どれほどの時間、自動販売機の影に隠れていたのだろうか。
気が付くと周囲はすっかり暗くなり、アーケード通りからの騒音も聞こえなくなっていた。
今の時刻を確認しようとポケットからスマートフォンを取り出し、真っ暗な画面を目にして表情が歪む。しばらく電源を入れることができそうにない。
やっと前に進んだのに、過去の亡霊が足を引っ張る。
この世界は平面ではない。3Dなんだよ。だから階層が違う僕たちの道は、もう二度と僕たちの道が交差することも、重なることもない。僕は彼らの後ろ姿を、ずっと見上げて生きていくんだ。それでいい。だから、もう関わらないでもらいたい。
卒業直後、毎日毎日、何十回も電話が鳴り、メールが届いた。それは4月いっぱいまで続き、ようやく終わった。それでも、その後も毎月1度はメールが届いている。当然、そのメールは未読のままボックスに眠っている。
さすがに、もう大丈夫だろう。
自動販売機のライトに照らされたアスファルト。その場に両手を突き身体を支えると、ゆっくり立ち上がる。
少し先に見える明るい場所。アーケード街の老舗はすでに閉店している時間帯で、シャッターが下りている店が多い。通り抜ける学生も、家路を急ぐサラリーマンも少なくなり、ほんの1時間前までの喧騒はない。一応周囲を確認し、明るい場所を目指して歩き出した。
店舗から漏れる照明の灯りが細くなり、アーケードは薄暗くなっている。
そんなアーケード通りを、さらに暗い部分を選んで歩く。
目立たないように、いつものように、人目を忍んで歩く。
もうアーケードが途切れる場所にたどり着いたとき、どこからともなくギターの音に乗って歌声が聴こえてきた。
僕は無意識に足を止め、声の主を探していた。
アーケードが途切れる直前のシャッター前、薄暗い場所で座り込んで弾き語る少女を捉えた。一歩、二歩と勝手に足が動く。立ち止まって聴いている人はほんの数人。それでも、彼女は一生懸命ギターを弾き、声を張り上げている。
やがて曲が終わり、まばらな拍手が鳴った。
彼女は顔を上げて周囲を見渡し、はにかみながらペコリと頭を下げる。
このときになって、ようやく彼女が第一高校の制服を着ていることに思いが至った。
再び彼女の指が弦を弾き始める。額に汗を滲ませながら、僅かな聴衆のために歌う。
その表情はいつも目にしている彼女とは別人だった。
桐島 明莉。同じ立場のはずなのに、対極に位置するクラスメート。どちらのグループに所属せず、自然体で学生活を送っている特異な存在。



