一歩前に足を踏み出すのも相当な勇気がいるようで、達也は何度も足を止めてしまいそうになりながらも進み始めた。

「これが、いまよい村の看板です。初めて見た……」
しばらく歩くと右手に木製の看板が見えて、そこで足を止めた。

今まで画面でしか見たことのなかった看板が、達也の目の前にある。
達也は雄一がやったのと同じように指先でそれを感触を確かめた。

確かにそこに実在している、木のざらついた感触がしっかりと伝わっていて、同時に恐怖心まで入り込んできたような気がして、すぐに指先を引っ込めた。

カメラはその先も続く小道を映し出した。
上へ上へと伸びている小道は、まるで人を吸い込んでしまいそうなほど真っ直ぐだ。

それなのに急勾配にはなっておらず、歩く人を疲れさせないようにできている。
「ここは……不思議な空間です。こんな山の中の道なら、もっと曲がりくねって足元が悪くてもいいのに、まるで村へいざなうように真っ直ぐに伸びています」

達也の呼吸が乱れているのは疲れたからではない。
恐怖に支配されつつあるからだった。