「変えるって……具体的には、どうやって?」
一条くんが涼風くんに問いかける。涼風くんは黙って考え込む。しばらく何も言わないので、私はもうやめよう、と言おうとした。しかし、よし、と一条くんが声を上げたので、言いそびれた。
「透海、もう帰るか、どっかカフェみたいなとこに入るか選べ。結構寒いし、こういうとこにいたら気分沈むだけだ。灯鞠ちゃんと天黎はどうする? まだ外にいたいか?」
一条くんが場を取りまとめるようにいろいろな提案をしてくれる。涼風くんは帰ることを選び、考え込みながら帰っていった。私も帰ろうとしたが、天黎に腕を掴まれる。
「帰っちゃだめ。まだ灯鞠は……今帰ったら、きっとどんどん堕ちていく」
天黎の言葉に、一条くんが頷いた。そして少し考えた後、ついてこい、と言って歩き始めた。天黎が私の手を掴みながら歩いていくので、私も仕方なく一条くんについていく。
十数分歩いて、一条くんはとある小さなカフェに入った。モダンな雰囲気で、アンティーク家具が多く置かれている。全体的に薄暗くて、お洒落な印象を受けた。
「よう、マスター」
「おや、光海くん。いらっしゃい。今日はガールフレンドと?」
「そ。ちょっとこいつらへこんでるから、マスター、おすすめのやつ頼むよ」
「ああ、任せてくれ」
一条くんがマスターと呼ぶ男性は、優しそうな雰囲気を持つ人だった。一条くんは店の奥のテーブル席に行くと、私と天黎が並ぶように座らせてくれる。一条くんは、私たちの向かい側に座る。
「ここのマスターの料理はどれもうまいんだ。それでいて結構安いから、おすすめだぞ」
「へえ……光海、こういう趣味もあったんだ」
「まあな」
天黎は机に突っ伏しながら一条くんと会話を交わすと、そのまま寝息を立て始めた。偽の寝息か、本当の寝息かわからないけれど。どこからか小さい音で音楽が聞こえてくる。私がそれをぼーっとしながら聞いていると、
「無理やり連れてきちゃってごめんな」
と一条くんに謝られた。私は首を振る。
「ううん。私も、悪いし……」
ぼんやりとする頭は、段々眠気を催し始める。一条くんは困ったように笑う。私がうつらうつらしていると、ことん、とテーブルに何か置かれる音がして、目を覚ます。マスターが、何かを持ってきてくれたところだった。
「ああ、起こしてしまったか。すまないね。コンソメスープを持ってきたのだが、食べるかい? 体が温まると思ってね」
不思議なしゃべり方をするマスターだった。私はまだ眠い頭で頷く。すると、マスターがくすりと笑った。
「光海くんさえよければ、長くいてもいいよ。つかれているお友達は、寝かせておいてあげたほうがいい。どうやら、精神的に疲れているみたいだしね」
「やっぱりマスターは鋭いなぁ。なあ、お客がいなくなったら相談のってくれよ」
「ああ、いいよ」
私はマスターが置いてくれたコンソメスープのカップを掴んで、こくりと一口飲んだ。温かいものが食道からおなかへ行くのがわかる。体の内側から暖かくなる。
「ああ……おいしい……」
「ふふ、君みたいなかわいい子に褒められると嬉しいなぁ」
「マスター。それ普通にキモいって感じられることもあるから、気をつけろよ」
「大丈夫。ちゃんと礼儀はわきまえてるよ」
二人の会話を聞きながら、私はコンソメスープをすべて飲むと、本格的に眠くなってきた。
「おやすみ、なさい……」
「ふふ、お休み」
「ゆっくり休めよ」
一条くんとマスターの言葉を聞きながら、私は眠りに落ちた。
「あれ、私……」
「おう、起きたか」
妙にすっきりした気分で目覚めると、目の前には一条くんがいて、隣ではまだ天黎が寝ていて……アンティークな家具に囲まれていて、一条くんはスマホを片手にコーヒーを飲んでいて……そこで気づく。私、カフェで寝落ちしてたんだって。
慌てて壁にかかっている時計を見ると、このカフェに入ってから数時間は経っていて、もう午後六時に迫っていた。
「あ……ご、ごめん一条くん、私すごく寝ちゃって……」
「ああ、気にしないで。俺も少し昼寝してたし。それに、灯鞠ちゃん、今結構顔色いいし、気分も戻ったみたいだしね」
「あ……」
私はそっと胸を抑える。確かに、だいぶ苦しかった胸の中は、だいぶマシになっている。一条くんは優しく微笑んだ。
「透海も、だいぶ考えてくれたみたいだ」
そっと、机の上でスマホをスライドさせてくれる。私はそれを手に取った。
『・僕たちで話す場所を作る
・一人だと厳しいか?
