「あっつ」
開口一番の言葉が、それだった。私は、ぱたぱたと自分の手で顔を仰ぐ天黎に同意するようにうなずく。昇降口を出るまでずっと何かを考えるように無言だった天黎。少し心配していたのだが、普通に言葉を出してくれてほっとした。
「もうすぐ夏休みだもんねー」
私もそう返し、ぱたぱたと仰いでみた。でも、たいして風も来ないし涼しくなるわけでもない。手に提げているお弁当袋の中から、ハンディーファンと冷却シートを取り出す。
「天黎、これ後で使う?」
冷却シートを振りながら天黎に問いかけると、天黎はちらりとこちらを見て、頷いた。
「灯鞠は女子力高いねぇ」
「お姉ちゃんが入れてくれたんだ。女子力高いのはお姉ちゃんのほう」
私には、姉が二人と、母と父、ペットのトイプードルがいる。上の姉はもう社会人。働きに出て、時々仕送りと称してお菓子や服を送ってくれる。下の姉はまだ大学生で、家から大学へ通っている。割と東京に近いこの地域からなら、電車で通えるのだ。二人とも私の世話をよくしてくれて、私たちは仲良し三姉妹と呼ばれていた。
そんな下の姉だが、たまにお弁当を作ってくれたり、持って行ったほうがいいものを教えてくれる。高校生の妹にしては過保護すぎる気もするが、それで助かっていることも多々あるので正直にうれしいと思う。
「灯鞠のお姉さん、優しいよね。初めて家にお邪魔した時も、にこにこして迎えてくれて」
「二人とも、年下の子が好きなんだよね。世話焼きなの」
「でも、それが嬉しいんでしょ?」
「うん!」
笑いながらうなずくと、天黎は少し力が入らない笑みで、「そっか」と言ってくれた。裏庭に差し掛かると、あっ、という声が聞こえた。私は少し早歩きで、裏庭の入口に立つ。立ち上がってこっちを見ている知らない人と、その人の隣でお弁当を広げている涼風くんが、目に入る。
「ねえねえ、透海。あの子が夜見さん?」
少し毛先が跳ねている色素が抜けた茶色の髪。少し大きめの瞳には、きらきらとした光が宿っている。私は裏庭に歩いて行く。そして、少し離れたところで、その人に向けてお辞儀をした。
「こんにちは。夜見灯鞠です」
私が名乗ると、その人はにっこりと笑った。人懐っこい笑みで、明るい人なんだな、とすぐにわかった。手をこちらに差し出して、
「こんにちは。僕は一条光海。光る海って書いて、光海だよ。僕のことは気軽に光海って呼んで。あ、灯鞠ちゃんって、呼んでもいいかな?」
「え、えっと」
いろいろなことを言われて混乱する頭の中で、男の人ってこんなに軽いっけ? と不思議に思った。普通の人なら苗字呼びが普通な気がするけど、一条くんは違うのだろうか。私が立ち尽くしていると、とん、とん、と踏み固められた地面を踏む音が近づいてくる。
「光海、灯鞠が困ってる。一気にまくし立てる癖やめなって。っていうか、また口説こうとしてんの?」
ざっ、と大きな音を立てて、天黎が私の隣に立つ。そして、一条くんをきっとにらみつけた。一条くんは差し出した手を引っ込めようとはせずに、困ったように天黎を見下ろす。そこで、一条くんが涼風くんと同じで背が高いことがわかった。
「月守。お前、なんか俺に冷たくない? さすがに気にするんだけど」
「別にいいでしょ。光海、灯鞠には猫被んなくていいから。本音で接したほうが、灯鞠にとって楽だから。……灯鞠、私こいつのこと知ってた」
「へ?」
私はぱちぱちと目を瞬かせる。一条くんの一人称が僕じゃなくて俺に代わっていること、天黎のことを名字呼び捨てで呼んでいること、天黎がきつめに当たること。それらを理解して、再び混乱に襲われた。私は一条くんと同じクラスになったことがないし、ずっと一緒のクラスの天黎も、一緒になったことがあるはずはないのだ。
私の混乱を読み取ってか、はぁ、と天黎はため息をつく。そして私の頭をぽん、ぽんとたたいた。私は思わず目を細めてへらっと笑ってしまう。そんな私を見て困ったように笑いながら、天黎は説明してくれる。
「幼稚園からの腐れ縁でね。お母さん同士が仲いいから、昔はよく遊んでた。さっきは光海がごめん。こいつ、初対面の人には猫被るの。よほど打ち解けた人じゃないと本音で接そうとしないんだよね」
やっぱり少し口調がきつい。私が苦笑を浮かべると、一条くんは不機嫌そうに目を細めた。
