「 だって ” 俺が好きな匂いになる。”
” 源はただあるモノを使うだけ。”
その行為のどこに嫌な事があるの?
だって源は損なんてしてないじゃない?
例えば、源が今のシャンプーやボディーソープにこだわりがあるとか、自分で用意しないといけないとなると損だよね?
こだわりあったっけ? 」
「 ────えっ!!
…………????
いや、別にこだわりなんかないけど……。 」
薬局で一番やすいシャンプーとボディーソープ、リップだってそう。
こだわりなど皆無だ。
モゴモゴと答える俺に対し、翔は ” ね?おかしくないでしょ? ” と言わんばかりに首をコテンと横に倒す。
なんだかそういう問題じゃ無い気がするが、なんて説明していいか分からず黙ると……翔は更に買うモノをどんどん選び、全てスタッフの人たちに運ばせて車の中へ。
そして俺はまた車に押し込まれた。
「 …………。 」
恐怖しか感じない買い物量に青ざめているというのに、翔はやはり行きと同じ様に車が止まる度に俺の顔や口元を弄ぶ様に触る。
更に ” 可愛い ” ” 可愛い ” とまで言い出し、本格的な恐怖に襲われた。
「 ……お、俺……今日は実家に帰る……。
降ろしてくれ。 」
そう告げると、翔はニコッと笑いながら「 駄目。 」とハッキリ告げる。
その言い方は絶対に譲る気がない時のモノで、この場合いつも俺が仕方ないなと譲歩してきたが、今日は俺も引かない。
「 今日のお前は絶対変だ。
だから一旦距離をおこう。 」
「 …………。 」
翔は無視。
その後はシーン……とした車内で、気まずいまま結局俺達の家に到着してしまった。
「 ────っ! 」
とにかく嫌だという気持ちから、俺は即座にシートベルトを外して外に飛び出したのだが、突然どこからか現れたスーツを着た男たちに道を塞がれてしまう。
そしてそれを押しのけ外に出ようとしたが、そのまま優しく拘束されてしまい、” えっ!!? ” と驚いてしまった。
こいつら、絶対素人じゃない!
流れる様な拘束術にアワアワしていると、後ろからゆったりとした動きで翔がやってきて俺の二の腕を掴む。
「 さぁ、帰ろう。 」
「 いや、ほんっとに俺の話聞けって……。
っつーか、なんなんだよ、コイツラは。 」
掴まれた二の腕がやや痛くて顔を歪めながら尋ねると、翔はあっけらかんとそれに答える。
「 あぁ、源用の護衛達だよ。
いつも何十人単位で色んな所に待機させてる。
逃げるのは無理だよ、プロだしね。 」
「 はぁぁぁぁ~!!?? 」
突然聞かされる衝撃の事実!!
えっ?いつも……??
「 えっ、いつもって??? 」
「 ?毎日って事だよ。
何言ってんの?? 」
さも俺がおかしいみたいに言ってくる翔に……激しい怒りが湧いた。
どう考えてもおかしいのは翔!
こんなの絶対に絶対におかしい!!
「 いや、ふっざけんな!!
なんで俺がそんなプライバシーゼロの状態に置かれないといけねぇんだ!!
もうお前とは絶縁だ!!俺は実家に帰る!!
とっとと離せ!馬鹿野郎!! 」
大激怒して怒鳴ってやったが……翔は余裕そうにう~ん……?と首を傾げる。
「 そっか~。でも、それ俺は嫌なんだよね。
うん、じゃあ、仕方ない。
翔の実家を消そうか。
そしたら帰る所、なくなるでしょ? 」
「 …………はいっ?? 」
とんでもない一言にポカンとしていると、突然翔が胸元からスマホを取り出しどこかに電話し始めた。
「 あ、もしも~し。
今融資している< 木原会社 >との契約を今直ぐ切ってくれる?
────うん、そうそう。
それで根本っていう社員を切れば続けるって社長に言って。 」
「 ────っ!!!?? 」
< 木原会社 >は俺の父さんが働いている会社で、その社員は俺の父。
絶句している俺の前で翔はペラペラと喋り続ける。
「 それで、近所のスーパーでパートしている根本さんっておばさんもクビに。
あと< 洞野病院 >で働いている看護師の根本って女も切ってくれる?
う~ん……そうだね、適当に理由をでっち上げて────……。 」
「 ────翔!!! 」
翔の名前を叫ぶと、翔はピタリと止まり、ニコニコしながら俺を見つめた。
「 なに? 」
「 ……なんでそんな事するんだ。
酷すぎるぞ。 」
本気で怒りながらそう言ったのに、翔は本気で分からないのかキョトンとした顔を見せる。
「 ?だって仕方ないでしょ?
源が俺から離れるなんて言うから。 」
自分の望みを叶えるためにこんな事を平気でするなど正直考えられなかったし、しかもその望みが俺が離れない事?
なんじゃそりゃ!!と大声で叫びたかったが、今は家族が酷い事になるのを止めるのが先決だと、俺は静かな怒りを込めて翔に言った。
「 実家に帰らないから……それ、止めろよ。 」
「 そっか。良かった。
────もしもし?やっぱり今の話は全部なしで。
うん、またお願いね~。 」
通話を終えた翔は、スマホを胸ポケットに入れニコニコ笑いながら俺の手に自分の手を絡める。
「 じゃあ、帰ろうね。俺達の家に。 」
「 ……あぁ。 」
いわゆる恋人繋ぎの手にゾゾゾ~!としたのだが、とりあえず今ここで何か言えば家族に被害が及ぶ可能性もあるため大人しくする事にした。
すると大人しい俺を見てどんどん機嫌がよくなっていく翔はそのまま家へと歩き出す。
イタズラ?
嫌がらせ?
家に着いた途端サプラ~イズ!とかやる?
