「うそ、それってどんな人!?」
希がすぐにポッキー以上の食いつきを見せた。

恋愛ごとに無縁のまま17年間過ごしてきた私達にとって、それは朗報以外のなにものでもなかったからだ。

「隣の高校の制服着てた」
「うんうん、それで!?」
「背が高くてかっこよくて。アイドルの菊田風紀に似てた!」

キャー!!
希が頬を押さえてその場で飛び跳ねる。
「菊田風紀とか一般人にいるの!?」
「いたんだよ!」

「それからそれから?」
「ずぶ濡れだった!」
「……は?」

希の眉間に一瞬にしてシワが寄る。
「ほら、昨日急に雨降ってきたじゃん? 相手、傘持ってなかったんだよね」
「あぁ、なるほど。制服着たまま泳いでたのかと思った」
「そんなわけないって」

「それで、なにか話しかけた?」
その質問に私はニマッと笑う。
一番希に報告したかったのはそこだ。

「相手はずぶ濡れだし、私は傘持ってるし。勢いで声かけたの。傘一緒に入りませんかって」
「うっそ! 美佳ってそんなに積極的だっけ!?」
私はぶんぶん得日を左右に振る。
「なんだか昨日はほっとけないって思ったんだよね」

「でもそれって相合い傘ってことだよね」
「ちょっと、それ言わないでよぉ!」
昨日帰ってから自分でも何度も考えたことだった。
なんて大胆なことをしてしまったんだろうと、布団の中で頭を抱えて転げ回った。

「それでそれで?」
「商店街まで一緒に歩いたんだけどアーケード内に入って『もう大丈夫。ありがとう』って!」
結局方向は自分の家とは真逆だったけれど、それはまぁ仕方ない。

それくらいの労力はチャラになるくらいドキドキしたし。
「ってことは商店街の近くの人ってこと?」
「だと思う」

うんうんと何度も頷く。
さすがに家までついていくのは気が引けて、そこで回れ右をして帰ることになった。
「で、相手の名前は?」

希にそう聞かれて私はまばたきを繰り返した。
「名前、名前はねぇ……えぇっと、なんだっけ?」
時々会話をした記憶もあるのだけれど見知らぬイケメンと相合い傘なんて状況下だったから、ほとんど忘れてしまっている。

「もしかして聞いてないの?」
「聞いてないかも」
「連絡先は!?」

私はまた首を左右に振る。
信じられない行動力を発揮して声をかけたのに、肝心な部分がすべて抜け落ちていたみたいだ。
これじゃどれだけ恋い焦がれても相手に連絡を入れることすらかなわない。

「ねぇ希、どうしよう!? どうすればまた彼に会えると思う!?」
目の前にいる友人にすがりつくと希は呆れ顔で肩をすくめた。
「ま、食べな」
ポッキーを差し出されて私はそれを口にくわえたのだった。