好きな人の好きな人を好きな人

 僕たちはどんな関係なんだろう。
 友だち。同じ部の仲間。共犯者。
 どれでもあるし、どれでもない。
 一言で表すことなんてできない。

 ちゃんと言うなら、こうだろう。
 好きな人の好きな人を好きな人。

 いま文芸部の部室には、四人の部員がいる。

 入り口から向かって左奥に僕・前島環が座っている。
 少し前までは文芸部だけに入っていたけれど、最近サッカー部との兼部を始めた。

 その僕は、前の席につく奥津くらら先輩を見ている。

 くらら先輩は『カワイイ』先輩だ。
 一言でいえば天使。
 時折心の般若が顔を覗かせるけど、うるさい、誰が何と言おうと天使。

 くらら先輩は、隣に座る北守怜先輩と向き合い雑談をしている。

 怜先輩は銀縁メガネのクール系男子。
 飄々とマイペースで、周囲の喧騒にも陰謀にも冷戦にも我関せず。
 と思いきや、実はすべてを承知している恐ろしい人。

 そんな怜先輩の横顔を、西町英梨さんは向かいの席から見ている。

 西町さんはヒロインみたいな人だ。
 色素の薄い髪と肌。切れ長の目。スラリと伸びる高身長。『カワイイ』より『キレイ』な人。

 僕たちはみんな好きな人を見ている。
 僕はくらら先輩を。くらら先輩と怜先輩はお互いを。西町さんは怜先輩を。

 好きな人の好きな人を好きな人。
 それは隣の席に座る人。
 僕にとっては西町さんで、西町さんにとっては僕だ。

 三角形は、調和のとれた形だ。
 三脚の机は、脚の長さが少しくらい違ってもゆらがない。
 でも四脚の机は、少しでも脚の長さが違えばすぐに揺らいでしまう。

 三角関係はシンプルで揺るがない。
 辛く苦しくはあっても安定している。
 でも、四角関係はそうもいかない。

 揺らいで、揺らいで、戻って、揺らいで。
 いつかの破綻に向けて、僕たちはずっと揺らいでいる。

「あ」

 足を組み替える拍子に、西町さんが膝を机にぶつける。
 ガタつくお古の机が揺らぎ、彼女のペンが床に落ちる。

 左利きの西町さんは、いつもペンを左手側に置く。
 僕の座っているほうだ。

 落ちたペンは、僕と西町さんの席の真ん中にまで転がった。

 拾ってあげようと、椅子を引き手を伸ばす。
 と、同じく拾おうとしていた西町さんと手が触れあった。

「ありがと」

 二人きりの机の下で、西町さんは僕に笑いかけた。

 西町さんはヒロインみたいな人だ。
 でもヒロインじゃない。
 少なくとも、今までの僕にとっては。