エレベーターに乗ってる間ありうる可能性を思い浮かべてみたが、その間も翔は髪や顔を弄ったり、臭いを嗅いできたりと気味の悪い行動をし続けた。
その行動はまるで…………。
恋人同士のようだ。
「 ────~っ!! 」
ブルっ!と体が震えてしまい、それを目ざとく翔に気づかれてしまう。
「 どうしたの?寒い? 」
翔は頓珍漢な質問をしながら、俺の体を抱き寄せた。
その行動にも、サァァァ~……と血の気が引き、思わず体を離そうとしたが、さっき起こった事を思い出し動きを止める。
とりあえず家に着いたら、なんでこんな事をするのか冷静に話し合おう。
そう誓って動かずにいると、翔は満足そうに微笑み、そのままエレベーターの後ろに俺の体をつけた。
そして体を密着させて鼻がつくくらいの距離まで顔を近づける。
「 ……なっ、なっ、なっ、……っ……!!? 」
「 ────あぁ~……可愛い。
今までなんで気づかなかったんだろう? 」
近すぎてピントがボヤけてもパーフェクトな美しさは現在だが、言ってる事はパーフェクトから程遠い。
「 はっ……?か、かわ────?? 」
「 もう可愛い、可愛い。世界一可愛いよ、源はさ。 」
熱に浮かされる様にブツブツ言う翔が気味悪いを通り越して心配になったが、ハッ!と思い出すのはここがエレベーターの中だって事。
流石にこんなの見られたら、恥ずかしくて死ぬ!
「 ────っ分かった!分かったから、離れろっ!! 」
翔の口元を覆い、なんとか顔を離すと、翔はプゥ……と小さく頬を膨らませる。
「 …………。 」
「 ……エレベーターの中だぞ?俺はこんな所で嫌だから! 」
素直に答えると、翔はパッ!と嬉しそうな顔へと一瞬で変わった。
「 うん。分かった! 」
……いや、本当に分かってる??
翔は心配になるくらいいい返事をすると、チンっ!とエレベーターが最上階へ着いた瞬間、俺を抱き抱える様に部屋の中へ連れてく。
────バンッ!
そして勢いよく扉を閉めると、そのまま後頭部を鷲掴みにされキスされた。
「 ────っ!!??────っ!!? 」
パニックを起こす俺を置き去りに、そりゃ~もう!
ベロベロ、チュチュチュッ、グッチャグッチャと、キスと言うには随分と攻撃的な行為をされる。
ちなみにコレが俺の人生初めてのキス。
ことごとく翔に邪魔されてきたせいで。
「 ~~っ!!────っ!! 」
「 ────ハァ……ハァ……。
は……ははっ……すっごい興奮する。 」
翔はいつもの様に余裕がある様子ではなくて、見たこともないくらい必死な様子だ。
「 か、かぇ────……。 」
散々絡め取られた舌が痺れて呂律が湧いて回らず……それでも何とか名を呼ぼうとしたが、そこで恐ろしい事実を知って言葉を飲み込んだ。
────え……?
た、勃って……??
言い訳しようがない翔のソレに驚き呆然としていると、今度は可愛らしいフレンチキスをされ、正面からギューっと抱きしめられる。
「 これから沢山愛し合おうね!
──あぁ、早く源の中に入りたいな……。
そしたら、もう全部俺のモノだ。 」
「 あ、愛し────……?? 」
クラクラしながら呟くと、翔は俺の胸ぐらを掴み、そのまま一気にシャツを破り裂いた。
「 ────うわっ!! 」
「 これはもういらないから捨てようね。ダサいし。
これからは俺の買った物だけしかダメ。 」
失礼な言葉に、ムカっ!として抗議しようとしたが、またキスされて口の中を舐め回され、言葉はとられてしまう。
「 ──…………うぅ~……。 」
そっちに意識が全て持ってかれている間に、翔はズボンをやはり乱暴に脱がしてくるので、慌てて落下を抑えていると────その手は後ろに回されパンツの中へ。
「 ────っ……────っ!!? 」
中の尻の肉をグッ!と掴まれ、一気に体温が下がったが……逆に翔の体温は上がった気がする。
「 源……源……源……。 」
うわ言の様に呟きながら、モニモニとお尻を揉んでくる翔に────とうとう俺は限界を迎えた。
「 わぁぁぁぁぁぁぉぁ────!!!!
あ────!!!あ────!!!ぁぁぁぁぁ────!! 」
「 !!? 」
ワーワー!と大声で叫ぶ俺に、流石に翔も動きを止めるしかなかった様だ。
「 えぇ~……。あのさ……もうちょっとだけ色気だしてくれない?
萎えるでしょ。
────まぁ、源らしくていっか。 」
萎えるとか言っているが、一向にガッチガチな下半身のまま、また俺の体を弄り始めた翔の顔を鷲掴み、更に続けてワーワー!と叫んだ。
「 嫌だ!嫌だ!絶対嫌だ!!
俺は根本 源! 」
「 ……いや、知ってるよ。
何で自己紹介なんてしてるの?? 」
呆れ顔の翔は、自分の顔を鷲掴む俺の手を優しく外し、チュッとキスしてくる。
それにもゾワッ!としたが、それ以上に────俺が源だと知っているのに、おっ始めようとしている事に絶望した。
最悪何か勘違いしていると思っていたのに……!
「 ……か、翔は、お、お────……俺の事好き……なのか? 」
唖然としながらそう尋ねると、翔はあっさり頷く。
「 うん。好きー。
だからセックスしよう。 」
まるで近所のスーパーへちょっと買い物に~レベルで言われて、ゴクリっと喉がなる。
翔は俺が好き。恋愛的に。
その事実を理解すると、凄まじい衝撃に頭を殴りつけられた様な痛みに襲われた。
い、今までそんな素振りなんて────?……と思ったが、チリッ……と引っかかる記憶が頭の中を過っていく。
” お前姉さん女房でもいるのか?