→僕たちも側にいたほうがいいかもしれない』
『立水さんってどういう人かよくわからないから、情報集めるべき?』
『月守さんは苦しいだろうから、僕と光海で頑張ったほうがいいかな』
私の目から、うれしさで涙があふれてくる。一条くんはそっと私の手からスマホを取ると、私の開いた手をぎゅっと握ってくれる。
「灯鞠ちゃんは、一人じゃない。もう苦しまなくていいんだ。もう、十分なんだよ」
一条くんの言葉に、私はさらに泣いてしまう。マスターがこちらに歩いてきて、ホットミルクをことん、と置いてくれた。
「砂糖入りです。お目覚めのモーニングドリンクとしてどうぞ」
「もう夜だからナイトドリンクですよ」
私はそう言って、泣きながら笑った。冗談をさらりと返されたマスターは、一瞬目を見開いた後、嬉しそうに目を細める。一条くんも、安心したように息を吐く。 新たな優しくてうれしい思い出が、一つ増えた。
一条くんが涼風くんに問いかける。涼風くんは黙って考え込む。しばらく何も言わないので、私はもうやめよう、と言おうとした。しかし、よし、と一条くんが声を上げたので、言いそびれた。
「透海、もう帰るか、どっかカフェみたいなとこに入るか選べ。結構寒いし、こういうとこにいたら気分沈むだけだ。灯鞠ちゃんと天黎はどうする? まだ外にいたいか?」
一条くんが場を取りまとめるようにいろいろな提案をしてくれる。涼風くんは帰ることを選び、考え込みながら帰っていった。私も帰ろうとしたが、天黎に腕を掴まれる。
「帰っちゃだめ。まだ灯鞠は……今帰ったら、きっとどんどん堕ちていく」
天黎の言葉に、一条くんが頷いた。そして少し考えた後、ついてこい、と言って歩き始めた。天黎が私の手を掴みながら歩いていくので、私も仕方なく一条くんについていく。
十数分歩いて、一条くんはとある小さなカフェに入った。モダンな雰囲気で、アンティーク家具が多く置かれている。全体的に薄暗くて、お洒落な印象を受けた。
「よう、マスター」
「おや、光海くん。いらっしゃい。今日はガールフレンドと?」
「そ。ちょっとこいつらへこんでるから、マスター、おすすめのやつ頼むよ」
「ああ、任せてくれ」
一条くんがマスターと呼ぶ男性は、優しそうな雰囲気を持つ人だった。一条くんは店の奥のテーブル席に行くと、私と天黎が並ぶように座らせてくれる。一条くんは、私たちの向かい側に座る。
「ここのマスターの料理はどれもうまいんだ。それでいて結構安いから、おすすめだぞ」
「へえ……光海、こういう趣味もあったんだ」
「まあな」
天黎は机に突っ伏しながら一条くんと会話を交わすと、そのまま寝息を立て始めた。偽の寝息か、本当の寝息かわからないけれど。どこからか小さい音で音楽が聞こえてくる。私がそれをぼーっとしながら聞いていると、
「無理やり連れてきちゃってごめんな」
と一条くんに謝られた。私は首を振る。
「ううん。私も、悪いし……」
ぼんやりとする頭は、段々眠気を催し始める。一条くんは困ったように笑う。私がうつらうつらしていると、ことん、とテーブルに何か置かれる音がして、目を覚ます。マスターが、何かを持ってきてくれたところだった。
「ああ、起こしてしまったか。すまないね。コンソメスープを持ってきたのだが、食べるかい? 体が温まると思ってね」
不思議なしゃべり方をするマスターだった。私はまだ眠い頭で頷く。すると、マスターがくすりと笑った。
「光海くんさえよければ、長くいてもいいよ。つかれているお友達は、寝かせておいてあげたほうがいい。どうやら、精神的に疲れているみたいだしね」
「やっぱりマスターは鋭いなぁ。なあ、お客がいなくなったら相談のってくれよ」
「ああ、いいよ」
私はマスターが置いてくれたコンソメスープのカップを掴んで、こくりと一口飲んだ。温かいものが食道からおなかへ行くのがわかる。体の内側から暖かくなる。
「ああ……おいしい……」
「ふふ、君みたいなかわいい子に褒められると嬉しいなぁ」
「マスター。それ普通にキモいって感じられることもあるから、気をつけろよ」
「大丈夫。ちゃんと礼儀はわきまえてるよ」
二人の会話を聞きながら、私はコンソメスープをすべて飲むと、本格的に眠くなってきた。
「おやすみ、なさい……」
「ふふ、お休み」
「ゆっくり休めよ」
一条くんとマスターの言葉を聞きながら、私は眠りに落ちた。
「あれ、私……」
「おう、起きたか」
妙にすっきりした気分で目覚めると、目の前には一条くんがいて、隣ではまだ天黎が寝ていて……アンティークな家具に囲まれていて、一条くんはスマホを片手にコーヒーを飲んでいて……そこで気づく。私、カフェで寝落ちしてたんだって。
慌てて壁にかかっている時計を見ると、このカフェに入ってから数時間は経っていて、もう午後六時に迫っていた。
「あ……ご、ごめん一条くん、私すごく寝ちゃって……」
「ああ、気にしないで。俺も少し昼寝してたし。それに、灯鞠ちゃん、今結構顔色いいし、気分も戻ったみたいだしね」
「あ……」
私はそっと胸を抑える。確かに、だいぶ苦しかった胸の中は、だいぶマシになっている。一条くんは優しく微笑んだ。
「透海も、だいぶ考えてくれたみたいだ」
そっと、机の上でスマホをスライドさせてくれる。私はそれを手に取った。
『・僕たちで話す場所を作る
・一人だと厳しいか?
→僕たちも側にいたほうがいいかもしれない』
『立水さんってどういう人かよくわからないから、情報集めるべき?』
『月守さんは苦しいだろうから、僕と光海で頑張ったほうがいいかな』
私の目から、うれしさで涙があふれてくる。一条くんはそっと私の手からスマホを取ると、私の開いた手をぎゅっと握ってくれる。
「灯鞠ちゃんは、一人じゃない。もう苦しまなくていいんだ。もう、十分なんだよ」
一条くんの言葉に、私はさらに泣いてしまう。マスターがこちらに歩いてきて、ホットミルクをことん、と置いてくれた。
「砂糖入りです。お目覚めのモーニングドリンクとしてどうぞ」
「もう夜だからナイトドリンクですよ」
私はそう言って、泣きながら笑った。冗談をさらりと返されたマスターは、一瞬目を見開いた後、嬉しそうに目を細める。一条くんも、安心したように息を吐く。 新たな優しくてうれしい思い出が、一つ増えた。



