『いつか、話せますか?』
初めて一条くんとの個人トークに、メッセージを送った。すると、すぐに返信が返ってきた。
『今日の部活終わりに話せる?』
私がその画面を見てどう返信するか悩んでると、隣でのぞき込んでいた天黎が、うん、と頷いた。今は放課後、部活が始まった時間帯。善は急げと思って、天黎に先輩と話して思ったことを伝えた。すると天黎は私の選択を受け入れてくれて、一条くんにRUINで連絡することを勧めてくれたのだ。
「いいじゃん。私、どこか適当に先に行って待ってるから、話してきたらいいよ」
天黎はそう言って、私の背中を押してくれた。ありがと、と言って、了承の返事を送った。
私は一条くんと合流し、学校の近くの公園に寄ることにした。座っているのもなんだし、と散歩をすることを提案してくれたので、私たちは公園を散歩している。
「灯鞠ちゃん、こんな遅くにごめんな」
「ううん、連絡したのは私だし、一条くんは気にしないで」
私は首を振って一条くんの謝罪を遮った。すると一条くんはそっか、と笑った。今日の一条くんは、なんだか元気がない。落ち込んでいるように……疲れているように見える。私が、涼風くんの気持ちをちゃんと読み取れてたら、一条くんはそんな気持ちのはず。
「えっと……何かあった? 疲れてるように見えて……」
私がそう聞いてみると、一条くんはははっ、と笑った。やっぱり、その笑顔にも力がない。一条くんを見上げていると、ぽん、と久しぶりに頭を撫でられた。
「やっぱり灯鞠ちゃんはわかるか……うん、そうだよ。俺は疲れてる。主に透海のことで」
「涼風くんの……」
一条くんに肯定してもらえて、私の中の自己評価は少しだけ上がった。でも、一条くんの言葉は、あまりよくない状態も示していた。涼風くんのことで一条くんが悩むなんて、よほどのことなのだろう。一条くんはいつかの涼風くんみたいに、石ころを蹴っ飛ばしながら歩く。
「透海のコンディション、すげえ悪いんだ。でもあいつ、いつもと何も変わらねぇみたいな顔してさ。休めって言われても大丈夫の一点張り。それに笑顔も崩さないし……なんつーか、壊れたロボットみたいになっちまった」
ぽつ、ぽつと紡がれるその話は、私が想像する限り最悪の状況だった。やっぱり涼風くんはあの時、自分を閉じ込めたんだ。ストレスを抱え込み、誰にも見せず、強い涼風くんであろうとしてる。でも、コンディションが悪いっていうのは……
「プレー中もミスばっかりで、よろけるし、躓くし。今日なんか、貧血を起こして……そろそろやばいんじゃないか、どうなってるんだって、テニス部でも結構心配されててさ」
つまり、感情面では完璧にふるまっていても、体がついていかなくて、ボロボロになってしまっている、ということか。私は唇を噛む。涼風くんのことが、心配でたまらない。
「私に、何かできることはないのかな」
私は一条くんを見上げて、そう尋ねた。すると、一条くんは何かに苦悩しているかのように、顔を歪めた。深呼吸をして、私を見る。その顔には、確かに疲労が見て取れる。それに……申し訳なさそうな表情と、すがるような表情。
「灯鞠ちゃんと話してた時の透海は、すごく楽しそうで……だけど今は、全然楽しそうじゃない。笑顔もあれは……作り物だ。偽物だ。……きっと取り戻せるのは、灯鞠ちゃんだけなんだよ」
そこで、一条くんが一度言葉を切った。そしてぎゅっと目をつぶって……
「頼む、透海を……助けて」
つう、と一条くんの頬を涙が伝った。
私はその光景が信じられなくて、目を見開く。良く一条くんの顔を見てみると、青白く見えた。足取りもどこか頼りなく、声を抑えて泣きじゃくるその姿は、まるで……迷子みたいだ。私は少し悩んだ後、少し小走りで一条くんの前に来ると、その体をぎゅっと抱きしめた。
どこかで読んだことがある。人との触れ合い、特にハグは、人の気持ちを安心させる効果があるって。正直、高校生の男女二人がこんなことしてたら怪しまれるだろうし、一条くんは嫌かもしれない。でも、私にとってのスキンシップは、そんなこと気にしないくらい大事で……感情を伝える、一番の方法。
「大丈夫。大丈夫だよ、一条くん……」
一条くんは泣き続ける。彼がこんなに落ち込むところは、見たことがない。いつも笑って……元気でいるっていうのが、一条くんのイメージだった。やっぱり彼も……どこかで苦しみを抱えてるんだ。
……涼風くんと、天黎のように。
