「ねえ、そういえば、私、涼風と話したこと無くない?」
そう天黎に聞かれたのは、もうそろそろ夏休みに入るくらいの時期の、朝のことだった。私と天黎は早めに登校しているから、まだ教室の中の人影はまばらだ。涼風くんの姿も、当然見当たらない。それでも無意識に彼の姿を探してから、私はうなずく。
「そうだね。天黎って、結構交友関係広そうに見えるけど、涼風くんとか、そういう人気の人は避けてるよね?」
「いやあ、変な噂立つと嫌じゃん?」
天黎は軽いフットワークと人懐っこい性格のおかげで誰とでも仲良くなることができる。私の友達は、天黎に紹介してもらって仲良くなった人たちがほとんどだ。だから涼風くんとも話をするのかと思いきや、クラスが変わってから夏休みに入るまで、近くに行くこともなかった。そういえば、涼風くんと初めて私が会話した時も、天黎はその場にいないようにしていた。それも、さっき天黎が言っていた信条のようなものがあるが故のものなのだろうか。
「ふうん……それで、急になんでそんなこと言いだしたの?」
私は机の中のものを整理しながら、天黎に問いかけた。天黎は私の後ろの席の人の机といすを借りて、そこに座った。私が今日の授業の準備と提出物の準備をしているのを見ながら、ゆらゆらと足を揺らす。
「灯鞠もそろそろ仲が深まってきたころだと思うし? 今のうちに親交を持っていたほうが、何かあったときに役立つかなぁって」
そう。あれから、私と涼風くんはたまに会って話をしている。といっても、まだ私たちは話題の種をインコと犬のことしかもっていないから、話すことがなくて困ることもある。こういう時に天黎がいたら、と思うこともしばしば。涼風くんがもう少し話をしたそうに見えている時でも、話題が見つけられなかったらお開きになってしまうことが多い。
「そうだね……一回、聞いてみようか。友達を紹介したいから、時間をとれないかって」
「おお、いいね! お願いしてもいい?」
「天黎の頼みなら」
準備を終えて、私は忘れないうちに連絡を済ませようとスマホを取り出した。天黎が立ち上がって、廊下側に立つ。先生に見られないようにするためのカモフラージュ的なものだ。天黎は私と涼風くんのメッセージの内容を見ないようにするためか、窓の外をぼんやりとみている。私は素早くメッセージを作ると、送った。
『友達を紹介したいんだけど、時間を取ってもらえたりしないかな。そろそろ大会だから忙しいよね。部活が終わった後とか、お昼の時とかどうかな。話す場所は、いつもの場所で』
私は天黎をちょんちょん突ついて、微笑んで見せる。天黎はにこっと頷くと、ありがと、といった。そして、
「ついでなんだけど、頼みがあるんだ」
と、手を差し出した。
「なに?」
私が問いかけると、天黎はてへ、という笑みを浮かべて、
「ごめん、灯鞠。宿題やるの忘れてたから、ノート見せて?」
と言った。
「……見せなーい」
私は少し考えてから、そっぽを向いて返事をした。だん、と天黎が私の机をたたく。
「なんで!? 灯鞠なら見せてくれるって信じてたのに~!」
「いつも天黎も見せてくれないでしょ。その代わり、早く終わるように手伝うから。さ、早くやらないと提出時間に間に合わないよ」
「見せてくれたほうが手間もかからないでしょ!!」
「天黎、苦手だからやってなかったんでしょ? 早く片付けちゃおうよ」
「う、お見通しなのがなんか腹立つ……」
軽い言い合いをしていると、私のスマホが震えた。天黎の席のほうへと移動して、天黎がちゃんと問題集とノートを開くのを見届けてから、私はスマホの電源をつけた。涼風くんからの通知だ。メッセージアプリを開く。
『わかった。僕も友人を紹介するよ。お昼休みならいけるんだけど、それでいい?』
私は天黎のほうに向きなおる。さらさらと天黎の手が動き、よどみなく数字が書かれていく。天黎は私より頭がいいから、やはり教えるまでもなかったか。そこまで考えて、ふと、劣等感が頭をもたげようとする。それを心の中で頭を振ることで追い払い、私は天黎の机をトン、トンとたたいた。手を止めずに、ん? と天黎が返事をする。
「お昼休みならいけるって。涼風くんのほうも友達を紹介してくれるって言ってたけど、どうする?」
「ん、いいよ。灯鞠も私もお昼暇だもんね?」
「まあ、うん。じゃあ、そう返事しとくから」
「よろしく~……うあ、間違えた。これじゃ答え出ないのも当たり前だよ」
独り言をつぶやきながら、天黎が消しゴムを操る。私はその間にささっと返信を済ませた。
