうでも言ってないと、しんどいよ。どうしたら」
「翠の気持ちも分かるけど、今回は諦めるしかないよ。噂が広まった以上、あんたも危ないかもしれないんだよ!」
「分かってるけど」
迷惑を沢山かけた。これ以上、かけたくない。そんなの、私が一番知ってる。
「冷静に考えな。いじめられるかもしれないんだよ?翠は、平和主義じゃない。いじめなんかにあえば、耐えられないのは翠の方だよ!それに、あんたとつるんでる、私まで巻き込まるかもしれないんだよ?親友の私より、出会って間もない男子を庇うの?」
正論だ。全て、正しい言葉なのかも。
「そう、だよ、ね。私、ごめん。混乱してたみたい」
「分かってくれれば、良いんだよ」
いつもの優しい顔に戻る愛花ちゃんを見て、これが正解なんだと思った。
だから、私は彼よりも親友を取ってしまった。
「もう大分、暖かいね!」
私の隣で、両手を上げて伸びをしながら話す愛花ちゃんに、そうだねと言う。
家に帰る足取りが、いつもより重い。帰っても居場所何てないのに。
やっとの思いで、家に着き、暗いままの部屋の中で、座り込む。
正解が分からない。どしたらいいのかも、どうしてこんなに苦しいのかも。
諦めるのが、彼の為で、これ以上傷つけたくない。
違うか。傷つけたいんじゃなくて、傷つきたくないだけ。周囲の目を気にしない様にする覚悟がない。
嫌われたくない。これ以上、居場所をなくすのは嫌だ。
「最近、学校はどう?あの変な子とは、関わっていないでしょうね?」
母が唐突に、尋ねてくる。
「関わってない」
冷たく答え、怒りの感情を抑える。
「翠、これはあなたの為なのよ」
こういう時ばかり、母親ずらするなよ。私の為になった物なんて、一つもない。過去もこれからも。
「そうだぞ。翠、お前最近おかしいぞ」
喧嘩付の毎日を、送っているあなたたちの方がおかしい。
「最近、やけに反抗的ね。前までは、良い子だったのに」
それは、ずっと我慢を強いられてきたからだ。どれだけ、辛かったかなんて、この人たちには、到底理解してもらえないだろけど。
「ご馳走様。私、部屋に戻る」
最近、両親と顔を合わせるのが、前にも増して憂鬱だ。
唯一の居場所だと思っていた親友も、自分の事しか考えていなかった。その現実に、誰の事も信用出来なくなる。
次の日学校に行くと、彼の髪の毛と服が濡れていた。男子も女子も関係なく、そんな彼の姿を見て笑ってた。
その光景に恐怖を覚え、一歩踏み出したいのに、足が鎖で繋がれたみたいに動ない。手も小さく震えてしまい、ただただ、その光景を見てるだけしか出来なかった。
お昼休憩、誰も来ない図書室に足を運んでいた。とにかく、人と話したくなかった。
窓を開け、優しい風が吹き、顔にあてる。風と一緒に運ばれる、植物の匂いに、心が浄化されていく。
曇りのない青空が、あまりにも美しすぎて、胸が苦しくなる。
突然、ガラッと扉が開く音がして、咄嗟に物陰に隠れた。扉が閉まり、足音が近づき、誰かがこちらへ来てることを知る。
息を止め、目を強く瞑り、やり過ごそうとしたが、足音は私の前に来て止んだ。
目をゆっくり開け、誰なのかを確認する。
「成瀬くん?」
目の前にいたのは、紛れもなく成瀬くんだった。手に視線を向けると、ノートと筆箱を持っていて、私の横に並んで座る。
「ごめん、私邪魔だよね。出てくね」
誰かに見られるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとしたが、彼に手首を掴まれ、私は再び座る。
少しの間、静けさが二人を包んでいたが、先陣を切ってくれたのは成瀬くんの方だった。
