土曜日の駅前は多くの人々行き交うが、自らの目的のために通り過ぎて行くだけだ。特に6月ともなると、頂点に達した太陽から降り注ぐ紫外線は、春先とは比較にならないほどに強い。当然、人々の足はいつもよりも速く、周囲を気にせずに先を急ぐ。駅前に敷かれた白磁色の敷石。反射に近い照り返しを受ける中、通行人の足を止めることはかなり難しい。だからこそ、この時期の駅前では実力者しか路上ライブを行わない。始めから終わりまで無観客だった、などということも普通に有り得るからだ。
この状況を目にし、過去の桐島はギターを弾くことさえできずに敗者となった。あれから4年余り、再び桐島は駅前にチャレンジする。
予告された開演の15分前、駅前に到着したオレは、ギターケースを背負っている桐島を見付けた。いつもとは違い私服姿だったため、すぐには気付かなかった。微妙に木陰になっている街路樹の根元に、いつになく緊張した面持ちで座っている。
「今日は頑張れよ」
そう言って、スポーツドリンクが入ったペットボトルを投げる。突然声を掛けられて一瞬ビクリとしたものの、こちらを向いてペットボトルを受け止めた。
「うん」
力ない返事に苦笑する。でも、今さらながら不安になるのも分かるし、自分の力に疑問を抱く気持ちも十分に理解できる。だけど、今回は大丈夫だと思うけどね。
5分前になって、いつもの女子高生3人組が2人増えて5人になって現れた。
「動画見せたら来たいって言うからさ、友達を2人連れて来たよ。明莉ちゃん、今日は頑張ってね!!」
「うん、ありがとう」
桐島はいつもの3人組の登場に、いくらか表情が柔らかくなる。多少なりとも、緊張が解れたらしい。
そこに、ときどき顔を出すようになった日向が登場する。
「桐島さん、応援に来たよ!!暑いけど、倒れないようにね」
そう言って、手にしていたペットボトルを渡す。
フッ、残念。オレが先に渡してるんだよ。
ふと日向の後ろに目をやると、そこには10人ほどのクラスメートの姿があった。明らかに初めて見る顔ばかりだ。
「あのね、動画見せたら来たいって言うからさ、連れて来ちゃったよ」
オマエもか!!
「来てくれてありがとう」
一度も話しすらしたこともないようなクラスメートに対し、桐島は想笑いを見せる。
そろそろ時間だ。
桐島はギターを構え、演奏を始める。アーケード街とは違い、音は反響せずに四方に広がっていく。それでも、その歌は十分な声量で駅前の空間を満たしていった。最初から聴衆がいたこともあり、何事かと通行人の足が次々に止まる。時間とともに人数は増えていき、路上ライブが終わるときには三重の人の輪が桐島を取り囲んでいた。
アンコールに1曲応えた後、駅前に大きな歓声が上がり、拍手が鳴り響く。その光景が、桐島の再チャレンジが成功したことを如実に物語っている。
桐島の挨拶によって路上ライブは終了し、集まっていた人たちが少しずつ立ち去って行った。一人になった桐島がギターを片付け始めたときを見計らい、近付いて声を掛けた。
「お疲れさん。おめでとう、リベンジは成功だな」
オレの言葉に、桐島が左右に首を振る。
その表情は、明らかに落胆していた。
「全然だよ。だって、最初から20人くらい集まっていたら、誰だって上手くいくよ。こんなの、他人の力を借りただけで、自分の力なんかじゃないから」
「何で?それって、ずっと頑張ってきたから集まった人たちだよね。もし桐島がこの4年間少しでも手を抜いていたら、オレはここにいなかったし、今日聴いていた人たちだって途中でいなくなっていたと思うよ。あの3人組だって推してくれていないし、日向だって見には来なかったはずだ。
これは桐島が頑張ってきた証だと思うぞ。自分の力だと、胸を張っていい。それに、みんなの思いなんだから、しっかりと受け止めるべきだよ」
オレの言葉に、桐島が大きく目を見開く。
「それに、もしも自分の限界にぶつかってしまったときは、諦めるんじゃなくて、協力してぶち壊してしまえばいいんじゃないのか?もし失敗したら、準備をして再度チャレンジ。それでもダメだったら、一人ではく二人でリトライ。それでもダメなら三人で。
少なくとも、オレはいつでも桐島に協力するよ。オレ一人でダメなら日向に手伝わせる。それでも進めないなら、オレの親友と書いてマブダチを参加させる。だから大丈夫だ。って、なに泣いてんだよ」
「うるさい」
この世界にNPCなんてものは存在しない。
全ての人にメインストーリーがあり、全ての人がメインキャラクターだ。
誰も操作していないキャラクターなんて存在しない。
自分がNPCだと感じることがあったら、それは自分を諦めてしまっているだけだ。
でも、そこは行き止まりなんかじゃない。
もし、限界を感じて進めなくなっている人がいたら、もう一度だけ周囲を見渡してほしい。
それでも協力してくれる人がいないなら、遠慮しないでオレを頼ればいい。
大丈夫、オレは正義の味方だから。



