廊下側の最後列。教室に入ってすぐの席が僕の定位置だ。まるで、通り過ぎる人に村の名前を告げる案内役のようなポジション。一番最初に話し掛けられる以外、決して立ち止まられることのないキャラクター。
そう自覚した瞬間、目の前の景色が塗り変わっていく。
教室の中がドット絵のように細かく色分けされていく。
クラスメートたちの会話が遠くなっていく。
自分の意識が曖昧になっていく。
もしかすると、ロールプレーイングゲームのNPCたちにも、同じように眺めているのかも知れない。
鈍い音でチャイムが鳴り響き我に返る。
勘違いしないでもらいたい。別に自分を悲観しているわけでもないし、現状を憂いているわけでもない。ましてや、誰かに手を差し伸べてもらいたいなど思っていない。そもそも、本当に困っているわけではない。確かに、いわゆるボッチかも知れない。誰とも言葉を交わさない一日、そんな日もないとはいえない。いつも一緒にいた友達も3人、いたこともある。
休憩時間になると中心メンバーを中心に2つのグループが形成される。
窓際の最後列、いわゆる主人公ポジションにグループAの主要人物である4人が集まる。1年2組でカーストのトップに君臨していたメンバー。元幼馴染である青崎をはじめ、主人公席に座る王子様系の真鍋 大和、青崎の親友であるクール系美人の高木 心春、そして陸上部のエースである水島 享。誰とでも気さくに会話し、細やかな気配りも見せる。どこからどう見ても、クラスの中心になるべきメンバーだ。
しかし、このクラスにはもう1つグループが存在している。
教室の廊下側の最前列、グループAの対角線上に集まる4人。1年4組でカーストのトップに君臨していた、グループK。本当に、アイドルグループのようなネーミングはやめてもらいたい。でも、実際にグループAに対抗したネーミングだと聞いた。
こちらは、チョイ悪系の加賀 紗弥と住吉 旭の公認カップルを中心に、モデル系イケメンの佐々木 琉生、SNSで少しだけ人気があるという岸田 舞。着崩した制服にハッキリと分かる化粧をした女性陣にちょっと悪そうな雰囲気の男性陣。どこかのダンスグループを彷彿とさせる存在感。憧れを含め、人気があるのもうなずける。
そして、このクラスには僕以外にもう一人、特異な人物が存在する。
おそらく、僕以外に気付いている人はいない。あのクラスメートが、どちらのルームにも存在していないことに。
このクラスの人数は36人。AとKの勢力図は2等分。SNSのルームにはそれぞれの派閥メンバーが参加している。現在、どちらのルーム参加者も18人。
おかしいよね。僕が両方に参加しているのに、同じ人数になるはずがない。
だから、そのことに気付いた僕は、いったい誰が抜けているのかを調べた。その結果、僕もようやく認知した。対角線上、窓際の最前列に座る桐島 明莉の存在を。人数が合っているから誰も疑問に思わない。主要メンバーの4人以外はどうでもいい。周囲に関心がない。だから、誰も知らない。気付かない。
でも、見ていると分かる。彼女は普通に学生生活を送っている。普通に挨拶を交わし、会話し、笑って、黒板に向かう。
違和感しかない。



