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舟橋先輩と俺が交代。そう監督に言われた。
この絶体絶命のピンチの場面で。
……正直、胸が押し潰されそうだった。
先輩の前では強がってみせたけど、本当は自信なんかない。
俺に……この俺に、本当にこの場を任せていいのか?
『巧っ! お前ならできる!』
――後ろから聞こえた声。……青?
いや、いるはずがない。だって、今の青は――。
振り返ると、そこには空がいた。
そっと、俺の肩に手を置いて。
いつも感情を表に出さない空が、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
……なにやってんだ俺。マネージャー泣かせて、かっこわりぃ。こんなの、青に見られたら絶対に笑われる。
俺は両手で自分の頬をパシッと叩く。
「……俺は、負けねぇ!」
青に、そして自分に誓う。何としてでも、青を超えてやる――!
後ろから聞こえてくる仲間たちの声援。
その声を背に受けながら、俺は一歩一歩、グラウンドを踏みしめる。
見上げれば、どこまでも続く青空。
今、俺が立つのは……ずっと憧れていた舞台。
キャッチャーの町先輩が、優しく頷いてくれた。
今まで届かなかったこの場所――マウンドの上に、俺は今、立っている。



