「本当に、死んでしまうの?」
彼女がこの世から少しずつ消えかかっている。
僕の膝の上で、苦しそうな顔をしながら息をしていた。
最後まで君は平気なふりをしていたけど、事故で負った怪我が重いことを悟られないようにするためにわざと強がっていたのはわかっていた。
けれど、自分が思っていたよりもずっと早く、彼女の怪我は進行していた。
唐突に胸が苦しくなる。
いつかこの時がくるのは知っていた筈なのに。
とっくの昔にそのことを覚悟した筈なのに。
最後に、君に言い残したことを言おうか迷う。
自信の無さが邪魔をして、あの三文字が今日までずっと言えてなかった。
ー今日こそは、ちゃんと君に伝えよう。
僕は、彼女と過ごした月日の欠片を集めていく。
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初夏、白百合が咲き誇る季節。
小学二年生の頃。
そっと一輪紡いで光にかざしている君の姿に、無意識に足を止めて見惚れていた。
彼女がそんな僕に気付いて、近づいてきた。
「ねえ、海がみたい。一緒に行こう?」
ふふっ、と笑いながら君は言った。
「うん。いつか連れていくね」
指切りをして、少し恥ずかしくなってそっぽを向いた。
何週間か経って、始めて夏休みに二人で見にいった海はちょうど祭りがやっていた。
色んな所から香る美味しそうな匂い。
歩く度に人とぶつかる感覚。
ちょうど辺りは暗くなり始めていて、ここだけ別世界のように見えた。
まだ小学生だった僕達は、全てが新鮮で輝いていた。
「何食べる?」
「アイス食べたいっ!」
少ないお小遣いから、彼女にアイスを買ってあげて、嬉しそうに頬張る君を見て、可愛いな。と幼ながら思った。僕の、一度目の初恋だった。
最大に打ちあがる花火を見て
「きれいだね。」
と言う彼女を見て、時間が止まればいいのに。と心の中でこっそり願った。
そんな思い出をいつまでも忘れないようにそっと胸の奥にしまった。
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彼女は息を振り絞りながら言った。
「いつか逢いに行きますから、それまで待っていて下さい。何十年経つか分からないけど」
君の瞳はひどく透き通っていた。
瞳に映る自分がぼうっと崩れていく。
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出す。
眼をそっと閉じて、涙が頬へ溢れた。
「好きだ。」
冷たくなった君の、紅の唇にそっと口づけをした。
氷雨が降る夜明けに、一人呟く。
「季節を越えてこの世界でまた出会えたら、
君の名前を呼んでもいいかな。」
窓を通りすぎる風から、百合の匂いがした。



