風が収まるころには、もう暗くなっていた。私と咲妃莉、それから涼風くんは、遊具の外に出て、三人で何も言わずに、公園にある大きな木の下に立つ。私の右側には咲妃莉が、私の左側には涼風くんがいる。公園の電灯がぼんやりと光るのを見ながら、私たちは手をつなぎ、この静かな時間に心をゆだねる。
「灯鞠」
そう、声がした。公園の入口のほうから。顔を上げると、そこには天黎がいた。天黎は私の隣に立っている咲妃莉を見て、少し顔をしかめるが、こちらに歩いてくる。私は、つばを飲み込む。
「なんで、咲妃莉と一緒にいるの」
私の前に立った天黎に、一番に、そう問いかけられた。私はぎこちなく笑いかける。
「仲直りしたの」
「……そう」
天黎は目を細めた。
「ねえ。私たち、親友のままでいられるんだよね」
天黎の問いに、私は頷く。じゃあ、と天黎は息を吐く。
「私は、どうしたらいい?」
ふわり、と風が頬を撫でた。私は少し考える。本心を言えば、二人は一緒に居てほしい。でも、それは難しいだろう。だって……理由は知らないけれど、二人はお互いに相手のことが苦手で、相手と向き合うのが、苦しいのだから。
「……いつも通り」
私はつぶやく。え? と天黎が問い返す。私は天黎を見ながら、にっこりとほほ笑んだ。
「いつも通り、一緒に居て。関係が変わっちゃうのは……私がいや」
天黎を抱きしめて、私は離さないように力を強める。どこにも行かないでほしい。咲妃莉と仲直りできて、涼風くんが一緒に居てくれるからって言って……天黎がどこかに行ってしまうのは、いやなのだ。
「天黎は……私の、大事な人だよ。大事な人はいっぱいいて、ランク付けはできないけど……でも、大事な人。いなくなっちゃ、いやな人。……自分勝手なことを言うけどね、私は天黎にずっとそばにいてほしいの。それが例え天黎を苦しめるとしても。そうじゃなきゃ、私は多分生きていけないの」
愚直に、天黎を苦しめるとわかっていながら、私は欲望を連ねた。そして天黎から少し体を話して、天黎の顔を見る。
「天黎なら、私の願い、叶えてくれるでしょ?」
ものすごい押し付けだ。それはわかってる。でも。
天黎は、きっと。
「仕方ないなぁ」
……ほら。
「灯鞠といつも通り、一緒に居ればいいんだよね」
「そうだよ」
私は頷く。たったこれだけだ。咲妃莉が眉をひそめる。
「天黎。灯鞠の言いなりじゃん。いいの?」
天黎は咲妃莉をちらりと見た。そして、ふっと笑った。すごくつらそうな、悲しそうな、そんな笑み。
「いいの」
つぶやく。
「私は、そんなに器用じゃないんだ。どうやって動けばいいか、わからない。一度失敗したことが怖くて、自分から考えて動くのが恐ろしくて。だから、すべて、灯鞠に押し付けたの」
勝手なのは私のほうだよ、と笑う。私は天黎の言葉の半分くらいは理解できなかったけど、咲妃莉にはわかっているようだった。もしかしたら、天黎は咲妃莉との諍いのことを言っているのかも、というぼんやりとした予想は出来た。
「灯鞠は、私の押し付けを受け入れてくれてるだけ」
「でも、それはおかしいんじゃない?」
咲妃莉はあくまでも率直に、疑問を投げかける。天黎が少しむっとしたような表情をする。天黎が何かを言う前に、咲妃莉は言葉を続ける。
「天黎の人生は天黎のもの。その構成物質の一つとして灯鞠がいるのは別に構わないし、ボクもそうだ。でも、すべてを委ねるのは、違うんじゃない?」
「それは……」
天黎は唇を噛む。
「でも私は、そうやって生きてきて……誰かにくっついて、時に自分の意見を取り入れてもらって、それで満足で……」
「大人になったら、灯鞠とは道を違える可能性が高いよ。それでも、それを続けるの?」
咲妃莉の言葉を聞いていて、なんとなくわかった気がした。咲妃莉も天黎も、自分の考えをしっかり持っていたいのだ。咲妃莉は、自立した生活を。天黎は、誰かと共にする生活を望んでいる。考えが反対で、だからこそ、対立してしまう。私がどういうべきか図りかねていると、
「月守さんがそれでいいなら、いいんじゃないかな」
涼風くんが、ぽつりと言葉を漏らした。今までずっと黙っていた彼が。涼風くんは、何か表情を浮かべるでもなく、静かに、諭すように天黎を見ていた。
「でも、立水さんの言うことは、事実だ。今まで、僕もたくさんの大人に言われてきた。自立は大事。いずれは独り立ちをしないといけない」
天黎が唇を噛む。だけどね、とさらに涼風くんは反語を重ねた。
「月守さんの言う通り、誰かを頼ることも大事だ。事実……立水さんも、そして僕も、誰かにゆだねられなくて、苦しかったからね。そういう面では、月守さんは夜見さんっていういい友達を持ってると思う」
ただ純粋に、自分の経験も踏まえて、涼風くんは天黎に語り掛ける。
「月守さん。まだ僕たちは高校生だよ? まだやり直せると思うな」
