とある村の怖い話


夜の公園の中に雄一と夏美が入っていく。
「懐かしいなこの公園。ふたりでよく遊んだよね」
夏美が滑り台の手すりに触れて言う。
「あぁ。毎日のように来てたよな」
「夜の公園ってなんだか落ち着く」
それからふたりは木製のベンチに座った。
カメラマンである達也はなにも言わずに撮影を続けている。
「そろそろトミーチャンネルが始まるかも」
夏美がスマホを取り出し、達也へ向けて手招きをした。
達也と雄一で夏美を挟むようにして座り、カメラはスマホ画面を映し出した。
『沢山の人が通報してくれたみたいで、ありがとうございます。このトミーチャンネルはヤラセでもなんでもありません。本当に僕と、山田美加さんは自分が今どこにいるのかわからない状況です』
開始早々に映し出されたのは困惑顔のトミーと泣きそうな顔の美加だった。
ふたりは山の中にある小道のようなところに出てきていた。
『食べ物はあと少しだけ、チョコレートと飴があります。飲み物は沢の水。スマホの充電はモバイルバッテリーを持っているので、それでしてますが、あとどれくらいもつかわかりません』
昨日の配信では美加と出会ったことで随分テンションが上がっていたのだろう。
1日経った今日のトミーが現実に引き戻されたように大人しい。
『とにかく、歩いて人がいないかどうか、探してみます』
画面の中は弱い月明かりに照らされていて、周囲は木々に囲まれている。
どうにか道と呼べなくもない場所を選んで進んでいるみたいだけれど、とても人に出会えそうにはない。
《美加ちゃん大丈夫? トミーに変なことされてない!?》
《美加ちゃん疲れた顔してるね。トミーしっかりしろ!》
コメント欄はどんどん埋まっていく。
画面ではトミーと美加の足音だけが聞こえてきていて、異様さが増していく。
それからしばらく無言の動画が続いた後、ふいにトミーが駆け出した。
『はっはっ……み、みなさんこれを見てください!』
息を切らしたトミーがカメラを向けた先には古ぼけた木製の標識だった。
それは杭のように地面に突き立てられていて、かすれた文字「いまよい村」と書かれているのが読み取れた。
『いまよい……村? という場所の近くに僕たちはいるみたいです! みなさん! 僕たちの現在地はいまよい村です!』
トミーが歓喜して叫ぶ。
遅れてやってきた美加も標識を見て笑顔になった。
『この先に行けば村があることがわかりました。その村の人たちに助けを頼みたいと思います。さぁ、行こう』
トミーが美加に手を差し出し、ふたりはまた歩き出した。
そこでブツンッと動画は途切れてしまった。
「いまよい村だって。これでトミーも美加さんも助かるね」
夏美がホッとした表情で言う。
「よかったな。これで夏美の心配事はひとつ減るみたいだ」
雄一の顔にはまだトミーの行方不明が演出であると、疑っていると描いているようだった。