「月守、マジで俺に冷たくない? なんで?」
「よせよ、光海。夜見さんと月守さんが困るだろ。夜見さん、光海が突然ごめんね。月守さん、こうして話すのは初めてかな?」
にらみ合いを始めそうな一条くんのシャツの裾を掴んで一歩後ろに下がらせながら、涼風くんは私に謝ってきた。そして、笑顔で天黎に挨拶をした。一条くんは意外とすんなり天黎から離れて、というより天黎から逃げるように涼風くんの近く、私の正面に立った。天黎は涼風くんに向かって頷く。
「えっと……とりあえず、座らない?」
私は三人の顔を見渡しながら、そう提案した。涼風くんが頷いて、先ほど座っていた場所に腰を下ろした。一条くんは、涼風くんと同じベンチに座った。私がどこに座ろうかと考えていると、一条くんが隣のベンチをとん、とたたいた。
「灯鞠ちゃん、良ければここに座ってよ」
「あ、うん、ありがと」
私は促されるがままに座る。私の隣には当然のように天黎が座った。みんなでお弁当を広げて、しばらくの間は黙って食べ進めた。私が黙っていたのは、天黎と一条くんの間のピリピリした空気に気圧されていたのと、話題が思いつかなかったから、そしてお弁当を食べるためだった。遠くから、グラウンドで何かをしている人たちの声や、吹奏楽部の練習の音、剣道部の竹刀の音が聞こえる。
「……改めて紹介させてもらってもいいかな」
沈黙を破ったのは、やはり涼風くんだった。彼はもうすでに食べ終わっていて、私たちの様子をうかがいながら声をかけてくれたようだった。私はご飯を食みながら、頷いた。天黎も静かに涼風くんを見返す。
「こちらは一条光海。僕と同じテニス部で、親友だ」
短い紹介だったが、そこには涼風くんからの確かな信頼が込められているように感じた。一条くんは唐揚げを飲み込んだ後、私に向けて微笑んだ。
「月守に猫の皮剝がされちゃったから、まあ本音で接することにするけど……俺と透海は同じ海って漢字が入ってるだろ? そこから友達になって、今はいい相棒さ」
「相棒?」
親友っていうのはわかるけど、相棒っていうのは何だろう。何かを一緒にやっているのか。一条くんの言葉に首をかしげると、涼風くんが恥ずかしそうに頭をかいた。
「僕たちは二人でダブルスをやっているんだ」
「俺たちが組むと、結構強いんだぜ?」
顔を見合わせ、にやりと笑う。涼風くんのそのしぐさは、教室で見せるのとも、裏庭で見せるのとも違う、新たな一面を見せてくれる。本当にお互いのことが好きで、お互いのことを大切に思っているのがよく伝わってきて、なんだか眩しく感じられる。
「二人とも、仲いいんだね。私と灯鞠みたい」
ぼそり、と天黎がつぶやく。天黎は先ほどから地面のほうばかりを見ていた。何かあるのかと視線を向けても何もない。私は天黎の脇腹をトン、とつついて、微笑みかける。天黎が私をぼんやりと見返す。
「私たちは文芸部だから、相棒とかはないけど……」
涼風くんと一条くんがこちらを向いた。涼風くんが驚いたように目を見開いている。一条くんもなぜか感心するようにうなずいていた。何にそんなに驚いているのかがわからなくて、一度口を閉じる。気まずくなって目の前の桜の木を見上げていると、一条くんがすごいな、と声を漏らした。私は再び視線を戻す。
「灯鞠ちゃん、文芸部だったんだ。……ってことは、月守も? マジ?」
感心した様子からは一変して、不可解そうな面持ちになった一条くんに、私はこくりとうなずいた。そして、天黎と向き合って、まだぼんやりしてる天黎の手を取る。
「天黎とはちっちゃいころからずっと一緒だもん。天黎と私も、負けないくらい仲がいいよね?」
最後の部分だけ、こそっと囁くようにして言うと、天黎ははっとしたように目を見開いて、次いで頭をかいた。そして、ため息。天黎は頭を振ると、ぐっとこぶしを握り締めた。
「あー、もう……私だけ余計な心配して、疲れてバカみたい……」
ぼそぼそとつぶやいて、もう一度ため息をつくと、男子二人のほうを見て、にやりと笑って見せた。その笑顔はいつもの天黎の笑顔で、私はほっとした。
「そうね、悪いけど、私と灯鞠の仲は、涼風と光海のより断然いいから!」
それを聞いた途端、反抗心を燃やしたかのように、一条くんの瞳が煌めいた。
