急にブレーキが踏まれて車がきしみ、画像が大きく揺れた。
「本気で言ってんのか?」
雄一の鋭い視線がカメラの奥にいる達也を睨みつけた。

「だってよ、夏美ちゃんの笑顔見ただろ? いまよい村だななんだか知らねぇけど、彼女が幸せだと思ってんなら、それでいいだろ?」
「ふざけんなよ!」

突如雄一が達也の胸ぐらを掴み、カメラが達也の膝に落ちた。
ふたりを見上げるアングルになる。

「いまよい村にいたら半年後にイケニエにされるかもしれない。手足を切断されて、殺されるかもしれないんだぞ!」

「わかってるよ! だけど夏美ちゃんはイケニエのことも知ってたじゃねぇか! そういうのも全部受け入れてんだよ!」

達也の言葉に雄一の手から力が抜けていき、そのまま垂れ下がった。

「夏美は死なせない。生きるために自分の体を傷つけてたんだ。そこまでして、生きていこうとしてたんだ。イケニエになんて、絶対にさせない」
雄一は静かな声で言うと、再び車を走らせ始めたのだった。