達也も、何も言えずにただカメラを構えているだけだ。
「ちくしょう！　ちくしょう！　ちくしょう！」
拳を握りしめて靴の爪先で土を蹴る雄一の頬に幾筋もの涙が流れていった。

悔しそうに何度も鳥居に拳を打ち付ける。
「夏美と一緒じゃなきゃ帰れないんだ。自分だけ家に帰るなんて、絶対に嫌だ」
流れ出す涙を拭おうともせずジッと鳥居の奥の山をにらみつける。
その足がまた鳥居へと近づいた。

「俺の命なんていくらでもお前らにくれてやる！　半年に一度のイケニエなってやるよ！　だから俺もその村に入らせろ！」

今までで一番大きな咆哮だった。
雄一の心が限界を迎えて痛みでボロボロに破壊されそうになっている。
ふと、今まで黙っていた達也が右手を伸ばして「雄一」と声をかけた。

だけど雄一は気が付かず、鳥居をくぐった……。
「え？　おい、雄一？」
鳥居をくぐった雄一の姿はこつ然と消えて、取り残された達也のとまどった声が聞こえてくる。