本を読みながら、カーテンから入り込む生ぬるい温度を感じてふと思った。
ー夏がくる。
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ゴールデンウィークだからと浮かれて、本に夢中になっていたら時間感覚を忘れていた。
カレンダーを見ると、ちょうど明日から学校。
最悪だ。ずっと休みだったら良かったのに
ーどこか遠くへ行きたい。
そんな気持ちに駆られて自転車の鍵を持って外へ飛び出す。僕がこうして、どこか遠くへ行きたい病にかかった時に必ず行く場所がある。重たい足を動かしながら目的の場所へ向かう。
かすかに夏の匂いがした。
霞む夕日が波に反射している。
海は、昔から何となく好きだった。ここにくると、悩みを波の音が書き消してくれるようで。
ここに来るのは嫌いじゃない。
けれど、1つ問題があった。
僕以外に、この海を通ってる人がいること。
「久しぶり。少年、相変わらず悩んだ顔してるね。」
しかも、毎回彼女に話しかけられる。
多分年上だと思う。そのこと以外は知らない。この人の名前も、どこに住んでるかも、教えてくれない。
けど、僕のことは聞いてくる
始めにこの海に来た時、この人に話しかけられているうちに、気持ちが押さえられなくて思わず泣いてしまった。
その日から海にくると毎回話しかけられる。
僕は静かに海の声を聴いていたいのに
「まだ、後悔してるの?あのこと」
僕には、誰にも言えない悩みがある。
それを彼女には話してしまった
ーあの時は確か、高校一年生の冬休み
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僕はこれからの人生をかけて勉強して、この高校に進学した。
弁護士になる夢を叶えるために。
けれど、高校生活はそんなに甘くなかった。
ギリギリで合格したからか、テストではどんなに勉強しても40点以下しか取れなかった。
友達もなかなか出来ない。
部活ではサッカー部に入ったけれど、ちょうどこの頃チーム内で喧嘩をして、ギスギスしていて僕がイメージしていた青春とは違った。
この高校に入ったのは、間違いかもしれない。
どんなに頑張っても変われない。
この世界がちっとも楽しくない。
気付いたら、家から飛び出していてこの海に来ていた。
「君、泣いてるの?」
目に手を当てると頬が濡れていた。
「花粉だよ。」
「少年、話しちゃえって。楽になるかもしれないし」
もうとっくに僕には限界がきていて、ベラベラと悩みを喋ってしまった。
話さなければ良かったな、と今さら思う。
けどあの時の僕には止められなかった。
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そして、今に至る。
「その顔は後悔してるね」
いいからもう、ほっといてくれ。
「わかるなら、聞くなよ」
「別に、私は後悔する必要ないと思うな」
「なんでだよ。この高校に入学したせいで
毎日つまらないんだよ」
「変えれると思うよ。今の君次第で」
「そんなわけないだろ。もう手遅れなんだよ」
「まだ、通過点にすぎないんだよ。
過去も君次第で変えられるのに」
「そんなの、ただの綺麗事だ」
彼女の瞳に映る僕は、まるで昔の自分を見ているような眼差しだった。
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過去は、僕次第で変えられる。
そんなわけないだろ。と思ったけれど、こんな毎日を変えたくて、ゴールデンウィークが明けた後、僕は勉強に全ふりした。
部活も止めた。人間関係のことを考えないように。
彼女とは、あの日を最後に会うことは無かった。
今日も机に向かって教科書と向き合う。
スマホでお気に入りの音楽を流すと、「よしっ」と気合いをいれてペンを持った。
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メモ帳に今後のスケジュールを記入していく。
最近は事務所と裁判所を往復していて忙しい毎日が続いている。
ふわっと生ぬるい風がした。
ー夏がくる。



