夜風の中で、君に伝えたいこと。

「今日も楽しかったよ、ありがとう」
 遊園地の出口で、涼風くんはそう笑顔で言ってくれた。隣に立つ一条くんもうれしそうだ。私と天黎も笑顔で頷く。
「次会うのは、年明け。一月五日で、学校近くの公園でいいんだよね? 涼風のお兄さんと妹さんに会わせてくれるって」
 天黎が聞くと、涼風くんはうなずく。
「で、次が冬休み最終日に初詣。だよな」
「うん、それであってると思うよ」
 一条くんの確認に、私が頷いた。みんなで集まる日がこうして決まっていくのは、なんだかとっても嬉しい。来年は受験生になる。あと少しだけ、はしゃぎたい。私の心を知ってか知らずか、天黎がこぶしを突き上げる。
「受験生活まであと残りわずか。楽しもー!」
「「「おー!」」」
 みんなで掛け声を上げて、笑いあう。 冬休み最終日。私たちは、神社を訪れていた。
「あんまり人、いないね」
「まあ、初詣の時期はとっくに過ぎてるしな」
 涼風くんが辺りを見渡しながら言ったことに対して、一条くんが相槌を打った。天黎と一条くんは五日、月透さんと直莉ちゃんと無事に会うことができ、だいぶ満足しているようだった。特に、一条くんが。だからか、今日も一条くんはご機嫌だ。
「なあ、おみくじ引かないか? あとお守りも買いたい」
「いいね。私もちょっと興味あるんだ、恋みくじとか」
「おっ、天黎、恋する乙女って感じか?」
「違うしー」
 天黎はまだしらばっくれている。告白する勇気が出ない! とか言ってて……こんなににおわせてるんだから一条くんも気づいてるだろうと思ったら、どうやら気づいてないようなのだ。しかし、さすがに涼風くんは気が付いたらしい。
「意外と本人たちは気づかないことだよね」
「ふふ、確かに」
 今日も、涼風くんはそんなことを言った。涼風くんのお父さんとお母さんは、初詣くらいなら、と今日も外出を許してくれたそうだ。正直、ほっとした。もし涼風くんだけ来られないとかなったら、少し寂しかったし。
「夜見さんは、どんなお守り買うの?」
「えー、勉強と交通のお守り?」
「そうなるよね。合格守りだと、今年までだから微妙に効果きれるよね?」
「確かにー。やっぱ勉学守りか」
 私たちはそんな会話をしながら、前をはしゃぎながら歩く天黎たちについていく。


 柄杓で汲んだ冷たい水で手を洗って、お賽銭をして神様にお願いをする。私は涼風くんと仲良くなれますように、勉強ができるようになりますように、皆健康でいますように、とお願いをした。ちょっと欲張りすぎたかな、とか思ってたら、一条くんも三つ願い事をしたと言っていたので、大丈夫かな、と思う。天黎は一つらしいけど、効力が薄まるので、教えてはくれなかった。


 みんなで境内を見学する。あまりお寺とか神社に来る機会はないから、昔の人が建てた建造物の建築技術に驚いた。天黎と涼風くんがさすがの博識ぶりを発揮して、いろいろ説明をしてくれるものだから、なんだか社会科見学に来たみたいになった。


 甘酒売り場もあり、皆で甘酒を買って飲んだ。この神社の甘酒は、とても甘かった。
「おいしい~! 甘いね。甘酒って少し苦手なイメージだったけど、案外いけるかも」
 天黎がそう声を上げる。涼風くんも何度か頷く。
「母さんが作ってくれるのより甘くておいしいな」
「おい、それ、透海のお母さん聞いたら泣くぜ?」
「正直な感想だよ。でも、母さんのも甘さ控えめで好きだよ」
「さりげないフォロー、イケメンすぎるだろ」
 一条くんのからかいにも動じずに涼風くんが返したので、一条くんが苦い顔をした。私と天黎は顔を見合わせて、笑った。


 おみくじをみんなで引くと……
 私が大吉。涼風くんが中吉。天黎が吉。一条くんが、半末吉だった。
「なんだ、半末吉って?」
「末吉の一個下、だって。ここのおみくじ、運勢の種類多いんだね」
「結構下じゃねえか」
 一条くんが少し落ち込んでしまったので、天黎が慰める。それを私たちがほほえましく見つめていると……

「あれ、灯鞠と天黎と……透海も。ああ、あと確か……一条だっけ」

 私と天黎が反射的に身をすくめる。一条くんは不思議そうな顔をして振り返り、涼風くんは私と天黎の様子を気にしながら、声がしたほうを振り向く。
「ああ、立水さん」
 そう。そこには、一人で屋台で買ったと思しきべっこう飴をなめている、咲妃莉がいたのだ。咲妃莉は私たちを検分するように見つめてから、へぇ、と言った。少しだけ、彼女の口元がゆがむ。
「仲良しじゃん」
 それだけの言葉なのに、私ののどがきゅっと絞まる感じがする。この感情は、なんだろう。いったい、なんなの……?
「天黎も。良かったね、一条と仲良くなれて」
 咲妃莉が少しそっけない態度で、そういった。天黎が一歩後ずさるのに合わせ、一条くんが一歩前に出る。
「ねえ、君はだれ?」
 一条くんが当初の猫かぶりの雰囲気で、咲妃莉に問いかける。咲妃莉はにこりと笑う。
「立水咲妃莉。よろしくね」
 先ほどから、表情はほとんど変わっていない。まとう空気も。でも、なぜこんなにも温度差を感じるのだろう。さっき私たちに対する態度をつめたいと感じたのに、一条くんと接する態度を普通だと感じたのは、なぜだろう。少し一条くんと涼風くんと何気ない世間話をして、咲妃莉は二人に手を振り、去ろうとしたが、
「ああ、灯鞠」
 私のほうを振り向く。
「……なに?」
 喉に空気が突っかかるような、いやな感触を感じながら問い返すと、咲妃莉は寂しそうに微笑んだ。
……なんで、そんな表情をするの。
「よかったね」
 それだけだった。だけど、そこにはありありと痛みを感じて。そして、天黎に対する、少し冷たい言い方じゃなくて……なぜか暖かくて、友人に接するような温度をしてて。本当は、言葉に温度を感じるのはおかしいと思うけど。なぜか、無性にそう感じて。
「咲妃莉」
 私はつぶやく。でも、咲妃莉はもうどこかへ行ってしまった。私は俯く。ふと、咲妃莉がたどった道に、水の染みができているのが見えた。それと同時に、天黎が気分が悪い、と言い出したので、私たちは横道を探して入った。