夜風の中で、君に伝えたいこと。

 ああ。私は心から安心した。胸のつかえが、するりと解けていく。咲妃莉の瞳からは、一筋の涙が流れた。
「ボクは、少しわがままで……少しでも自分の理想と異なると、イラっとしちゃうタイプだった。だから……段々と、灯鞠と一緒にいることを、楽しいと思えなくなった」
 咲妃莉は、涙を流しながら、ぽつ、ぽつと話していく。
「それに……灯鞠が、大好きだから。傷つけたくないから。灯鞠に直接言うのが、いやだった。天黎のこともあったし……だから、逃げた。でも灯鞠が、ボクのことを詰るように問い詰めるから……いやになった」
 咲妃莉の言葉は、私がずっと考えられていなかった咲妃莉の心の中を表現していた。あたりまえだけど……咲妃莉も、苦しかったのだ。私の押し付けによって、苦しめてしまった。
「人間ってみんなそうなのかなって……思う日もあった。灯鞠も、天黎も、距離をおいても普通に生活してて……もしかして、ボクだけが大事に思ってたのかなって……灯鞠の言葉は、全て嘘で。ボクを弄んでいたのかもしれないって」
 それは、私が思っていたことと、全く同じことだった。
「「誰も信じられない」」
 私と咲妃莉の声が、重なる。咲妃莉は驚いたように目を見開いて、私を見た。私はただ、笑うことしかできない。
 結局みんな……自分勝手なのだ。自分勝手にしていなきゃ、生きられない。すべてが丸く収まる方法なんてない。誰かに押し付けるのも勝手。誰かの押し付けを受け入れるのも勝手。傷つくのも勝手。悲しむのも勝手。怒るのも勝手。自分だけがすごいって思って、でも本当はすごくなくて。過ちを犯し、正し、そして、成長していく。生きていく。
 その過程をすっ飛ばして生きることなんて、できないんだ。

……だからこそ。私はまだ、咲妃莉と話せる。過ちを、正せる。

「咲妃莉。今まで、ずっと勝手でごめん。許してとは、言わない。だから、私ともう一度……友達になってほしい」
 私は咲妃莉の手をそっと握りながら、頼んだ。後ろで涼風くんも、見守ってくれている。咲妃莉は私に握られている手をじっと見つめた後、はぁ、とため息をついた。そして、優しい笑みを浮かべた。
「友達じゃやだよ」
「……え?」
「……親友」
 私は、咲妃莉が言っていることが一瞬理解できなかった。でも、その言葉の響きが、段々としみわたっていくうちに……理解した。そして、歓喜の渦に胸が飲み込まれる。それを必死に抑えながら、私は笑う。
「親友」
 咲妃莉も笑った。
「そう。ボクたちは……また、親友に戻るの」