様々な方角から様々な女の声が誘ってくる空間に酔いそうになったとき、雄一が足を止めた。
カーテンに挟まれるようにして座り、うつろな視線をこちらへ向けていたのは夏美だったのだ。

夏美は他の女たちと同じように露出の高いワンピース姿で、ぼうっと天井を見上げている。
『夏美、おい、夏美！』
雄一が夏美の肩を揺さぶるとようやく視線をこちらへ向けた。
けれど目の焦点があっていない。

「おい雄一それヤバイかもしれねぇぞ。村のヤツら食い物になにか混ぜてるかもしれねぇ」
『そうみたいだな』
雄一は軽く舌打ちをして夏美の腕を自分の肩に回した。

『この子に決めた。さぁ、行こうか』
無理たり立たせると夏美はグッタリとした様子で雄一に体重を預けてきた。
そして引きずられるようにしてどうにか歩き出す。

『今度は私を選んでね』
『またねお兄さん』
女達の声を聞きながら部屋を出た雄一は素早く周囲を確認した。

人の気配はない。
『夏美、ちゃんと歩けるか？』