NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 あの日から、毎日のように桐島の弾き語りを聴きに行っている。スタンプカードがあれば、もう2枚目に突入しているはずだ。でも、未だにクラスメートだとは認知されていない。自ら名乗り出て自己紹介するつもりはないし、目の前で聴いているわけでもない。そもそも、別にファンというわけでもない。自分でも理由は分からないけど、なぜか足が向いてしまう。

 今日も桐島はごく普通に教室に入り、当たり前に挨拶を交わし、窓際の一番前に着席する。そして、いつものようにイヤホンを耳に突っ込んだまま、頬杖をついて窓の外に視線を送った。よく見ると、指先がリズムを取っている。


 そんな彼女を観察している僕は、今日も変わらず対角線上から教室を傍観している。

 とりあえず、クラス分けをした2学年の担任教師たちの目は、本当に節穴だったと思う。底が見えないほど深い溝が形成され、クラスメートたちは見事に別れている。マリアナ海溝もびっくりの亀裂が、AとKをスッパリと分断しているのだ。今さら、少なくともKから歩み寄ることなど考えられない。

 とはいえ、僕の生活に変化はない。いつものように気配を消し、誰からも話し掛けられることもなく学校生活を送っている。勉強しかやることがないため、おかげ様で成績は進学コースの上位。だからといって、何も意味などありはしない。このコースで、少し勉強ができるに過ぎないのだから。

 ただ、こうなった今でも、ほんの少しは思うこともある。
 相変わらず、青崎は佐々木を意識した行動をしている。たぶん、クラスメートにはバレているだろうし、佐々木本人も気付いていると思う。ムリなことだとは容易に想像ができるし、青崎自身もそれを理解しているに違いない。それでも、色恋沙汰だけはグループ同士の対立関係は無効にならないものだろうか。

 まあ、こんなことを考えるのは僕の役目ではない、か。

 再び傍観に徹し、教室の中を見渡す。
 何気なく視線を動かしていると、前方の加賀と住吉の視線が青崎を追っていた。加賀の目には明らかに嫌悪感が浮かんでいる。某朝ドラのギャル的な加賀にとって、爽やかな優等生キャラの青崎はどうしても相容れない存在なのだろう。
 そのとき、不意に加賀の口元に笑みが浮かんだ。
 その表情を目にした瞬間、背筋にゾゾゾッと悪寒が走った。

 何も見ていない。
 何も考えない。
 何も口にしない。
 ない、ない、ない、ない、ない。
 僕には関係ない。
 机に視線を落とし、誰にも気付かれないように左右に首を振った。

 ザワザワとする気持ち悪さ。
 それは教室の空気なのか、僕の胸の内なのか。


 その夜、予想しなかったはずの未来は、当然の結果をもって僕を納得させることになる。