「涼風くんと、また話せるような環境を作れないか、探してみるよ。助けられるかはわからないけど……でも、できる限りのことはする」
そこまで言うと、私は一条くんから離れて、しっかりと彼と視線を合わせた。涙にぬれた瞳が、こちらを不安げなまなざしで見つめる。私はポケットからハンカチを取り出すと、彼の涙をぬぐう。そして、にっこりと笑った。
「だから、泣かないで! それと……気づけなくてごめんね。もっとたくさん話しておけばよかったな……」
私は自分のことでいっぱいいっぱいで、ほかの人のことをうまく考えられていなかった。きっと天黎当たりならうまくやるんだろうけど。そこまで考えて、天黎は一条くんのこと……と思い出す。
「また、四人で集まりたいね」
「……ああ」
一条くんがようやく返事をしてくれた。でも、まだ笑えてはいない。涙は少し止まったみたいだけど。私は少し考えた後、一条くんの手を取ってベンチのほうに向かった。たしか、この公園のベンチのすぐそばには……
考えながら歩いていくと、ベンチの場所にたどり着く。そこにはやっぱり、思い描いた通りのものがあった。私は一条くんと一緒にベンチに座って、それを眺める。
「きれいなお花でしょ」
そう、そこには花壇があった。夜風に揺られる花。なんていう名前の花なのかは知らないけど、きれいな花だ。昔はよくこの公園も散歩していた。お姉ちゃんたちがまだそんなに忙しくない時だ。
「綺麗だな」
一条くんはそう呟いて、ある花をじっと見つめていた。青いきれいな花だ。名前はやっぱりわからない。
「綺麗だ」
一条くんは繰り返した。まるで、何かを確かめるみたいに。私はそれを見て、微笑んだ。
「花、好きなんだね」
一条くんははじかれたように私のほうを見ると、少しの間固まって、やがて、
「……そうだね、好きかな」
と答えた。その一瞬の間が気になって少し首をかしげてみたけど、一条くんはもう私から視線をそらして、花壇の花を見つめていた。私はしばらく彼の横顔を見ていたが、やがて空を見上げた。十一月の肌寒い空気が私たちを包んでいた。綺麗に見えるようになってきた星も、きらきらと煌めいて。
もう少し一条くんのそばにいようかな。私はそう考えて、花に目を戻した。
初めて一条くんとの個人トークに、メッセージを送った。すると、すぐに返信が返ってきた。
『今日の部活終わりに話せる?』
私がその画面を見てどう返信するか悩んでると、隣でのぞき込んでいた天黎が、うん、と頷いた。今は放課後、部活が始まった時間帯。善は急げと思って、天黎に先輩と話して思ったことを伝えた。すると天黎は私の選択を受け入れてくれて、一条くんにRUINで連絡することを勧めてくれたのだ。
「いいじゃん。私、どこか適当に先に行って待ってるから、話してきたらいいよ」
天黎はそう言って、私の背中を押してくれた。ありがと、と言って、了承の返事を送った。
私は一条くんと合流し、学校の近くの公園に寄ることにした。座っているのもなんだし、と散歩をすることを提案してくれたので、私たちは公園を散歩している。
「灯鞠ちゃん、こんな遅くにごめんな」
「ううん、連絡したのは私だし、一条くんは気にしないで」
私は首を振って一条くんの謝罪を遮った。すると一条くんはそっか、と笑った。今日の一条くんは、なんだか元気がない。落ち込んでいるように……疲れているように見える。私が、涼風くんの気持ちをちゃんと読み取れてたら、一条くんはそんな気持ちのはず。
「えっと……何かあった? 疲れてるように見えて……」
私がそう聞いてみると、一条くんはははっ、と笑った。やっぱり、その笑顔にも力がない。一条くんを見上げていると、ぽん、と久しぶりに頭を撫でられた。
「やっぱり灯鞠ちゃんはわかるか……うん、そうだよ。俺は疲れてる。主に透海のことで」
「涼風くんの……」
一条くんに肯定してもらえて、私の中の自己評価は少しだけ上がった。でも、一条くんの言葉は、あまりよくない状態も示していた。涼風くんのことで一条くんが悩むなんて、よほどのことなのだろう。一条くんはいつかの涼風くんみたいに、石ころを蹴っ飛ばしながら歩く。
「透海のコンディション、すげえ悪いんだ。でもあいつ、いつもと何も変わらねぇみたいな顔してさ。休めって言われても大丈夫の一点張り。それに笑顔も崩さないし……なんつーか、壊れたロボットみたいになっちまった」