やがて、優しい微笑みを浮かべて。
「自分にちょうどいい道を、見つけていこう。僕たちは、それができる」
涼風くんの言葉は、私の胸にも、すごく響いた。
「灯鞠」
そう、声がした。公園の入口のほうから。顔を上げると、そこには天黎がいた。天黎は私の隣に立っている咲妃莉を見て、少し顔をしかめるが、こちらに歩いてくる。私は、つばを飲み込む。
「なんで、咲妃莉と一緒にいるの」
私の前に立った天黎に、一番に、そう問いかけられた。私はぎこちなく笑いかける。
「仲直りしたの」
「……そう」
天黎は目を細めた。
「ねえ。私たち、親友のままでいられるんだよね」
天黎の問いに、私は頷く。じゃあ、と天黎は息を吐く。
「私は、どうしたらいい?」
ふわり、と風が頬を撫でた。私は少し考える。本心を言えば、二人は一緒に居てほしい。でも、それは難しいだろう。だって……理由は知らないけれど、二人はお互いに相手のことが苦手で、相手と向き合うのが、苦しいのだから。
「……いつも通り」
私はつぶやく。え? と天黎が問い返す。私は天黎を見ながら、にっこりとほほ笑んだ。
「いつも通り、一緒に居て。関係が変わっちゃうのは……私がいや」
天黎を抱きしめて、私は離さないように力を強める。どこにも行かないでほしい。咲妃莉と仲直りできて、涼風くんが一緒に居てくれるからって言って……天黎がどこかに行ってしまうのは、いやなのだ。
「天黎は……私の、大事な人だよ。大事な人はいっぱいいて、ランク付けはできないけど……でも、大事な人。いなくなっちゃ、いやな人。……自分勝手なことを言うけどね、私は天黎にずっとそばにいてほしいの。それが例え天黎を苦しめるとしても。そうじゃなきゃ、私は多分生きていけないの」
愚直に、天黎を苦しめるとわかっていながら、私は欲望を連ねた。そして天黎から少し体を話して、天黎の顔を見る。
「天黎なら、私の願い、叶えてくれるでしょ?」
ものすごい押し付けだ。それはわかってる。でも。
天黎は、きっと。
「仕方ないなぁ」
……ほら。
「灯鞠といつも通り、一緒に居ればいいんだよね」
「そうだよ」
私は頷く。たったこれだけだ。咲妃莉が眉をひそめる。
「天黎。灯鞠の言いなりじゃん。いいの?」
天黎は咲妃莉をちらりと見た。そして、ふっと笑った。すごくつらそうな、悲しそうな、そんな笑み。
「いいの」
つぶやく。
「私は、そんなに器用じゃないんだ。どうやって動けばいいか、わからない。一度失敗したことが怖くて、自分から考えて動くのが恐ろしくて。だから、すべて、灯鞠に押し付けたの」
勝手なのは私のほうだよ、と笑う。私は天黎の言葉の半分くらいは理解できなかったけど、咲妃莉にはわかっているようだった。もしかしたら、天黎は咲妃莉との諍いのことを言っているのかも、というぼんやりとした予想は出来た。
「灯鞠は、私の押し付けを受け入れてくれてるだけ」
「でも、それはおかしいんじゃない?」
咲妃莉はあくまでも率直に、疑問を投げかける。天黎が少しむっとしたような表情をする。天黎が何かを言う前に、咲妃莉は言葉を続ける。
「天黎の人生は天黎のもの。その構成物質の一つとして灯鞠がいるのは別に構わないし、ボクもそうだ。でも、すべてを委ねるのは、違うんじゃない?」
「それは……」
天黎は唇を噛む。
「でも私は、そうやって生きてきて……誰かにくっついて、時に自分の意見を取り入れてもらって、それで満足で……」
「大人になったら、灯鞠とは道を違える可能性が高いよ。それでも、それを続けるの?」
咲妃莉の言葉を聞いていて、なんとなくわかった気がした。咲妃莉も天黎も、自分の考えをしっかり持っていたいのだ。咲妃莉は、自立した生活を。天黎は、誰かと共にする生活を望んでいる。考えが反対で、だからこそ、対立してしまう。私がどういうべきか図りかねていると、
「月守さんがそれでいいなら、いいんじゃないかな」
涼風くんが、ぽつりと言葉を漏らした。今までずっと黙っていた彼が。涼風くんは、何か表情を浮かべるでもなく、静かに、諭すように天黎を見ていた。
「でも、立水さんの言うことは、事実だ。今まで、僕もたくさんの大人に言われてきた。自立は大事。いずれは独り立ちをしないといけない」
天黎が唇を噛む。だけどね、とさらに涼風くんは反語を重ねた。
「月守さんの言う通り、誰かを頼ることも大事だ。事実……立水さんも、そして僕も、誰かにゆだねられなくて、苦しかったからね。そういう面では、月守さんは夜見さんっていういい友達を持ってると思う」
ただ純粋に、自分の経験も踏まえて、涼風くんは天黎に語り掛ける。
「月守さん。まだ僕たちは高校生だよ? まだやり直せると思うな」
やがて、優しい微笑みを浮かべて。
「自分にちょうどいい道を、見つけていこう。僕たちは、それができる」
涼風くんの言葉は、私の胸にも、すごく響いた。



