「ねえ、このイラスト可愛くない?」
いつも通りの昼休み、今日もスマホを見ながらコンビニのメロンパンを食べていたモモカが、持っていたスマホの画面を見せる。みんなでその画面を覗き込んで、あ、と思う。
「昨日私のタイムラインにも流れてきた!」
ちょうど昨日見ていた、宇宙に浮かんでいる女の子のイラストだった。リコは初めて見たようで、「可愛い絵だね」と画面を見つめていた。
「えっ」
おかしな反応をしていたのは、ユウナだった。驚いた顔をして、目線を泳がせている。
「どうしたの、ユウナ」
「あ、いや、ええと……」
「ユウナも知ってる?このイラスト」
「……それ、私が描いた、やつで」
ユウナの言葉に、全員が顔を上げて、少し困った表情をしたユウナを見つめる。私が描いた、って。言葉の意味がよく理解できなくて、『幽霊ちゃん』と書かれたアカウント名と、目の前にいるユウナを交互に見た。
「ええ!?このイラストレーター、ユウナなの!?」
「い、イラストレーターとか本格的なものじゃなくて、ネットに趣味でイラスト載せてるだけ、なんたけど」
「すごいよ!だってこれ、2万いいねだよ!バズってるじゃん」
モモカが興奮したように、その投稿のいいね欄を指差す。昨日の夜私が見た時は1万だったいいねは、もうすぐ2万に到達しそうだった。
「すごいねユウナ、そんな才能があったんだ」
リコも驚いた顔でユウナを見ていて、ユウナは眉を下げてへらりと笑っている。そんな3人から切り離された場所に、自分がいるような気がした。お昼ご飯を囲んだその真ん中に線が引かれて、私と、他の3人が、別々の空間にいるような。そして、いつもはこっち側のくせに、へらへら笑ってあっち側にいるユウナに、無性に腹が立った。
「でも、絵をネットに載せてるってオタクっぽくない?ちょっとイタいんだけど」
私の言葉に、3人が驚いた顔でこちらを見る。やっと別々の空間から同じ空間に入れたような気がして、私は続ける。
「イラストとか陰キャっぽいし、私はモモカみたいにメイク上手い方が憧れるけどなぁ」
これで大丈夫。一瞬私より上に上がろうとしたかもしれないけれど、ユウナは私の下にいればいい。モモカのことも褒めておけば問題ない。これで元通り。
「……え、それは酷くない?」
確かに、わかる、って笑い声が、モモカから返ってくると思っていた。いつも通りみんなで笑って、ユウナは少し困った顔で笑って、それでいつも通りの空気が戻ってくると、思っていた。
実際はリコから思いがけない言葉がブーメランみたいに跳ね返ってきて、動きが止まる。
「普通にすごいと思うけど、ユウナ」
「そうだよ、人が頑張ってるの馬鹿にするのよくないよ」
あまりにも正論なリコとモモカの言葉に、視線を泳がせる。
「いや、だって、ユウナが、」
カッとなって口を開いたものの、その後に何を続けていいか分からず、言葉を失う。2人の冷ややかな視線が私の心臓をさ細く鋭く貫いて、刺さった棘が、ちくちくと痛む。
「……え、他にはどんな絵かいてるの?」
「私も見たーい」
私とのやりとりをなかったことにするかのように、モモカとリコはユウナに向き直る。ユウナも照れながらも嬉しそうに、スマホの画面をスクロールして今まで投稿したイラストを見せている。私だけがまた遠くに切り離されて、その光景を眺める。みんなの楽しそうな声が、ぼんやりと聞こえる。
ああ、失敗した。誰とも目が合わない。モモカとリコがユウナに向ける目が、明らかに今までとは違っていた。きらきらした目で見つめられて、満更でもないように笑っているユウナ。
3人はこの場に私がいないかのように、楽しそうに話している。息が、くるしい。なぜだか瞼が重くなってきて、意識を手放してしまいたくなった。