いつもお弁当豪勢だし、洗濯物だっていつもピシッ!としていて完璧だよな~。 ”
” あ、俺も気になってました~。
羨ましいっす~! ”
” いくら惚れててもそこまで彼氏のためにできないわ~。
根元君愛されてるわね。 ”
会社の同僚や上司、後輩までもが口々に俺の事を見てそう言ってくる。
そのため職場ではすっかり、彼氏にベタ惚れしている姉さん女房的な彼女持ち……みたいに思われているのだが、それをやってくれているのは同じ男の幼馴染だ。
そのため気にしていなかったが……もしかして翔は随分前から俺の事を……?
「 ……ご、ごめん。 」
翔がクニクニと俺の無い胸の乳首をこねくり出したのを止めずに、俺は慌てて謝る。
これじゃあ俺は、相手の恋心を利用するクズヒモ男と同じじゃないか!
「 俺は翔の事を恋愛的に好きじゃないから、セックスなんてできない。
それに女性が恋愛対象だから、翔がその対象になる事もない。
だから本当にごめん。 」
ここは下手に期待をさせずハッキリ自分の意思を告げ、今まで貰ってきたモノを返していかなければ駄目だと考えた。
このままズルズルと翔の時間を奪っては絶対にいけない。
俺は性欲は人より少し弱いと思うが、その対象は女性……だから申し訳ないが翔の想いには答えられない。
相当な覚悟を持ってそう告げると、翔はハァ……と大きなため息をついた。
「 そう。分かった。 」
「 ごめんな……。 」
申し訳無さに下を向こうとしたが……翔は俺の顎をグッと強い力で掴み上を向かせると、そのままニッコリ笑った顔をこれでもかと近づけてくる。
「 ────で? 」
「 ……えっ??な、何が……?? 」
言っている意味が分からず聞き返すと、翔は更に大きなため息をついた。
「 ん~……だから、今後の予定だよ。
じゃあ、まずはキスに慣れる所から始めて、徐々に触れ合う様にしていくしかないかな。
はやくセックスしたいけど……まぁ、ここは公平にしないとね。 」
「 …………。 」
────えっ?全然意味が分からない。
公平って何が???
「 いや……だから、俺はお前の気持ちに答えられないって────……。 」
「 ??二回も言わなくても大丈夫だよ。
だから頑張ろうね。 」
「 ?????? 」
もう理解が追いつかず、プスプス黒い煙が脳から吹き出す様になると、翔は俺のオデコにチュッチュッとキスをしながら説明してくれた。
「 全く……源は本当に頭が弱いなぁ~。
だから、源は俺の気持ちを受け入れたくない。
俺は好きだから受け入れて欲しい。
そういう事でしょ? 」
「 うんうん、そうそう。 」
ズバリ告げられる今の状況に、必死で頷く。
恋愛とは俺の常識ではそうやってすれ違い、一方の気持ちが帰ってこなければ成立しないモノだ。
つまりこの恋愛は成立しない!────が当然の答えだと思っていたが、翔は全く予想外の答えを口にした。
「 じゃあ、ここで恋愛にしない!ってなると、源の希望だけが通るって事じゃない?
それってすごく不平等だよね?
だから、源はこれから気持ちを受け入れる様に少しずつ努力する事。
俺は直ぐにセックスしたいけど我慢して少しづつ進める事。
ほら、これでお互い我慢しないといけないから平等になったね! 」
「 ????え……??
えぇぇぇぇ…………?? 」
ゴチャッ!とした頭で必死に考えると、とりあえず俺も翔も我慢する事は確かに同じ。
でも────……なんか違う気がする!!
「 いやいやいやいやっ!!?
なんか違う気がする!!
やっぱりそれ、おかしいだろ! 」
「 ??どこが??
でも……そっか~!源は自分の想いだけを通して良いって考えなのかな?
だったら俺もそれで。
はい、遠慮なくいただきま~す。 」
ニッコリとそれはそれは美しい顔で笑った翔は、そのまま俺の乳首をコリコリと弄りだし、ズボンを力ずくで降ろしてきた。
そしてまたしてもお尻の奥に向かって指を伸ばしてきたので……俺は力の限り叫ぶ。
「 分かった────!!!
それでいいから!!それでお願いしま────す!!! 」
体中鳥肌を立てながら半泣きで叫ぶと、翔は少々不貞腐れながらも手を止めてくれた。
「 ……はぁ。まぁ、仕方ないか~。
ホントはこのまま無理やり進めたいけど、少しづつ進めていくのも楽しいかもね。
そういうのしたことないし……。
じゃあ、とりあえずお風呂でお互いの体を洗う所からしてみようか。」
「 ……あ、あぁ……。じゃあ、それで……。 」
背中の流し合いなら初めてではないので了承すると、翔はほぼ丸裸の俺の服を丁寧に脱がし、次に自分の服を豪快に脱ぎ捨てる。
するとどうしても目が行くのは、まったく治まる事のない翔のソレ。
男として凄いと思う……それはそれはご立派なモノだ。
「 さ、俺ちょっと限界だから早く。 」
「 ……ん……?んんん~??? 」
唖然とそれを見ながらお風呂へ直行すると、泡と共に翔の身体を洗わされた。
えっ?なんかおかしくない??
初めてマジマジと見せつけられる他人の身体と、洗ってみよう体験の様な事をさせられている異常事態に、思考は遥か彼方へ飛んでいく。
「 ……うん……凄く気持ちいいよ。
本物の源の手……っ……。 」
そんな翔の声も耳から抜けて、もう無心で手を動かしていると……合間合間にベチャベチャキスの猛攻撃を受ける。
「 ……そうそう、上手上手。
ほら、お返しにココ洗ってあげるね。 」
そうして気がつけば風呂場に押し倒されていて、体中を触られるし舐められるし、もう体を汚しにきたの?と尋ねたい状態になった。
「 ……えっ…………????
????
ん……んんんっ???! 」
「 こうやってゆっくりお互いを知っていくって、面倒だけど……なんか良いね、こういうのも! 」
翔はクスクスと嬉しそうに笑いながら、楽しそうに触れてくるので、、本気で焦って翔の胸元を力いっぱい押す。
「 やっ、止めろって……!