「へぇ……今度それ確かめに、どこか遊びにでも行くか?」
「さらっと誘うの気障すぎてムカつくけど……」
天黎に張り合うような一条くんの言葉にふふっと笑っていたら、天黎が顔をしかめながら、きつい一言を浴びせた。しかし、肩をすくめて、私に向けてにっこりとほほ笑んだ。そこにいたずらっぽいものを見つける。
「いいんじゃない? ちょうど夏休みだし。ねえ、灯鞠?」
私はうなずいて、一条くんににっこりとほほ笑みかけた。
「夏休み遊びたいと思ってたし、いいんじゃないかな」
そこでふと思いついて、挑戦的な笑みを浮かべてみる。鏡を見てないし、普段はこういう笑い方をしないから、うまくできているかわからないけど。
「ふふ、負けないからね?」
「へえ、言うじゃん、夜見さん」
私の挑発に涼風くんが反応し、唇の端を吊り上げるようにして笑う。一条くんもその言葉を聞いてぐっと胸を張って、腰に手を当てる。
「俺と透海の仲に勝てるやつはいない! なんてな」
一条くんがみんなを笑わせるようにふるまい、それに天黎も含めて三人とも笑う。みんなの笑いが収まったあたりで、時間を確認する。まだ昼休みの時間は残っている。三人の顔色をうかがいながら、
「もし皆行く気があるなら、もう日時とか行く場所とか、決めておく?」
私が提案すると、三人が少し考えこんだ後に、ほぼ同時に頷いた。
「僕も行ってみたいな」
「俺、どっかテーマパークに行きたい!」
「遊園地あるよね? あそこにする?」
「いいね、行ってみたい!」
話が展開され、予定を決める流れになる。遊びの予定を立てる時が、私はかなり好きだ。四人で顔を突き合わせて、残りの昼休みの時間いっぱいを使って、遊園地に行く日程を決めた。
家に帰ってお母さんとお父さんにその話をすると、気を付けてね、と言われた。お姉ちゃんは、お土産を買ってきて~! と言ってきた。みんな遊ぶことには反対していないようで、ほっとした。みんなで作ったRUINのグループトークに、行ける旨を送った。天黎も、一条くんも、そして涼風くんも、皆行けるようだった。
開口一番の言葉が、それだった。私は、ぱたぱたと自分の手で顔を仰ぐ天黎に同意するようにうなずく。昇降口を出るまでずっと何かを考えるように無言だった天黎。少し心配していたのだが、普通に言葉を出してくれてほっとした。
「もうすぐ夏休みだもんねー」
私もそう返し、ぱたぱたと仰いでみた。でも、たいして風も来ないし涼しくなるわけでもない。手に提げているお弁当袋の中から、ハンディーファンと冷却シートを取り出す。
「天黎、これ後で使う?」
冷却シートを振りながら天黎に問いかけると、天黎はちらりとこちらを見て、頷いた。
「灯鞠は女子力高いねぇ」
「お姉ちゃんが入れてくれたんだ。女子力高いのはお姉ちゃんのほう」
私には、姉が二人と、母と父、ペットのトイプードルがいる。上の姉はもう社会人。働きに出て、時々仕送りと称してお菓子や服を送ってくれる。下の姉はまだ大学生で、家から大学へ通っている。割と東京に近いこの地域からなら、電車で通えるのだ。二人とも私の世話をよくしてくれて、私たちは仲良し三姉妹と呼ばれていた。
そんな下の姉だが、たまにお弁当を作ってくれたり、持って行ったほうがいいものを教えてくれる。高校生の妹にしては過保護すぎる気もするが、それで助かっていることも多々あるので正直にうれしいと思う。
「灯鞠のお姉さん、優しいよね。初めて家にお邪魔した時も、にこにこして迎えてくれて」
「二人とも、年下の子が好きなんだよね。世話焼きなの」
「でも、それが嬉しいんでしょ?」
「うん!」
笑いながらうなずくと、天黎は少し力が入らない笑みで、「そっか」と言ってくれた。裏庭に差し掛かると、あっ、という声が聞こえた。私は少し早歩きで、裏庭の入口に立つ。立ち上がってこっちを見ている知らない人と、その人の隣でお弁当を広げている涼風くんが、目に入る。
「ねえねえ、透海。あの子が夜見さん?」
少し毛先が跳ねている色素が抜けた茶色の髪。少し大きめの瞳には、きらきらとした光が宿っている。私は裏庭に歩いて行く。そして、少し離れたところで、その人に向けてお辞儀をした。
「こんにちは。夜見灯鞠です」
