NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 誰にも気にされていないことは分かっているものの、6時間目の授業終了とともに席のすぐ横にあるドアから廊下に這い出す。
 湧き上がる歓声、教室内の喧騒から逃げるようにして足早に階段を下りる。そして、まばらな生徒の間をすり抜け、正面玄関から校庭に飛び出した。

 この学校は市の中心部にはないが、それなりに街中にはある。そのため、学校周辺にわりと遊ぶ場所は多い。Aは学校の近くにあるアミューズメント施設、Kは1駅向こうにある全国チェーンのカラオケボックスに向かうようだ。
 何となくこのまま帰宅する気になれず、どこかに立ち寄ろうかと考える。いつものように下り電車に乗り、AとKには関わらないような場所を思い浮かべる。思案している間に自宅の最寄り駅を通過。考え事に集中していた僕は、慣れた足取りで3つ目の駅で電車を降りた。

 発車のアナウンスが響き、ハッとして我に戻る。顔を上げて周囲を見渡すと、ホームには別の学校の生徒が溢れていた。
 ここはいくつかの路線が集中する中心的な駅であり、同時に各方面に行き交う人達が集まる場所でもある。市内にある学校に通学する生徒の多くも、必然的にこの駅を利用することになる。

 よく見ていた景色に深く息を吐き出し、僕は左右に首を振る。
 大丈夫だ。数百、数千、数万人の人がいる。こんな場所で2人に出会うなんて、砂漠で砂金を見付けるような確率だ。
 僕は改札を抜け、2年ぶりの市内中心部に向かった。

 駅前の大きい交差点を渡り、狭い路地を抜ける。アングラな雰囲気がするため利用する人は少ないが、アーケード通りに行くにはこの道が一番早い。
 忘れていない。
 思い出してしまう。
 変わらないビル、初めて目にするショップ。
 確かにそこにあったモノ、それが無くなっている。
 それが当たり前だと、新しいモノがそこにある。
 15分ほど歩いたとき、見慣れたアーケードが目に入った。


 昔ながらの商店街。未だに残っている老舗は、人を繋ぎ止めるために、当時にしては高く、長いアーケードを作った。正面の店との間は30メートルほど。高さ20メートル。総距離はおそらく1キロを超える。その努力の結果、商店街はアーケード通りとも、アーケード街とも呼ばれ、未だに大勢の学生で賑わっている。もちろん郊外型のショッピングモールに客は奪われてはいるが、何もしていなければシャッター通りになっていただろう。

「懐かしいな」

 思わず零れる言葉に苦笑いしながら、よく立ち寄っていた本屋に入店する。地下が小説の文庫や単行本。1階が週刊誌などの雑誌。2階がマンガとライトノベル。3階には足を踏み入れたことはなかったが、まだ許されない年齢制限がある本が並んでいるらしい。うん、らしい。
 知らないうちに発売されていた新刊を数冊手に取り、「また集め始めるかな」と思いを巡らせる。あの頃のやり取りが耳に戻り、あわてて山に積み直した。

 本屋を後にし、さらに数店足を運んだ後、角にあるファーストフード店で休憩する。甘いバニラシェイクを啜りながら店内を見渡すと、一人で座っているのは僕だけのようだ。
 久しぶりに足を運んだアーケード街。思ったよりも楽しくはなく、ただ疲れるだけだった。朝から晩まで歩き倒しても飽きることも、息切れすることもなかったのに、もう足が動かない。ズズズッと最後まで吸い尽くし、カップをゴミ箱に投げ入れた。

 アーケードの外はすでに暗くなっていて、スマートフォンの画面には19時が表示されていた。
 前方に見えるゲームセンターを眺め、クレーンゲームの景品を確認したら帰宅しようと決める。
 「あそこにもよく行ったな」と、このときの僕は呑気に考えていた。