こ、こんな事…………うわっ……!! 」
「 ん~……? 」
翔は俺の抵抗などものともせずに、俺の足を掴んで、まるでおむつを変えられる赤ちゃんの様な格好をさせた。
「 ……ハハッ。……すっご……。
源の全部……丸見えじゃん……。 」
翔は息を乱しながら、ジロジロと俺の全てを舐める様に見つめてくる。
「 ────っ!!や、やめろよ!!
恥ずかしいから!! 」
「 ハイハイ。分かってる分かってる。コレは駄目か……。
少しづつって約束だもんね。 」
無防備に晒される下半身の状態が心底恐ろしい!
恐怖にブルブルと震えていると、翔はそのまま探る様な手つきで俺の身体を洗い続けた。
目の前には、本当に幸せそうに微笑む翔の顔。
俺は殆ど我慢大会の様に、さわさわ触ってくる翔の手から与えられる刺激に耐える。
しかし、翔は俺の反応があった部分ばかりを重点的に触ってくるため、とうとう俺の限界が越えた。
「 ……ちょっ……も……む、無理だからっ!!
無理無理無理────っ!!!! 」
「 あー……もう、可愛い、可愛い、可愛い。
何だよ、コレ。 」
いや、お前がナニ!?
翔は半分意識がないんじゃないかと心配になるくらい、その行為に夢中で……俺の声は全く聞こえてない様だ。
結局その後、翔はお風呂場からベッドへと移動して、また飽きもせずに俺の身体を触りまくった。
どんどん激しくなっていくお触りに最後はショックで気絶してしまったが、翔の方はその後もひたすら俺の体を触っていたらしい。
朝起きたら、身体中の皮膚がヒリヒリして痛かったから。
◇◇◇◇
「 ……なんか、根元変わったよな……。 」
「 はぁ?? 」
昼休み────同期のアズマが訝しげな目をしながらお弁当を広げた俺に言ってきた。
「 ……いや、なんも変わってねぇよ。 」
「 い~や!変わったね!
前はそんなお洒落なんてしてなかったじゃねぇ~か! 」
ビシッ!と俺のスーツや時計、更には通勤用バックを順番に指さしていき、最後は顔を近づけクンクン!と匂いまで嗅いでくる。
「 ……気持ち悪いヤツだな~。匂いとか嗅ぐなよ。 」
しっ!しっ!と祓うように手を振りアズマを遠ざけるが、ジト~とした目で睨まれた。
「 匂いもなんか高貴な感じの匂いするし……なにより持っているモノがなんかめちゃくちゃ高いヤツだろ、それ!
あきらかに近所のデパートとかに売ってるヤツじゃねぇじゃん! 」
「 ……あ、う……うん……。 」
気まずさから下を向いてしまった俺は、なんとなく自分の腕に巻かれている腕時計を見下ろす。
スーツも腕時計もバックも……なんなら履いているパンツですら、全部翔から買い与えられたモノだ。
最初に好きだと告白され、更に少しづつ慣れていく事を約束させられてから、部屋には毎日の様に包装されたプレゼントみたいなモノが積まれている。
「 これもこれもあれも……全部似合うと思って買っちゃった。 」
「 …………。 」
その光景は海外の映画に出てくるクリスマス風景の様。
子供たちのために用意された沢山のプレゼント。
多分ここにクリスマスツリーがあれば、まんまそれ。
見上げる様なプレゼントを無言で見上げていると、翔は後ろから覆いかぶさる様に抱きしめてきて……目の前にぴらッとフリルがついたTバック?パンツを見せてきた。
「 今日はコレ着てよ。
お尻は丸見えになっちゃうけど、前はちゃんと隠れるよ。
おそろいのブラジャーも作らせたから着けてね。 」
「 …………。 」
震える手でそれを受け取ると、布の面積を確かめる様に手でゴソゴソと触ってみたが……どうみてもフリルがちょっとついた紐だ。
しかも追加で渡されたおそろいのブラジャーにいたっては、500円玉くらいの布が2個、紐で繋がったただの布で乳首がやっと隠れるくらいしかない。
……全裸の方がマシ。
そう答えを出して突き返そうとしたが、あっという間に裸に剥かれ、習慣化しているお風呂での触りっこタイムに入られてしまえばもう何も言えない。
結局お風呂から出たら、先程渡された変なパンツとブラジャーを着けられそのままベッドでまたペタペタと好き放題に触られた。
「 ……ハァ……ねぇ、ねぇ、源、ここは?
ねぇ、ここは? 」
「 ────っ~~っ!!! 」
色んな所に色んなタイミングで触れてきて、自分でも知らない感覚を探り探りで見つけられるのが怖くて怖くて……。
思わず縋る様に目の前の体に抱きつくと、翔はいつも幸せそうに笑った。
ニコッ!とまるで子供の様に。
そういえばコイツって、最初に会った時は全然笑わないヤツだったよな~……。
その笑顔を見ると、どうしても力が抜けてしまい恐怖は和らぐ。
……ま、いっか。
翔がそんなにも嬉しいなら、好きに触ればいい。
まぁ、嫌だっていっても無駄だけど……。
そんな心境になり────今に至る。
いや、何してんだよ~……俺は。
今までの事を思い出し、ズーン……!と気持ちは沈んでいき、絶望する気持ちで机に顔をつけた。
恋愛的な気持ちに答える事もできないというのに、ズルズルズルズル……。
これではマジでただ悪質に男に貢がせる悪女じゃねぇか!