私が名乗ると、その人はにっこりと笑った。人懐っこい笑みで、明るい人なんだな、とすぐにわかった。手をこちらに差し出して、
「こんにちは。僕は一条光海。光る海って書いて、光海だよ。僕のことは気軽に光海って呼んで。あ、灯鞠ちゃんって、呼んでもいいかな?」
「え、えっと」
いろいろなことを言われて混乱する頭の中で、男の人ってこんなに軽いっけ? と不思議に思った。普通の人なら苗字呼びが普通な気がするけど、一条くんは違うのだろうか。私が立ち尽くしていると、とん、とん、と踏み固められた地面を踏む音が近づいてくる。
「光海、灯鞠が困ってる。一気にまくし立てる癖やめなって。っていうか、また口説こうとしてんの?」
ざっ、と大きな音を立てて、天黎が私の隣に立つ。そして、一条くんをきっとにらみつけた。一条くんは差し出した手を引っ込めようとはせずに、困ったように天黎を見下ろす。そこで、一条くんが涼風くんと同じで背が高いことがわかった。
「月守。お前、なんか俺に冷たくない? さすがに気にするんだけど」
「別にいいでしょ。光海、灯鞠には猫被んなくていいから。本音で接したほうが、灯鞠にとって楽だから。……灯鞠、私こいつのこと知ってた」
「へ?」
私はぱちぱちと目を瞬かせる。一条くんの一人称が僕じゃなくて俺に代わっていること、天黎のことを名字呼び捨てで呼んでいること、天黎がきつめに当たること。それらを理解して、再び混乱に襲われた。私は一条くんと同じクラスになったことがないし、ずっと一緒のクラスの天黎も、一緒になったことがあるはずはないのだ。
私の混乱を読み取ってか、はぁ、と天黎はため息をつく。そして私の頭をぽん、ぽんとたたいた。私は思わず目を細めてへらっと笑ってしまう。そんな私を見て困ったように笑いながら、天黎は説明してくれる。
「幼稚園からの腐れ縁でね。お母さん同士が仲いいから、昔はよく遊んでた。さっきは光海がごめん。こいつ、初対面の人には猫被るの。よほど打ち解けた人じゃないと本音で接そうとしないんだよね」
やっぱり少し口調がきつい。私が苦笑を浮かべると、一条くんは不機嫌そうに目を細めた。
「月守、マジで俺に冷たくない? なんで?」
「よせよ、光海。夜見さんと月守さんが困るだろ。夜見さん、光海が突然ごめんね。月守さん、こうして話すのは初めてかな?」
にらみ合いを始めそうな一条くんのシャツの裾を掴んで一歩後ろに下がらせながら、涼風くんは私に謝ってきた。そして、笑顔で天黎に挨拶をした。一条くんは意外とすんなり天黎から離れて、というより天黎から逃げるように涼風くんの近く、私の正面に立った。天黎は涼風くんに向かって頷く。
「えっと……とりあえず、座らない?」
私は三人の顔を見渡しながら、そう提案した。涼風くんが頷いて、先ほど座っていた場所に腰を下ろした。一条くんは、涼風くんと同じベンチに座った。私がどこに座ろうかと考えていると、一条くんが隣のベンチをとん、とたたいた。
「灯鞠ちゃん、良ければここに座ってよ」
「あ、うん、ありがと」
私は促されるがままに座る。私の隣には当然のように天黎が座った。みんなでお弁当を広げて、しばらくの間は黙って食べ進めた。私が黙っていたのは、天黎と一条くんの間のピリピリした空気に気圧されていたのと、話題が思いつかなかったから、そしてお弁当を食べるためだった。遠くから、グラウンドで何かをしている人たちの声や、吹奏楽部の練習の音、剣道部の竹刀の音が聞こえる。
「……改めて紹介させてもらってもいいかな」
沈黙を破ったのは、やはり涼風くんだった。彼はもうすでに食べ終わっていて、私たちの様子をうかがいながら声をかけてくれたようだった。私はご飯を食みながら、頷いた。天黎も静かに涼風くんを見返す。
「こちらは一条光海。僕と同じテニス部で、親友だ」
短い紹介だったが、そこには涼風くんからの確かな信頼が込められているように感じた。一条くんは唐揚げを飲み込んだ後、私に向けて微笑んだ。
「月守に猫の皮剝がされちゃったから、まあ本音で接することにするけど……俺と透海は同じ海って漢字が入ってるだろ? そこから友達になって、今はいい相棒さ」
「相棒?」
