アオハルダスト


 昼休み終了のチャイムが鳴ると、何かから解放されたようにほっと、呼吸が緩むのを感じる。授業は眠たくて嫌いだけれど、気を遣って、高速で走る車に振り落とされないように掴まっているような緊張感からは解放されるからだ。

 「じゃあこの3人の会話を……自由に3人組を作って読んでみましょう。席を移動してもいいですよ」

 英語の時間、先生の言葉に心臓がドクンと跳ねる。英語の教科書に載っている3人の会話を読む練習をする時間らしい。授業中の静けさから放たれたように教室がざわざわし始める。

 慌ててモモカの方を見たら、モモカは少し離れた席のリコと目線を合わせて頷いている。言葉なんてなくても当たり前に2人は一緒にグループを組む。真っ先に席を立ち上がって、モモカの席に向かう。

 「モモカ、一緒に組もう」
 「ああ、いいよ。リコもね」

 リコもゆっくりとこちらに移動してきて、3人で教科書を持って集まる。ちらりとユウナの席を見ると、困ったようにこちらを見つめていた。かわいそうに。そう思ったけれど、私はそのまま目を逸らして、モモカたちに向き合う。悲しそうな顔をするユウナの表情が、ちらちらと脳裏に浮かんだ。


 「はぁ……」

 放課後、部活にも入っていない私は授業が終わってすぐ家に帰り、制服のままベッドに転がった。特に何かをしているわけでもないけれど、学校に行った日はひどく疲れる。

 家の匂いに安心して、バッグからスマホを取り出して、無意識の動きでSNSアプリのアイコンをタップした。スマホの画面にパッと広がる、楽しそうな人たちの写真。24時間以内に消える、今何をしているかという投稿を次々と見ながら、思わず手を止めた。え、と声が漏れる。

 そこに写っていたのは、モモカとリコのツーショット。「行きたかったカフェ」という文字とともに投稿されたそれは、ちょうど30分前のもので、今頃2人でカフェに行っているのだということがわかる。それを理解した瞬間ずんと心が重くなって、深い泥の中にずるりと沈んでいく感覚に陥る。


 モモカとリコが、2人だけで遊んでいるのはよくあることだ。それでも毎回、自分のいないところで2人が遊んでいることを知るたびに、体が鉛のように動かなくなる。

 彼女たちは入学前からSNSで知り合っていて、モモカが「可愛いなと思って見てたの、友達になろう」と声をかけたのがきっかけで仲良くなったと聞いた。完成していた2人の中に無理やり入り込んだのは私だ。

 入学式の日、思った以上に事前にSNSを通じて仲良くなっていたクラスメイトに、事前にSNSで友達作りをしていなかった私は、このままでは友達ができないと焦っていた。そんな私を2人の中に入れてくれているのだから、彼女たちは優しいのかもしれない。

 拒否されないだけマシ、私より下のユウナよりはマシ、と自分に言い聞かせているけれど、モモカやリコが本当は私のことをどう思っているのか、心配になる時はある。本当は2人でいたいのに鬱陶しい、と思われているのではないか。そう思ってしまうのは、どことなくそういう空気を感じたことがあるから、なのかもしれない。


 暗い気持ちでSNSの画面をスクロールしていると、1件のイラストの投稿が目に入る。制服を着た女の子が、宇宙の中で星に座って浮かんでいるイラスト。ポップな設定と可愛い作風とは裏腹に、女の子が悲しげな表情をしているのが印象的だった。

 『星屑みたいな青春』と書かれた投稿文も目を惹いた。

 そのタイトルを見てから改めてイラストに目を移すと、女の子が座っている星は、五角形のイラストによくあるそれではなく、灰色で、クレーターまみれのリアルな星だった。

 星屑みたいな、というのは、クレーターまみれで、自ら光を発することもできない、という意味なのだろうか。そんなことを考えながら、何気なくその投稿にいいねを押す。何だか、私の今と同じ息苦しさを、この女の子も抱えているような気がした。

 作者の名前が見たくて投稿主のアカウントに飛ぶと、アカウント名には『幽霊ちゃん』と描いてあった。自己紹介文には高校生と書いてあって、自分と同じくらいの年齢の人が、こんなに上手なイラストが描けるのかと驚く。よく見るとイラストの投稿には1万いいねがついていて、いわゆるバズっているというやつだ。

 そのままSNSのアプリを閉じて、目を閉じる。それからすぐに気になってもう一度SNSを開いて、モモカとリコの投稿を見た。さっきはツーショットの投稿だったけれど、次はフルーツのたくさん乗ったお洒落なフルーツティーが2つ並ぶ画像が投稿されている。

 投稿時間の欄に「たった今」と書かれているのを見て、しまったと思った。この投稿は、誰がその投稿を見たのかが投稿者にわかるようになっている。私が投稿された直後にこの投稿を見てしまったら、2人で出かけているのをすごく気にしていたみたいだ。実際そうなのだけれど、2人にそう思われるのは決まりが悪い。

 後悔しても遅いので、もう一度その投稿を見ると、この前の昼休みに話題に出ていたカフェだということがわかった。可愛いカフェを見つけたとリコが写真を見せてくれたので、私が「今度4人で行こうよ」と誘った場所だった。そうか、2人で行ったのか。今度一緒に行こうと言った口約束なんて忘れているのだろうけれど、しっかり心はヒリヒリするから厄介だ。