凹んで覇気をなくした俺に、アズマは「 羨ましいぞ!このこの~っ! 」と頭をペチペチと叩いてくる。
地味に痛いソレをそろそろ止めさせようと、顔を上げた瞬間……近くを歩いていた同期の女性事務員< 和恵 >がササ~ッ!と俺の方へ近づいてきた。
「 ビジネスバックは有名ハイブランド製の90万越え。
スーツは多分オーダーメイド一点モノ……200万越え。
更に髪質と肌の調子から……日用品もかなり良いものを使っているとみた。
もしかしてエステも……? 」
ジロジロジロ~!とチェックしてくる和恵をジト……と睨むが、和恵は怯まない!
「 ……止めろよ。
そういう人の持ち物の値段を…………ん?
……??え、何?何??
もう一回言ってくれ。 」
「 あ、ちなみに今日の一番はその腕時計ね。
海外の老舗時計ブランドが、確か限定生産で作った希少モデル。
お値段は少なくとも5000万は越えていたはず……。 」
” 5000万 ”
家が買えちゃう値段に、ポンッ!!と髪の毛が全て空を飛び、隣にいるアズマの髪も同じく宙を舞う。
そしてガタガタと震えだし、腕時計もそれと連動して細かく揺れ動いた。
「 ば、ば、ば、ばっか野郎……!
そ、そ、そんなわけ……。 」
「 もしかして一億超えるかもね~。
あんた、ものすごい大富豪のお嬢さんでも捕まえたの?
だったら誰か友達紹介して~♡ 」
和恵は可愛らしくキュルン!と目を輝かせたが、目の奥はギラギラとぎらついている。
多分これが言いたくて近づいてきたに違いない。
婚活始めたって言ってたから……。
しかし、あまりの衝撃に俺はそれどころじゃない。
和恵を気にする余裕もなく、ガタガタ震えながら腕時計を見つめた。
こんなヤバいモノ達を平然と使っていたとは……。
俺は即座にポケットからハンカチを出し、時計を外すと────そのままソッ……とハンカチで包み込む。
「 これは俺の腕に巻いておいたら危ない。
このまま返す。 」
「 ちなみにそのハンカチも10万超えてるわね。 」
ぎゃふんっ!!!
トドメの一発に血反吐を吐いて床に崩れ落ちた。
勿論時計は抱きしめていて無事。
ガクガク震えながら立ち上がり、時計をバックの中に丁寧に入れておくと────突然周りにいた男性社員達が色めき立つ。
一斉に部内の出入り口の方を見るので、視線を追うと……その理由を知って大いに納得した。
以前はふわふわパーマのロングヘアだった髪型は、今や清楚なストレートサラサラヘアーに。
しかしまるでお人形の様なぱっちりお目々に、色白の肌に華奢な体は相変わらず変わらない。
外見はザ・お姫様。
文句なしの美女< 蝶野 舞子 >
彼女がこの部署へ届け物をしに来たため、男性職員達は色めきだったというわけだ。
「 くぅ~っ!!蝶野さん、やっぱりめちゃくちゃ可愛いよな~!!
あ~話掛けられただけで、俺気絶する~! 」
アズマも同じく目をハートにして興奮していたが、俺と和恵は大きなため息をついた。
何の因果か……同じ会社へ派遣社員としてやってきた蝶野さん。
その美しさは健在で、学生の時同様、直ぐに取り巻きの様なモノができてしまった。
ちなみに俺の事は忘れたのか、それともあえて他人のフリをしたいのかわからないが、完全無視。
まぁ、部署も違うため特に関わり合いがないので別にいいかと思っていたが……この蝶野さんは離れていても結構なトラブルメーカーで、多少なりともウチの部署にも迷惑が掛かっている。
「 ────チッ!あのクソ女。
仕事なんてぜ~んぜんしないで、ま~た人の婚約者とったらしいよ。
その気もないのに男に思わせぶりな態度とって、直接文句を言いにいくと周りの取り巻きから一斉攻撃されんのよ。
それで実際婚約が破断になっても、実際に不貞はしてないから訴える事もできなくて泣き寝入り。
あんなのにフラフラと……男ってホントバカ。 」
しら~とした様子で興奮しているアズマを睨みつけると、アズマはビクッ!と体を震えさせ必死に平静を装う。
俺は困った様に眉を下げ、確か……?と学生の頃の蝶野さんを思い出していた。
ザ・リア充で、それこそ華やかな友達は沢山いたが……その周りにはちょいちょい嫌な噂も沢山ある子というのが、俺が知っている蝶野さん。
ちなみに真意の程は知らないという程度の付き合いだったので、噂を信じているわけではない。
しかしその嫌な噂の中に、” 一定以上のステータスを持つ人じゃないと完全無視。 ” というモノがあったのだが、少なくともそのステータスを持たない俺やある特定人物達が完全に無視だったのからすると、どちらにせよ人を選ぶ人だとは思う。
そしてその人が羨む程の頂点ステータスとやらを持っている翔に執着していた事も、その噂を加速させた原因だった。
” 空野君~!今日良かったらサークルの飲み会があって~今日来ない? ”
” ねぇねぇ空野君!良かったらこの後ランチに一緒に行こうよ~。
すっごくおすすめの所なの~。ね? ”
翔は常に俺の側にいたので、必然的にそんなアタック風景は毎日の様に目にしていて、その時の事はよ~く知ってる。
それを全て ” 源が~ ” とか言って断るもんだから、俺は嫌というほど蝶野さんに嫌われ、完全無視から毎日睨まれたり悪口を言われたりが日常茶飯事に……。
すれ違う時の舌打ちや真意の全く違う噂話を流すのを経て、最終的には呼び出し&説教されたというわけだ。
「 …………。 」
嫌な記憶を思い出しストンと表情を失くすと、和恵がブチブチと文句を言い出す。
「 あの女、ほんっとに仕事しなくてさ~。
” アタシの仕事じゃないんで~ ” って態度悪く言い放つわ、勤務中は化粧直すか爪磨いてるかのどっちかだわで話になんなんのよ。
それで人に仕事押し付けて一人定時上がり。
” これからデートなんで。ごめんなさ~い。 ” だって!
