アオハルダスト



 「そろそろ夢の国行きたくない?」
 「わかる、行こうよ」
 「行こ。いつがいい?」

 英語の授業が終わった後の、10分休憩。何だか疲れたと思って椅子に座っていたら、モモカとリコのテーブルから話し声が聞こえて、一気に神経を集中させる。

 これは置いて行かれたらダメなやつだ、と直感的に思う。私が入るタイミングは、ここしかない。ここを逃したらモモカとリコのテーマパークの予定は2人で確定して、私は家のベッドの上で2人のSNSを見ることになる。私も行きたいって、言うなら今しかない。

 「ね、ねえ、夢の国行くの!?」

 精一杯口角を上げて、わらって、あかるい顔で。モモカとリコに話しかけると、2人はぎょとした顔で私の方を見て、それから2人で目を合わせて、それからもう一度私の方を見た。

 「あー、うん。行きたいねって。まあ、本当に行けるかわかんないけど」
 「ね、雑談だよ。ただの」
 「でも私行きたい!一緒に行こうよ、3人で!」

 2人の迷惑そうな表情には、気づかないふり。だってここで押さなかったら、どうせ2人で夢の国に行って、楽しそうなSNSを更新して、そうしたらクラスのみんなも、私やユウナは連れて行ってもらえなかったんだなって、思うでしょう。

 私の圧が強かったからか、2人はもう一度目を見合わせて、頷いた。

 「じゃあみんなで行こうか。人数多い方が楽しいかもしれないし」
 「みんな……?」

 私は首を傾げて、少し遠くの自分の席で次の授業の教科書を、机の中から出しているユウナの後ろ姿を見る。

 「そう、ユウナも誘って」

 リコの言葉に、ははっ、と笑う。

 「ユウナは夢の国とかって感じじゃないでしょ。あの格好じゃ浮いちゃうよ。それより3人でおそろコーデしようよ。カチューシャは何にする?私定番のリボンのやつなら持ってるし、新しいの買うのも全然ありだなぁ。モモカとリコはなんでも似合いそうだよね。やっぱ服は制服かなー。せっかくのJKブランドだもんね。ツインテールとかしちゃおっかなぁ」


 そこまで話し終わってから、自分が1人で喋っていたことに気づいて、次の言葉を飲み込む。困惑した顔をしている2人にすら、だんだんと腹が立ってくる。

 「でも、3人でっていうのもね。それならユウナも……」

 本当は2人で行こうとしてたくせに?喉まで出かかった言葉は、リコの綺麗な横顔を見て、口から出せなくなった。私には逆らうことのできない、格上のオーラ。そしてそんな彼女に気にかけられているユウナ。イラストを描いてバズった、私より格下だったはずのクラスメイト。


 「だいたいユウナってオタクなだけじゃん?最近バズって調子乗ってるみたいだけど、あのイラストもなんか気持ち悪いっていうか。メンヘラみたいで無理かも」


 そこまで言ってから、ユウナがこちらを振り返っているのが見えて、はっとする。私、今……。興奮した私の大きな声は、クラス中に聞こえていたらしい。クラスメイトたちの視線を一挙に集めて、頭がさっと冷えていく。

 「……さすがにやめなよ。最近のミサ変だよ。何も頑張ってないくせに、頑張ってるユウナをバカにするのは違うと思う」

 リコの淡々とした言葉はあまりにも正論で、私は言葉を失う。はぁ、はぁ、と浅い呼吸を繰り返して、目の前の景色がぐにゃりと歪む。

 ユウナの傷付いた表情が、脳裏に焼き付く。何も言えなくて、立ち上がることもできなくて、ただ俯いて浅い呼吸を繰り返している私に、クラスメイトたちは次第に興味を失い、各々の会話に戻っていく。

 モモカは「トイレ行ってこよーっと」と言って席を立ち、私はリコと取り残されて、それでもリコの目を見ることができなくて、ただ、ウエスト部分を折ったせいでぐちゃっと皺が寄っているプリーツスカートの紺色を見つめていた。