『電気は通っているし、水も出る。それに冷蔵庫に食べ物があったから、拝借しました』
『勝手に食べてよかったのかな』
美加の不安そうな顔がカメラに映る。
『こういうときは大丈夫だよ、命の危険があるんだからさ』

確かに、この状況が本物なら文句をつける人はいないだろう。
『ついさっきまで人がいたような気配があるのに誰もいない。まるでメアリー・セレスト号や迷い家を彷彿とさせますね。今日もここに泊まろうと思うんですが――』

トミーがそこまで言ったとき、不意に外からガサガサと木々をかき分けるようんな物音が聞こえてきて、カメラが窓を向いた。
窓にはブルーの分厚いカーテンがかかっていて、外の様子はわからない。
『今の、なに?』

美加が怯えた声を出す。
『野生動物かもしれない。家の中にいれば安全だから、大丈夫』
トミーは返事をしながら窓へ近づいて行き、カーテンを開いた。

家の外は月明かりで薄暗く照らし出されている。
『特になにもないみたいです。夜だから、動物が出てきてすぐに引っ込んだんでしょう』
ホッとしたようなトミーの声が聞こえてきた直後だった。

窓の向こうの木々が激しく揺れて美加の短い悲鳴が聞こえてきた。
『あれは……人!?』