次の日はそのデートのお相手に貢いでもらった物の自慢&ご披露大会よ。
これみよがしに高っかいバックやらアクセサリーやら……。
女性社員は完全無視してるけど、男たちは真面目に聞いてチヤホヤしやがるから……っ! 」
ムカムカ~!!とどんどん怒りの表情に変わる和恵を見て、まぁまぁと落ち着かせたが、学生の時も同じ様な話を聞いたのを思い出した。
確か日々のレポートの提出は真面目で大人しそうな女子学生に代わりにやらせて、卒論まで書かせたなんて噂……だっただろうか?
まさかとは思っていたが……。
なんとも言えない顔で黙っていると、和恵の他にも違う女子社員達が寄ってきて口々に不満をぶちまけた。
「 あいつ、” そんなつもりはなかったの~ ” って言って、いい感じだった男性社員をデートに誘ったのよ!
それでその人がデレデレになったら、私に ” あの程度の男でいいんですね、可哀想 ” ────とか言ってきたんです! 」
「 私なんて、男性社員にでたらめな嘘をつかれて、それを信じた人たちから悪口を言われました。
誰が結婚に焦って誰でもホイホイ男に声をかける婚活モンスターよ!
悔しい!! 」
「 私は奮発して買ったバックを鼻で笑われました。
” 誰にも買ってもらえないのって惨めですね ” って……。 」
キィィィ!!と怒りだす女性社員達に、アズマは口にしっかりチャックして仏の顔をしている。
俺も同じく余計な事は言うまいと黙っていると……突然蝶野さんがコチラを見て僅かに不快な顔をした。
なんだろう?
それに驚いていると、更に蝶野さんはまっすぐこちらに向かって歩いてきて、口を閉じる和恵と女子社員達、密かに歓喜しているアズマを視界にも入れずに俺の正面に立つ。
「 もしかして、根本君……だよね?
久しぶりだね~。 」
「 ……久しぶり。 」
今まで完全に無視されていたというのに、どういう事だろう?
その目的が分からず狼狽えていると、蝶野さんはチラチラとさり気なく俺の身なりを見つめてニコッと微笑んだ。
「 もしかして根本君って実家がお金持ちとか?
すご~い!知らなかった~!
学生の頃は色々誤解してキツイ言い方してごめんね……。
私、あんな事言うつもりなくて……でも当時仲良くしていた友達が、空野君の事が好きで悩んでいたから、私が代わりに言わなきゃ!って。
助けたいなって気持ちになっちゃったんだ。
もしかしてまだ怒ってるかな? 」
「 えっ?いや……全然怒ってないよ。
あ、あと俺のウチは貧乏よりの普通家庭だと思う。 」
ここで見栄をはっても仕方ないのでハッキリ告げると、蝶野さんはヒクッ……と口端を引きつらせた。
「 へぇ~……そうなんだ~。
じゃあ、そのスーツとか……もしかして借金でもしちゃったとか……?
……うわ~引く。 」
最後はボソッと小さな声で呟いたので、多分俺にしか聞こえてない。
蝶野さんの態度はあからさまに悪いモノになっていたので、そのまま話を切り上げた方がいいと思ったが……借金はしてないのでそこだけはしっかりと否定しておく。
「 いや、借金はしてないよ。
これは全部貰ったモノで……。 」
正直にそう話すと、蝶野さんは「 ────は? 」とあからさまに不快全開な顔で俺を睨みつけた。
そしてあからさまに蔑む様な目をして、ハァ……とため息をつく。
「 ……根本君って学生の頃と全然変わってないんだね。
外見も性格も。
お金持ちの人に擦り寄って、まだそうやって恵んでもらっているんだ。
自分で頑張ろうとか、そういう気持ちはないんだね。そういうのは良くないと思う。 」
「 そんな事は────……。 」
” ない ” と言いたかったが……あながち今の状況はそういう見え方もするかもと思うと、口から上手く言葉が出なかった。
そんな俺に向かい蝶野さんはハァ……ともう一度ため息をつき、悲しげに目を伏せる。
「 根本君って当時私の悪口を散々言って周りの人達を遠ざけようとしたよね……。
正直すっごく傷ついたし、悲しかった。
それでずっと悩んでいたけど……そんな嘘までついたのは、そうやって自分の強請ったモノを買ってくれる人達を独占したかったからだったんだね。
それって人として最低だよ……。 」
「 えっ??わ、悪口?? 」
一言も言ってない!と反論しようとしたが、蝶野さんのウルウルと水が張ってくる目を見た男性社員達が飛んできて、口々に俺を責めてきた。
「 根本!お前一体何したんだよ! 」
「 そうっすよ!蝶野さんをここまで泣かせるなんて……絶対ヤバい事したんじゃないんすか?! 」
こうガミガミと一方的に責められては、流石に口を挟めず……しかし、女子社員からは反撃の言葉が撃たれる。
「 どっかの仕事押し付けて帰っちゃう様なクソ女より、よっぽど頑張ってると思うけどね~。根本君の方が。 」
「 そうだよね~。お金持っている男にすり寄って恵んでもらうとか最低だわ~。
あれれ~?自分の事って意外に分からないんだね~。 」
「 嘘つくのってチヤホヤしてくれて、自分の強請ったモノを買ってくれる人達を独占したいからなんだ。
へぇ~?ほ~?酷~い。最低~。 」
嫌味たっぷりで言い返す女子社員に多少男性社員は狼狽えた様だが、モテない女達の嫌がらせととった様だ。
「 蝶野さんが可愛いからって僻むなよな。 」
「 女のヒス怖っ! 」
失礼極まりない言葉を女子社員達にぶつけ、最後は鼻で笑いながらシクシク泣き出した蝶野さんを連れて部内を出ていった。
「 ~っむっかつく~!ホントなんなの?
あのクソ女とクソ取り巻き共っ!! 」
和恵が一番キーキーと怒っていたが、俺はなんとも言えない気持ちで塞ぎ込む。
確かに蝶野さんに言われる筋合いはないかもしれないが、確かに今の俺は……?
