「山にある村かぁ? そんなもんはとっくの昔になくなっちまってぇ、今はなんもねぇぞぉ?」
「それは青山村のことですよね? 僕たちが聞きたいのはいまよい村のことなんです」

「いまよい村ぁいうたら、ただの噂じゃあ。実際にそんなもんんがぁあるとは、ワシはおもうとらんぞぉ」
「噂でもなんでもいいんです。なにか知りませんか?」

両手を合わせて懇願する雄一を見て男性は麦わら帽子を脱いで薄くなった頭をかいた。
「知っとることぉいうて、青山村のあとにそんな村がぁできたっていう噂だけじゃがなぁ? 山には入ったこともねぇし、最近じゃあ妙な行方不明ばっかしで、ほんにきしょくわりぃ場所じゃあ」

「その、行方不明者たちには共通点があったみたいなんです。みんな、心を病んで自殺を願っていた。いまよい村とは、そういう人しか入れないと聞きましたが、本当ですか?」

雄一の説明に男性は小さな目を大きく見開いた。
「なんじゃあ、そんなことまで調べとんかぁ。ほんなら知らんふりはできんなぁ。いまよい村いうんは噂じゃのうてなぁ、本当にあるんじゃ。あんたが言うた通り、自殺志願者しか受け入れられん、恐い村じゃ」