「いまよい村ってーのはな、青山村の次にできた村だ」
「そ、それじゃ今でもあの山の中には村があるってことでいいんですか?」
「そうだなぁ。ある人にはあるし、ない人にはない。そんな村だぁ」

「どういうことなんですか!?」
興奮した雄一がコップを倒して水がこぼれ落ちる。
「いまよい村はな漢字で今を迷う村と書くんだそうだぁ。だから、入れるのは今迷いがある人間だけなんだぁ」

「今迷い村……?」
達也が呟いた瞬間、両腕が泡立った。
体の芯から震えが湧き上がってきて両手で自分の体を抱きしめる。

なにか、とんでもなく嫌なことに自分が首を突っ込んでしまったように感じられた。
「いまよい村に入ってしまった人はどうなるんですか? 出て来られるんですか?」

雄一の額に汗がじっとりと滲んでいる。
「そりゃあ、誰かしらがそこから出てきたから、そんな村があるって噂になってるんだろうなぁ。だけど詳しいことはなにもわからねぇ。なにしろ、あそこには近づかないようにしてるからなぁ」

「本当に迷いがある人しか入ることができないんですか? 例えば、俺たちがそこに入れる可能性ってないですか?」
雄一は更に食い下がる。