「 …………。 」
ズーン……と凹んでいる所にアズマがポンッと肩を叩いてくる。
「 いや~……ま、蝶野さんホルモンのバランスがアレだったのかもしれないな!
女って月に一度そうなるから気にすんの止めようぜ! 」
多分俺を慰めようと言ってくれたのだろうが、女子社員が「 セクハラだ! 」一斉に怒り出し、そのまま昼休みの間中、アズマは説教されていた。
そのままボンヤリしながらもしっかり仕事をこなしてトボトボ帰ろうとすると、直ぐに近づいてきた車から翔が顔を出す。
「 源、お疲れ様。
さ、帰ろう。 」
その場に車を止め、俺を助手席に乗せるとそのまま発進してあっという間に家へ。
そしてまた部屋の中に入ると新たなプレゼントの箱があって、翔はルンルンと鼻歌を歌いながらその箱を開けていった。
「 う~ん……また新しいスーツを作らせたんだけど、生地を変えてみればよかったかな~?
それにボタンも形違いのが欲しいな。
あ~あと、ネクタイも追加で20本買ったんだけど、源はどれが一番好き?
あとは靴下と~部屋着もそろそろ寒くなってきたから新しい────……。 」
「 か、翔……! 」
俺は意を決して翔の名前を言うと、バックの中から腕時計を取り出し翔に差し出す。
「 これ、すごく高いヤツなんだろ?
流石に貰えないから返す。
それにやっぱり私物は自分の金で買うよ。 」
ハンカチを丁寧に開けて翔に時計を見せると、翔はう~ん?と首を傾げてその時計を手に取り────……。
────ポイッ!
なんとゴミ箱の方へ放り投げたのだ!
「 うわぁぁぁぁぁ!!! 」
俺は猛ダッシュでその放り投げられた時計に飛びつき、しっかりキャッチ!
そのまま床をゴロゴロと転がって真っ青になりながら翔を見つめたが……なんと翔は腹を抱えて笑っていた。
「 ……何? 」
大爆笑している意味が分からず無感情な目で睨むと、翔はヒーヒー笑いながら俺を指差す。
「 だって源ってば、そんなモノを必死に守っちゃってさ!
凄い面白い動きしてた!
それが見れたから買って良かったな~。 」
アハハ!と笑う翔に俺は青ざめた。
いや、家が買えるくらいの時計をそんなモノって……!
ブルブルと震えながら時計を避難させるため近くのテーブルの引き出しに優しく入れると、翔が直ぐに俺に近寄りチュッチュッとキスをしてきた。
「 ちょうどよかった。
また新しい時計買ったから明日はそれをつけて行ってよ。
それはデザインが嫌だったの? 」
「 いや、値段がだな~……。 」
ツラツラと自分の気持ちを語っているのに、その間全然話を聞いていない翔によって服は脱がされていき、いつものお風呂からのベッドでお触りコースへレッツゴーだ。
そして、いつものお触り時間を始めた翔を見て────不意に今日の蝶野さんとの会話を思い出す。
翔に何でも買ってもらって、貢がせて……こうして恋愛感情もないのに触れ合うなんて……なんちゃら交際と変わらないんじゃね?
────ゾッ!!
心底自分で自分が怖くなって血の気は引いていった。
しかもセックスはしたくないなんて、なんちゃら交際よりたちが悪いかもしれない。
そのままブルブルと震えだしてしまった俺を見て、翔はハァ……と大きなため息をつく。
「 ちゃんとゆっくり進むから、怖がらないでよ。
今日はこれ以上止めて寝ようか。 」
翔は俺にそのまま布団を掛けてくれて、そのままお風呂へ行った様だ。
本当は何か言わなきゃ!とか……何か行動しなきゃ!とか思ったけど、その時は頭の中がぐちゃぐちゃで……そのまま眠ってしまった。
その後目が覚めてパカッと目を開けると、俺を抱きしめて眠っている翔がいて……いつもどおりの朝が来た事を知る。
「 …………。 」
せっかくだから俺は翔の寝顔を見つめながら……これからどうしたいのかゆっくり考えた。
セックスは愛し合う証と考える俺にとって、このまま進むのは嫌だと思う。
でも翔はなぜか俺に執着していてソレをしたいという。
どちらかは諦めないといけない事なのだが……こういう時って皆どうしてるんだろう??
う~ん……と深く考え込んだが答えは出ず、代わりにそもそもどうして翔はそんなに俺に執着するのか?を考えた。
「 ……俺、別に美形じゃないし……金もないし……仕事だってすごくできるわけじゃないのにな。 」
俺はソロっ……と手を動かし、翔の顔に優しく触れた。
会った時から変わらない綺麗な顔。
それにすごくお金持ちらしいし、仕事だってすごくできる事は普段のテキパキした様子から分かる。
そんな男が執着してまで手に入れる価値なんて俺にはないんだよな……。
ズン!と気持ちは沈み、そのままペタッと縋る様に翔の体に抱きついた。
多分一回セックスしたら飽きられるだろうなとも思う。
翔はすごく飽きっぽいというか……全てに執着がないから。
多分何回かやってセフレみたいになって最後はさっきの腕時計みたいに……。
「 ────ポイッかな~……。 」
ハハッと乾いた笑いが漏れてきて、ならいっそ一発やってしまえばいいのでは……?とまで考えて悶々と悩む。
でもそれをしちゃうと俺のポリシーが……。
でも……でも……。
う~んう~んと悩みながら胸元にスリスリ頭を擦りつけていると、寒かったのか翔の体が震えだした。
「 ……? 」
体感温度としてはぽかぽかしていたので、不思議に思って翔の顔を見上げると……なんと翔は起きて困った様な顔をしているではないか。
「 あ……おはよう……。 」
とりあえず挨拶をしたが、翔の顔は真っ赤で……熱でもあるのかとオデコに手のひらを当てた。
「 顔赤いぞ。風邪でも引いたのか? 」
「 ……源ってホントに……。
────ハァ……もういいよ。 」
翔は真っ赤な顔のまま俺をギュッ!と抱きしめてから起き上がり、そのままシャワーへ。
その後出てくると、そのまま朝ご飯を作り始めてくれたので、俺もヒリヒリしている身体を洗いたくて直ぐにシャワーを浴びに行った。
そうしてスッキリ爽快!になった俺は、風呂場を出て直ぐにご飯の用意を手伝おうとしたのだが──……。
「 はい、源は、こ~こ! 」
そのままテーブルに座らされ、搾りたてフルーツジュースを飲まされてしまった。
これも朝のルーティン。
そしてそのまま出来立ての朝ご飯を雛鳥の様に食べさせられて、翔が選んだスーツやネクタイ、その他腕時計やハンカチに至るまで全て俺が手を上げているだけで装着される。
これも朝の……。
「 ……だからこれが駄目なんだ。 」
────ハッ!と我に帰ったらもう準備は終わっていて、その後は翔の運転する車で会社近くに止めてもらい、そのまま出社。
これも朝の……駄目じゃん!
