僕たちはどんな関係なんだろう。
 友だち。同じ部の仲間。共犯者。
 どれでもあるし、どれでもない。
 一言で表すことなんてできない。

 ちゃんと言うなら、こうだろう。
 好きな人の好きな人を好きな人。

 いま文芸部の部室には、四人の部員がいる。

 入り口から向かって左奥に僕・前島(まえじま)(たまき)が座っている。
 少し前までは文芸部だけに入っていたけれど、最近サッカー部との兼部を始めた。
 運動はしているけれど体格には恵まれず、顔立ちもいかつくないので、文芸部のほうが似あっていると、人にはよくいわれる。

 その僕は、前の席につく二年生の奥津(おきつ)くらら先輩を見ている。

 くらら先輩は『カワイイ』先輩だ。
 サイドでくくった大人っぽい髪型と、大きな目の幼い顔立ちのギャップ。
 後輩に見せる優しさと面倒見のよさ。天真爛漫な笑顔。一言でいえば天使。
 そして何より、先輩は他の誰にもない唯一無二の才能を持っている。

 くらら先輩は、隣に座る北守(きたもり)(れい)先輩と向き合い雑談をしている。

 怜先輩は銀縁メガネのクール系男子。
 物静かで知的、でも冷たい人じゃない。僕たち後輩のことをいつも気にかけてくれるお兄さんみたいだ人。
 その怜先輩も、くらら先輩に負けず劣らずの特異な才能を持っている。

 そんな怜先輩の横顔を、一年生の西町(にしまち)英梨(えり)さんは向かいの席から見ている。

 西町さんはヒロインみたいな人だ。
 色素の薄い髪と肌。切れ長の目。スラリと伸びる高身長。『カワイイ』より『キレイ』な人。
 クラスでは孤高をつらぬく高嶺の花。物語のヒロインみたいな境遇にいる人だ。

 僕たちはみんな好きな人を見ている。
 僕はくらら先輩を。くらら先輩と怜先輩はお互いを。西町さんは怜先輩を。

 好きな人の好きな人を好きな人。
 それは隣の席に座る人。
 僕にとっては西町さんで、西町さんにとっては僕だ。

 三角形は、調和のとれた形だ。
 三脚の机は、脚の長さが少しくらい違ってもゆらがない。
 でも四脚の机は、少しでも脚の長さが違えばすぐに揺らいでしまう。

 三角関係はシンプルで揺るがない。
 辛く苦しくはあっても安定している。
 でも、四角関係はそうもいかない。

 揺らいで、揺らいで、戻って、揺らいで。
 いつかの破綻に向けて、僕たちはずっと揺らいでいる。

 最初はもっと調和がとれていた。
 何も知らない僕にとって、文芸部は心安らぐ居場所だった。
 お互いを知ることで、僕たちは動き始めてしまった。

 始まりは、ゴールデン・ウィーク明けのとある放課後からだった。