昼休みの教室は騒がしくて、お弁当の匂いが充満していて、そして私はいつも、少し息が苦しい。
「ミサのお弁当っていつも美味しそうだよね。私のお母さんお弁当あんまり作ってくれないから羨ましいよ」
私の机に広がるお弁当箱を見て、モモカが言う。モモカはいつもコンビニのパンか購買のお弁当を食べているけれど、モモカがそうしているというだけで、コンビニのパンが正解な気がしてくる。毎朝親にお弁当を作ってもらっているのはダサいんじゃないかって、そんな気になってくるから不思議だ。
今日も、いつも一緒に過ごしている4人でお昼ご飯を食べている。モモカとリコと、ユウナ。私たちの関係は友達といえば友達だけれど、本当の友達かと聞かれれば答えに困る。
「え、このネイルチップ可愛い。買おうかな」
右手にスマホ、左手にコンビニの惣菜パンを持ってスマホの画面を眺めていたモモカが、ふと手を止める。モモカは毎日綺麗にふわふわと巻かれた茶色い髪を、耳にかける。見せられた画面に映るきらきらしたネイルチップを見て、私は脊髄反射のように「可愛い〜」と同意した。
「リコもこういうの似合いそうだよね」
モモカが、リコの方を見て言う。リコは「ええ、そうかな」と笑う。黒髪ストレートの髪なのに芋っぽくなくてむしろ綺麗なのは、リコの顔が整っているからだ。私はまた、脊髄反射のように「似合いそう〜」と声を上げる。
こういう時、モモカは「ミサも似合いそう」とは絶対に言わない。モモカとリコはクラスでも可愛くて目立つ存在で、私やユウナはそうでないからだ。モモカとリコには敵わないけれど、私は1番下ではないからまだマシだ、といつも自分に言い聞かせている。
「ユウナって、ネイルチップとか付けたことあるの?」
私が話を振ると、皆の視線が私の隣で静かにお弁当を食べていたユウナに移る。ユウナは驚いたように少し視線を泳がせて、それから「ない」と首を振る。
「ユウナはそういうキャラじゃないもんね」
私が追い討ちをかけるように言うと、ユウナはへらりと眉を下げて笑った。
「あ、でも、そういうの作るのって楽しそうだな、とは思うよ!」
慌てたように、少し声を大きくするユウナに、モモカとリコが顔を見合わせる。
「作る、とかは考えたことなかったね」
「まあそういう感想もあるか」
あーあ。無理して会話に入ろうとするから、ズレたこと言って。黙っておけばいいのに。私は心の中でそう思いながら、決まり悪そうに俯くユウナを一瞥する。染めたことのない黒い髪は艶がなくて、寝癖を直しきれなかったのか右耳のあたりが跳ねていた。
私とユウナは、同じ中学校からこの高校に進学した。高校に入ってすぐ、友達が欲しかった私は前の席に座っているリコに話しかけた。リコは入学前からSNSでモモカと繋がっていて、元々私と友達だったユウナも含め、自然と4人で過ごすようになった。
もうすぐ夏がくる。クラスの中でのグループも固まりつつあって、少なくともこの1年は、この4人でうまくやって行くしかないのだろうと思っている。モモカとリコには私がいなくても問題ないだろうけれど、私は彼女たちを失うわけにはいかなかった。
モモカとリコは可愛くて派手だから目立つ。目立つ2人を含む私たちのグループは、他の女子グループからは少し遠巻きに、そして羨望の目で見られている感覚があった。
いつも、4人でお昼ご飯を食べようと誘うのは私だった。4時間目終了のチャイムが鳴ると、モモカはリコの机に向かう。2人でお昼を食べ始める中に、私とユウナが「一緒に食べていい?」と入っていく。そんな私とユウナのことを、他のクラスメイトがどう思っているのかは、わからない。
私たちは入学早々「モリミユ」という名前のLINEグループを作った。モモカとリコとミサとユウナ、全員の頭文字を並べただけの名前のついたそのグループに、通知を鳴らすのもいつも私だ。おそらくモモカとリコは個別チャットでやりとりをしているのだろうと想像はつくけれど、その真意を確かめたことはない。
「モリミユ」のチャットを開くと、一昨日の夜に私が「明日の体育って何やるんだっけ?」と聞いたものに、ユウナが「サッカーだよ!」と返信、私がゆるいイラストのうさぎが「ありがとう」と言っているスタンプを送ったところで終わっている。既読は3。
いじめられたり、無視されたり、そういうことはないけれど、このじわじわとした居場所のなさが私の首を真綿で締める。いつだって少しだけ酸素が薄くて、息が、しづらい。
モモカとリコが楽しそうに2人で笑っているのを遠くから見るたびに、心臓の上に鉛が乗ったように重くなり、目を閉じてそのまま眠ってしまいたくなるのだった。