親友っていうのはわかるけど、相棒っていうのは何だろう。何かを一緒にやっているのか。一条くんの言葉に首をかしげると、涼風くんが恥ずかしそうに頭をかいた。
「僕たちは二人でダブルスをやっているんだ」
「俺たちが組むと、結構強いんだぜ?」
顔を見合わせ、にやりと笑う。涼風くんのそのしぐさは、教室で見せるのとも、裏庭で見せるのとも違う、新たな一面を見せてくれる。本当にお互いのことが好きで、お互いのことを大切に思っているのがよく伝わってきて、なんだか眩しく感じられる。
「二人とも、仲いいんだね。私と灯鞠みたい」
ぼそり、と天黎がつぶやく。天黎は先ほどから地面のほうばかりを見ていた。何かあるのかと視線を向けても何もない。私は天黎の脇腹をトン、とつついて、微笑みかける。天黎が私をぼんやりと見返す。
「私たちは文芸部だから、相棒とかはないけど……」
涼風くんと一条くんがこちらを向いた。涼風くんが驚いたように目を見開いている。一条くんもなぜか感心するようにうなずいていた。何にそんなに驚いているのかがわからなくて、一度口を閉じる。気まずくなって目の前の桜の木を見上げていると、一条くんがすごいな、と声を漏らした。私は再び視線を戻す。
「灯鞠ちゃん、文芸部だったんだ。……ってことは、月守も? マジ?」
感心した様子からは一変して、不可解そうな面持ちになった一条くんに、私はこくりとうなずいた。そして、天黎と向き合って、まだぼんやりしてる天黎の手を取る。
「天黎とはちっちゃいころからずっと一緒だもん。天黎と私も、負けないくらい仲がいいよね?」
最後の部分だけ、こそっと囁くようにして言うと、天黎ははっとしたように目を見開いて、次いで頭をかいた。そして、ため息。天黎は頭を振ると、ぐっとこぶしを握り締めた。
「あー、もう……私だけ余計な心配して、疲れてバカみたい……」
ぼそぼそとつぶやいて、もう一度ため息をつくと、男子二人のほうを見て、にやりと笑って見せた。その笑顔はいつもの天黎の笑顔で、私はほっとした。
「そうね、悪いけど、私と灯鞠の仲は、涼風と光海のより断然いいから!」
それを聞いた途端、反抗心を燃やしたかのように、一条くんの瞳が煌めいた。
「へぇ……今度それ確かめに、どこか遊びにでも行くか?」
「さらっと誘うの気障すぎてムカつくけど……」
天黎に張り合うような一条くんの言葉にふふっと笑っていたら、天黎が顔をしかめながら、きつい一言を浴びせた。しかし、肩をすくめて、私に向けてにっこりとほほ笑んだ。そこにいたずらっぽいものを見つける。
「いいんじゃない? ちょうど夏休みだし。ねえ、灯鞠?」
私はうなずいて、一条くんににっこりとほほ笑みかけた。
「夏休み遊びたいと思ってたし、いいんじゃないかな」
そこでふと思いついて、挑戦的な笑みを浮かべてみる。鏡を見てないし、普段はこういう笑い方をしないから、うまくできているかわからないけど。
「ふふ、負けないからね?」
「へえ、言うじゃん、夜見さん」
私の挑発に涼風くんが反応し、唇の端を吊り上げるようにして笑う。一条くんもその言葉を聞いてぐっと胸を張って、腰に手を当てる。
「俺と透海の仲に勝てるやつはいない! なんてな」
一条くんがみんなを笑わせるようにふるまい、それに天黎も含めて三人とも笑う。みんなの笑いが収まったあたりで、時間を確認する。まだ昼休みの時間は残っている。三人の顔色をうかがいながら、
「もし皆行く気があるなら、もう日時とか行く場所とか、決めておく?」
私が提案すると、三人が少し考えこんだ後に、ほぼ同時に頷いた。
「僕も行ってみたいな」
「俺、どっかテーマパークに行きたい!」
「遊園地あるよね? あそこにする?」
「いいね、行ってみたい!」
話が展開され、予定を決める流れになる。遊びの予定を立てる時が、私はかなり好きだ。四人で顔を突き合わせて、残りの昼休みの時間いっぱいを使って、遊園地に行く日程を決めた。
家に帰ってお母さんとお父さんにその話をすると、気を付けてね、と言われた。お姉ちゃんは、お土産を買ってきて~! と言ってきた。みんな遊ぶことには反対していないようで、ほっとした。みんなで作ったRUINのグループトークに、行ける旨を送った。天黎も、一条くんも、そして涼風くんも、皆行けるようだった。