頭を抱えながら去っていく翔の車を見つめ呆然としてしまった。
「 駄目だ、駄目だ、駄目だ…………。 」
そのままブツブツ呟きながら自分の部署に向かっていたのだが……なんだか妙な違和感に気が付き、辺りをキョロキョロと見回す。
すると、そこにはコチラを見てはヒソヒソと内緒話の様な事を言っている他部署の社員たちがいて、俺と目が合うと慌てて去っていった。
「 ……??なんだ? 」
いつもは空気と同等というくらい目立たないはずなので、注目されている事に驚き首を傾げる。
「 ……寝癖でもついていたか? 」
頭をペタペタと撫でつけながら、そう軽く考える事ができたのは────……自分の部署にいくまでであった。
「 おい、根本!! 」
「 根本君!! 」
部署内に入った途端、アズマと和恵が全力疾走で駆け寄ってくる。
その勢いに押され背を仰け反りながら「 おはよう。 」と挨拶すると、二人は頭を抱えて唸り声を上げた。
「 おはようなんて呑気な事言っている場合じゃねぇぞ……!
お前、今とんでもない事になってんだよ! 」
「 はぁ??とんでもない事って……まさか仕事のミスでもしたか!? 」
焦って真っ青になると、二人は違う!と言わんばかりに首を横に振った。
「 違うのよ~もっとヤバいの!
ほら、コレ見てよ! 」
和恵が差し出してきたのは一枚の紙で、それを目にした瞬間ギョっ!と目を見開く。
『 根本 源は、男のくせにパパ活をして金持ちのオジさんに金を貢いでもらっている。 』
『 多数の男に体を売る所で副業している。 』
そんな内容の言葉がズラッ~!と並んで書かれており、俺は白目を向きながら「 ……ナニコレ? 」と二人に尋ねたが、二人も知らないらしくまた顔を横に振る。
「 朝来たら、会社中に貼られていたんだ。
取れる分はうちの部署の奴らで剥がしたが、それを見た他の部署の奴らの中には信じちまった奴らもいるらしい。
ほら、最近やたらお前高いモン身につけてたじゃん?
だから信憑性が高いって……。 」
「 目立つと難癖つけるヤツはどこにでもいるからね……。
この量だと複数犯な事は間違いないわ。
……まぁ、犯人の目星はついているけど。 」
和恵が険しい顔で眉を寄せると、他の女子社員達も大きく頷いた。
まさか……。
申し訳ないがある特定の人物を想像してしまい、” イヤイヤ証拠もなしに…… ” とその考えを消そうとしたその時……突然部署内のドアが勢いよく開く。
「 根本君、大丈夫?!私、貴方が心配で……! 」
「 ……蝶野さん。 」
ウルウル涙目で悲しげな様子で中に入ってきた蝶野さんは、俺を気遣う様な言葉を言いながら近づいてきた。
ちなみにその後ろからは、取り巻きらしき男性社員たちも一緒に入ってきてニヤニヤと笑みを浮かべている。
とりあえずそのまま黙っていると、蝶野さんと共に入ってきた男性職員達が一斉に俺を罵倒し始めた。
「 根本、それはないわ~。
確かに最近随分と羽振りがいいなって思ってたけど、まさか男相手に体売っちゃってたわけ?
きっしょ~!
お前女っ気ねぇと思っていたけどゲイだったのかよ。 」
「 いやいや、モテなさすぎて男に走っちゃった系かもしれないっすよ~。
それにしても金目当てはないっすわ~。 」
「 えっ?こんなん相手するヤツいんの?!
お相手の金持ちジジィって、もしかして女性に相手されないくらい酷い見た目の人なんじゃね?
じゃなきゃこんなん選んで金払わないだろ~。
寧ろ金貰う方だろうよ。 」
ギャハハッ!と下品な声を上げて笑う男性社員達を、部署内の人たちが止める様に言うが、全く止まる気配はない。
そして暴言を吐かれている俺を見て……蝶野さんがこっそりと笑っている顔がチラッと見えた。
困ったな……。
これ以上仕事場を騒がせるのは迷惑だろうと冷静に説明しようとしたのだが、フッとある思いが過る。
確かに俺のやってる事ってパパ活ってヤツと変わらねぇな……。
恋愛感情なしに金で成り立たせる関係。
まさに翔と俺の関係を説明するんのにピッタリな言葉かもしれない。
それにズンッと心は重くなっていき、説明しようと開きかけた口は閉じてしまった。
あ~……俺ってやっぱり最低だ。
自分のやっている事に改めて嫌悪感が浮かび、非難してくる言葉をボンヤリと受け止め続ける。
すると、次に浮かんできたのは翔の幸せそうな笑顔だ。
そしてどうして今まで無理強いされても、なんだかんだで翔の事を大嫌いにならなかったんだろうと考えた。