ノートには『ごめん』の3文字が書かれていて、頭を下げられた。
「頭を上げて、お願い。成瀬くんは何も悪くないよ。私が全て悪いの。あの時、私が逃げたいなんて言わなければって、ずっと後悔してた。だから、成瀬くんが、自分を責める事なんて一つもない。助けてあげられなくてごめんなさい」
深々と頭を下げ、何度も何度も謝罪の言葉を口にした。
「お願い、こんな私を許さないで。私、成瀬くんのこと、いっぱい傷つけた。私の両親からも罵倒されて、クラスの人たちからも、またいじめの標的にされて、全て私のせい。」
「関わるな」の言葉が、何度も木霊して聞こえてくる。
それだけ伝え、立ち上がろうとすると、ノートを見せられる。
『許す』の短い文字だけが、そこには書かれていた。
「なんで、そんなに、優しい言葉を私なんかにくれるの?」
彼は、優しく微笑むだけだった。
ずるいよ。これじゃあ、いつもみたいに自分を責められない。
どうして、成瀬くんはいつも、私が欲しい言葉をくれるの。
どうして、優しさを与えてくれるの。
すると、唐突にノートを見せられる。
『ねえ、手出して。あげたい物ある』
涙を拭いながら、手を出す。
「うわああ!」
静かな図書室に私の叫び声だけ、響く。
「これ、虫!?」
『正しくは、虫のおもちゃだけど』
私がこの質問をするって分かっていたのか、ページをめくりネタバラシをされる。
相当、私の驚いた顔が面白かったのか、声は出ていないものの、お腹を抱えて笑う彼を見て、自然と笑顔にさせられた。
「あははは!酷いじゃん、騙すなんて!」
笑いを堪えながら、彼はノートに文字を書き始めた。
『やっと、笑った』
彼の言葉に私は、過去の光景が蘇る。でも、そんなまさか、だって彼は、何も告げずに去ってて、それから会えなくなって。
「やっと笑顔になった」
男の子に言われた時の記憶が鮮明に色濃く映る。
「ねえ、成瀬くん、あなたー」
5分前を知らせる予鈴が鳴り、会話は中途半端な所で切れた。
その後の授業は、終始ずっと上の空で、頭に入って来なかった。
学校が終わると、鞄を持ち、そのまま家へ直行した。理由は、あの子との思い出の品を探す為だった。
確か、最後にあの子と会ったのは、私の誕生日の前日の日。その次の日、いつも通りの時間で、公園に行き何時間と待ったが、結局あの子が来ることは無かった。
だから、お別れが言えなかった事が、ずっと心残りだった。
あの頃の男の子が、彼ならとほんの少し期待してしまう。
それぐらい、ずっと会いたい人だから。
お互い何事も無かった様に学校生活を過ごしている。理由は、学校から逃げ出した私たちの事を先生が、親に報告してしまったから。
その事で、両親は酷く怒り私ではなく、彼にそれをぶつけた。
「俺たちが育てた翠が、自らこんな馬鹿な事はしない!」
「あなた、本当にどういうつもりなの?親の教育がなってないんじゃないの?」
「お二人のお気持ちは理解できますが、もう少し抑えてください。」
先生の言葉が、この二人の耳に届くわけがない。どうせ、私が何を言ったって、無駄だ。
成瀬くんは、私の両親に向かって深々と頭を下げ、謝罪の意志を示す。
「おい、お前それで謝ってるつもりなのか!」
「翠が見つからなかったら、あなた責任取れてたの?」
ただ、ひたすら頭を下げてる彼を見て、胸が痛くなった。
私に、反抗できる精神が備わっていたら、話し合える家族だったら、ここまでの騒動にはなっていなかっただろう。
「約束しろ。金輪際、うちの娘には関わるな」
「あなたの噂は、耳にしています。両親もいらっしゃらないそうね。そんな、あなたのせいで、私の娘が万が一いじめ何かにあったら、たまったもんじゃないわ!」