ぽつ、ぽつと紡がれるその話は、私が想像する限り最悪の状況だった。やっぱり涼風くんはあの時、自分を閉じ込めたんだ。ストレスを抱え込み、誰にも見せず、強い涼風くんであろうとしてる。でも、コンディションが悪いっていうのは……
「プレー中もミスばっかりで、よろけるし、躓くし。今日なんか、貧血を起こして……そろそろやばいんじゃないか、どうなってるんだって、テニス部でも結構心配されててさ」
つまり、感情面では完璧にふるまっていても、体がついていかなくて、ボロボロになってしまっている、ということか。私は唇を噛む。涼風くんのことが、心配でたまらない。
「私に、何かできることはないのかな」
私は一条くんを見上げて、そう尋ねた。すると、一条くんは何かに苦悩しているかのように、顔を歪めた。深呼吸をして、私を見る。その顔には、確かに疲労が見て取れる。それに……申し訳なさそうな表情と、すがるような表情。
「灯鞠ちゃんと話してた時の透海は、すごく楽しそうで……だけど今は、全然楽しそうじゃない。笑顔もあれは……作り物だ。偽物だ。……きっと取り戻せるのは、灯鞠ちゃんだけなんだよ」
そこで、一条くんが一度言葉を切った。そしてぎゅっと目をつぶって……
「頼む、透海を……助けて」
つう、と一条くんの頬を涙が伝った。
私はその光景が信じられなくて、目を見開く。良く一条くんの顔を見てみると、青白く見えた。足取りもどこか頼りなく、声を抑えて泣きじゃくるその姿は、まるで……迷子みたいだ。私は少し悩んだ後、少し小走りで一条くんの前に来ると、その体をぎゅっと抱きしめた。
どこかで読んだことがある。人との触れ合い、特にハグは、人の気持ちを安心させる効果があるって。正直、高校生の男女二人がこんなことしてたら怪しまれるだろうし、一条くんは嫌かもしれない。でも、私にとってのスキンシップは、そんなこと気にしないくらい大事で……感情を伝える、一番の方法。
「大丈夫。大丈夫だよ、一条くん……」
一条くんは泣き続ける。彼がこんなに落ち込むところは、見たことがない。いつも笑って……元気でいるっていうのが、一条くんのイメージだった。やっぱり彼も……どこかで苦しみを抱えてるんだ。
……涼風くんと、天黎のように。
「涼風くんと、また話せるような環境を作れないか、探してみるよ。助けられるかはわからないけど……でも、できる限りのことはする」
そこまで言うと、私は一条くんから離れて、しっかりと彼と視線を合わせた。涙にぬれた瞳が、こちらを不安げなまなざしで見つめる。私はポケットからハンカチを取り出すと、彼の涙をぬぐう。そして、にっこりと笑った。
「だから、泣かないで! それと……気づけなくてごめんね。もっとたくさん話しておけばよかったな……」
私は自分のことでいっぱいいっぱいで、ほかの人のことをうまく考えられていなかった。きっと天黎当たりならうまくやるんだろうけど。そこまで考えて、天黎は一条くんのこと……と思い出す。
「また、四人で集まりたいね」
「……ああ」
一条くんがようやく返事をしてくれた。でも、まだ笑えてはいない。涙は少し止まったみたいだけど。私は少し考えた後、一条くんの手を取ってベンチのほうに向かった。たしか、この公園のベンチのすぐそばには……
考えながら歩いていくと、ベンチの場所にたどり着く。そこにはやっぱり、思い描いた通りのものがあった。私は一条くんと一緒にベンチに座って、それを眺める。
「きれいなお花でしょ」
そう、そこには花壇があった。夜風に揺られる花。なんていう名前の花なのかは知らないけど、きれいな花だ。昔はよくこの公園も散歩していた。お姉ちゃんたちがまだそんなに忙しくない時だ。
「綺麗だな」
一条くんはそう呟いて、ある花をじっと見つめていた。青いきれいな花だ。名前はやっぱりわからない。
「綺麗だ」
一条くんは繰り返した。まるで、何かを確かめるみたいに。私はそれを見て、微笑んだ。
「花、好きなんだね」
一条くんははじかれたように私のほうを見ると、少しの間固まって、やがて、
「……そうだね、好きかな」
と答えた。その一瞬の間が気になって少し首をかしげてみたけど、一条くんはもう私から視線をそらして、花壇の花を見つめていた。私はしばらく彼の横顔を見ていたが、やがて空を見上げた。十一月の肌寒い空気が私たちを包んでいた。綺麗に見えるようになってきた星も、きらきらと煌めいて。
もう少し一条くんのそばにいようかな。私はそう考えて、花に目を戻した。