『じゃあ、お昼によろしくね』
そう天黎に聞かれたのは、もうそろそろ夏休みに入るくらいの時期の、朝のことだった。私と天黎は早めに登校しているから、まだ教室の中の人影はまばらだ。涼風くんの姿も、当然見当たらない。それでも無意識に彼の姿を探してから、私はうなずく。
「そうだね。天黎って、結構交友関係広そうに見えるけど、涼風くんとか、そういう人気の人は避けてるよね?」
「いやあ、変な噂立つと嫌じゃん?」
天黎は軽いフットワークと人懐っこい性格のおかげで誰とでも仲良くなることができる。私の友達は、天黎に紹介してもらって仲良くなった人たちがほとんどだ。だから涼風くんとも話をするのかと思いきや、クラスが変わってから夏休みに入るまで、近くに行くこともなかった。そういえば、涼風くんと初めて私が会話した時も、天黎はその場にいないようにしていた。それも、さっき天黎が言っていた信条のようなものがあるが故のものなのだろうか。
「ふうん……それで、急になんでそんなこと言いだしたの?」
私は机の中のものを整理しながら、天黎に問いかけた。天黎は私の後ろの席の人の机といすを借りて、そこに座った。私が今日の授業の準備と提出物の準備をしているのを見ながら、ゆらゆらと足を揺らす。
「灯鞠もそろそろ仲が深まってきたころだと思うし? 今のうちに親交を持っていたほうが、何かあったときに役立つかなぁって」
そう。あれから、私と涼風くんはたまに会って話をしている。といっても、まだ私たちは話題の種をインコと犬のことしかもっていないから、話すことがなくて困ることもある。こういう時に天黎がいたら、と思うこともしばしば。涼風くんがもう少し話をしたそうに見えている時でも、話題が見つけられなかったらお開きになってしまうことが多い。
「そうだね……一回、聞いてみようか。友達を紹介したいから、時間をとれないかって」
「おお、いいね! お願いしてもいい?」
「天黎の頼みなら」
準備を終えて、私は忘れないうちに連絡を済ませようとスマホを取り出した。天黎が立ち上がって、廊下側に立つ。先生に見られないようにするためのカモフラージュ的なものだ。天黎は私と涼風くんのメッセージの内容を見ないようにするためか、窓の外をぼんやりとみている。私は素早くメッセージを作ると、送った。
『友達を紹介したいんだけど、時間を取ってもらえたりしないかな。そろそろ大会だから忙しいよね。部活が終わった後とか、お昼の時とかどうかな。話す場所は、いつもの場所で』
私は天黎をちょんちょん突ついて、微笑んで見せる。天黎はにこっと頷くと、ありがと、といった。そして、
「ついでなんだけど、頼みがあるんだ」
と、手を差し出した。
「なに?」
私が問いかけると、天黎はてへ、という笑みを浮かべて、
「ごめん、灯鞠。宿題やるの忘れてたから、ノート見せて?」
と言った。
「……見せなーい」
私は少し考えてから、そっぽを向いて返事をした。だん、と天黎が私の机をたたく。
「なんで!? 灯鞠なら見せてくれるって信じてたのに~!」
「いつも天黎も見せてくれないでしょ。その代わり、早く終わるように手伝うから。さ、早くやらないと提出時間に間に合わないよ」
「見せてくれたほうが手間もかからないでしょ!!」
「天黎、苦手だからやってなかったんでしょ? 早く片付けちゃおうよ」
「う、お見通しなのがなんか腹立つ……」
軽い言い合いをしていると、私のスマホが震えた。天黎の席のほうへと移動して、天黎がちゃんと問題集とノートを開くのを見届けてから、私はスマホの電源をつけた。涼風くんからの通知だ。メッセージアプリを開く。
『わかった。僕も友人を紹介するよ。お昼休みならいけるんだけど、それでいい?』
私は天黎のほうに向きなおる。さらさらと天黎の手が動き、よどみなく数字が書かれていく。天黎は私より頭がいいから、やはり教えるまでもなかったか。そこまで考えて、ふと、劣等感が頭をもたげようとする。それを心の中で頭を振ることで追い払い、私は天黎の机をトン、トンとたたいた。手を止めずに、ん? と天黎が返事をする。
「お昼休みならいけるって。涼風くんのほうも友達を紹介してくれるって言ってたけど、どうする?」
「ん、いいよ。灯鞠も私もお昼暇だもんね?」
「まあ、うん。じゃあ、そう返事しとくから」
「よろしく~……うあ、間違えた。これじゃ答え出ないのも当たり前だよ」
独り言をつぶやきながら、天黎が消しゴムを操る。私はその間にささっと返信を済ませた。
『じゃあ、お昼によろしくね』