それでも、彼の表情は何一つ変わることはなかった。
教室に戻る前の廊下で、私は彼に対して、頭を下げて謝ることしか出来なかった。言い返せなかった自分の弱さが憎い。
「ごめんなさい。あなたを傷つける言葉を吐かせたのは、私のせいです。あなたは、何にも悪くない。悪くないです。全てはー」
肩に大きい手が置かれ、泣きそうな笑みを向けられるた。
「なんで、わた、し、私、は、おこ、れな、かったんだろ。ほんと、うは、いい、かえ、した、かった、のに、のど、に、なにか、が引っか、かってるみたいで、諦めたの。いつも、すべ、てを、あき、らめ、ちゃうの。」
彼の優しい手が、体温が、見つめてくれる目が、表情が、あまりにも暖かくて、その全てに甘えてしまう。
私が泣くなんてお門違いもいい所だ。そう分かっていても、涙が次から次へと、溢れ出して止まらない。
泣き止むまでの間、彼は何も言わずに、ずっと隣にいてくれた。
「翠、大丈夫?最近、食欲がないみたいだけど」
「あっ、うん!大丈夫だよ!私の取柄はなんて言っても元気で明るいだから!」
「やめて、翠!痛々しくて見てられないよ!」
「だって、こうでも言ってないと、しんどいよ。どうしたら」
「翠の気持ちも分かるけど、今回は諦めるしかないよ。噂が広まった以上、あんたも危ないかもしれないんだよ!」
「分かってるけど」
迷惑を沢山かけた。これ以上、かけたくない。そんなの、私が一番知ってる。
「冷静に考えな。いじめられるかもしれないんだよ?翠は、平和主義じゃない。いじめなんかにあえば、耐えられないのは翠の方だよ!それに、あんたとつるんでる、私まで巻き込まるかもしれないんだよ?親友の私より、出会って間もない男子を庇うの?」
正論だ。全て、正しい言葉なのかも。
「そう、だよ、ね。私、ごめん。混乱してたみたい」
「分かってくれれば、良いんだよ」
いつもの優しい顔に戻る愛花ちゃんを見て、これが正解なんだと思った。
だから、私は彼よりも親友を取ってしまった。
「もう大分、暖かいね!」
私の隣で、両手を上げて伸びをしながら話す愛花ちゃんに、そうだねと言う。
家に帰る足取りが、いつもより重い。帰っても居場所何てないのに。
やっとの思いで、家に着き、暗いままの部屋の中で、座り込む。
正解が分からない。どしたらいいのかも、どうしてこんなに苦しいのかも。
諦めるのが、彼の為で、これ以上傷つけたくない。
違うか。傷つけたいんじゃなくて、傷つきたくないだけ。周囲の目を気にしない様にする覚悟がない。
嫌われたくない。これ以上、居場所をなくすのは嫌だ。
「最近、学校はどう?あの変な子とは、関わっていないでしょうね?」
母が唐突に、尋ねてくる。
「関わってない」
冷たく答え、怒りの感情を抑える。
「翠、これはあなたの為なのよ」
こういう時ばかり、母親ずらするなよ。私の為になった物なんて、一つもない。過去もこれからも。
「そうだぞ。翠、お前最近おかしいぞ」
喧嘩付の毎日を、送っているあなたたちの方がおかしい。
「最近、やけに反抗的ね。前までは、良い子だったのに」
それは、ずっと我慢を強いられてきたからだ。どれだけ、辛かったかなんて、この人たちには、到底理解してもらえないだろけど。
「ご馳走様。私、部屋に戻る」
最近、両親と顔を合わせるのが、前にも増して憂鬱だ。
唯一の居場所だと思っていた親友も、自分の事しか考えていなかった。その現実に、誰の事も信用出来なくなる。
次の日学校に行くと、彼の髪の毛と服が濡れていた。男子も女子も関係なく、そんな彼の姿を見て笑ってた。
