「ミサ、体調は大丈夫?」
次の日、私は学校を休んだ。頭が痛いと母に言うと、私の顔が疲れ切っていたこともあり、母は何も疑わずに学校に休みの連絡を入れてくれた。
体調が悪いのは、本当だった。学校のいつもの教室の景色が脳裏に浮かぶたびに、心臓がぎゅっと締め付けられて、息が苦しくなる。言い訳に使った腹痛もいつの間にか本当になっていた。リコとモモカから向けられた、軽蔑の目。傷ついたように揺れる、ユウナの瞳。
そろそろ授業も終わった頃かと、16時と表示されたスマホのロック画面を見て思う。学校を休んだのは、高校生になってから初めてだった。
いつも行きたくないと思ってはいたけれど、自分が学校に行かない間に、自分以外の人たちが仲良くなって、私が登校する頃には自分の居場所がなくなっているのではないか。そう思ってしまって、少し体調が悪くても学校を休むことはできずにいた。今日だって本当は不安で仕方ない。
私がいない間、みんなが私の悪口を言っているんじゃないかって、そんなことばかり考えて、ベッドの中にいるのに一度も眠れずにいた。
「あ……」
ふとSNSのアプリを開くと、モモカのアイコンが最新投稿として光っていた。画面の上部に並んだモモカのアイコンを押すと、24時間だけ表示される動画が映る。その投稿を見て、息を呑んだ。
『神絵師とカフェ』
そんな文字と一緒に投稿されたのは、カフェでフラペチーノを片手に撮った写真で、写っていたのはモモカとリコと、写真を撮られ慣れていないようなピースを作るユウナだった。じっとその画面を見つめる。楽しそうな表情と、「神絵師」の文字に心がモヤモヤする。
私たちのいないところでリコとモモカが遊んでいることはよくあったけれど、そこにユウナも入っているのは初めてだった。私の悪口を言っているんじゃないかって、想像してしまう。胸の奥の黒い塊が大きくなって、息が苦しくなって、はぁ、とため息をつく。SNSアプリを閉じて、ベッドの上に置いて、天井を見つめていた目を閉じた。
ユウナのことをずっと、下に見ていた。私はモモカやリコより上にはいけないけれど、ユウナより下になることもないと、そう思い込んでいた。だってメイクもしていない、スカートも短くしていない、みんなの話題に加わる努力もしていないユウナに、私が負けるはずがない。
だって私は少ないお小遣いでコスメを買って、スカートのウエストをくるくる折って、それからみんなの会話についていくために流行りのドラマや恋愛リアリティショーを倍速でチェックして、高いカフェの飲み物も買って、それで。
こんなにみんなについていくための努力をしているのだから、なんの努力もしていないユウナよりは、高い位置にいられると、思っていた。そんな自分のことが嫌いになる。私のこの汚い性格を、モモカやリコも見抜いているのかもしれない。
私が明日学校に行ったら、モモカとリコは私と喋ってくれるのだろうか。ユウナは?他のクラスメイトは?私がこのグループに居られなくなった場合、どうしたらいい?他に私を入れてくれるグループはある?
クラスメイトは私のこと、モモカやリコに嫌われてハブられた子だって、思うんだろうか。そんなことを考えては、お腹が痛くて膝を曲げる。
「もう嫌だ……」
全部、自業自得だ。私が人を見下していたから、友達のことをステータスとしか思っていなかったから。私が友達のことを好きだと思っていないのに、みんなが私のことを好きになってくれるなんて、そんな都合のいいことがあるはずなかったのに。
どんなに後悔したって、今の私の状況は変わらない。私以外の3人が、カフェで楽しそうに遊んでいる現場も、何も変わらない。