その光景に恐怖を覚え、一歩踏み出したいのに、足が鎖で繋がれたみたいに動ない。手も小さく震えてしまい、ただただ、その光景を見てるだけしか出来なかった。
お昼休憩、誰も来ない図書室に足を運んでいた。とにかく、人と話したくなかった。
窓を開け、優しい風が吹き、顔にあてる。風と一緒に運ばれる、植物の匂いに、心が浄化されていく。
曇りのない青空が、あまりにも美しすぎて、胸が苦しくなる。
突然、ガラッと扉が開く音がして、咄嗟に物陰に隠れた。扉が閉まり、足音が近づき、誰かがこちらへ来てることを知る。
息を止め、目を強く瞑り、やり過ごそうとしたが、足音は私の前に来て止んだ。
目をゆっくり開け、誰なのかを確認する。
「成瀬くん?」
目の前にいたのは、紛れもなく成瀬くんだった。手に視線を向けると、ノートと筆箱を持っていて、私の横に並んで座る。
「ごめん、私邪魔だよね。出てくね」
誰かに見られるのが怖くなり、その場を立ち去ろうとしたが、彼に手首を掴まれ、私は再び座る。
少しの間、静けさが二人を包んでいたが、先陣を切ってくれたのは成瀬くんの方だった。
ノートには『ごめん』の3文字が書かれていて、頭を下げられた。
「頭を上げて、お願い。成瀬くんは何も悪くないよ。私が全て悪いの。あの時、私が逃げたいなんて言わなければって、ずっと後悔してた。だから、成瀬くんが、自分を責める事なんて一つもない。助けてあげられなくてごめんなさい」
深々と頭を下げ、何度も何度も謝罪の言葉を口にした。
「お願い、こんな私を許さないで。私、成瀬くんのこと、いっぱい傷つけた。私の両親からも罵倒されて、クラスの人たちからも、またいじめの標的にされて、全て私のせい。」
「関わるな」の言葉が、何度も木霊して聞こえてくる。
それだけ伝え、立ち上がろうとすると、ノートを見せられる。
『許す』の短い文字だけが、そこには書かれていた。
「なんで、そんなに、優しい言葉を私なんかにくれるの?」
彼は、優しく微笑むだけだった。
ずるいよ。これじゃあ、いつもみたいに自分を責められない。
どうして、成瀬くんはいつも、私が欲しい言葉をくれるの。
どうして、優しさを与えてくれるの。
すると、唐突にノートを見せられる。
『ねえ、手出して。あげたい物ある』
涙を拭いながら、手を出す。
「うわああ!」
静かな図書室に私の叫び声だけ、響く。
「これ、虫!?」
『正しくは、虫のおもちゃだけど』
私がこの質問をするって分かっていたのか、ページをめくりネタバラシをされる。
相当、私の驚いた顔が面白かったのか、声は出ていないものの、お腹を抱えて笑う彼を見て、自然と笑顔にさせられた。
「あははは!酷いじゃん、騙すなんて!」
笑いを堪えながら、彼はノートに文字を書き始めた。
『やっと、笑った』
彼の言葉に私は、過去の光景が蘇る。でも、そんなまさか、だって彼は、何も告げずに去ってて、それから会えなくなって。
「やっと笑顔になった」
男の子に言われた時の記憶が鮮明に色濃く映る。
「ねえ、成瀬くん、あなたー」
5分前を知らせる予鈴が鳴り、会話は中途半端な所で切れた。
その後の授業は、終始ずっと上の空で、頭に入って来なかった。
学校が終わると、鞄を持ち、そのまま家へ直行した。理由は、あの子との思い出の品を探す為だった。
確か、最後にあの子と会ったのは、私の誕生日の前日の日。その次の日、いつも通りの時間で、公園に行き何時間と待ったが、結局あの子が来ることは無かった。
だから、お別れが言えなかった事が、ずっと心残りだった。
あの頃の男の子が、彼ならとほんの少し期待してしまう。
それぐらい、ずっと会いたい人だから。

