推しているキャラクターが、通学用のカバンの金具からブラ下がっている。ユラユラと揺れるキャラクターが、半歩前を歩く日向の動きにシンクロする。微笑ましく眺めていると、不意に日向が振り向いた。
「すっごい久しぶりに来たよ。以前はよく来てたのになあ。今日はどこに連れて行ってくれるのかなあ。楽しみだなあ」
もうホントに、日向の目がキラキラしている。まるで少女マンガのヒロインみたいだ。期待しているところ申し訳ないけど、期待に応えるのはオレではなく桐島だからね。頑張れ、桐島!!
アーケード街に18時ころに到着したため、時間潰しにゲームセンターに立ち寄る。オレのカバンで自己主張しているキャラクターが、どうしても欲しいとのリクエストがあったためだ。そういえば、日向も推していた気がする。
散財した日向がどうにかキャラクターをゲットしたとき、壁に掛かっている時計の針が19時を指そうとしていた。路上ライブの会場までは徒歩で5分弱。少し急げば3分程度で到着する。
時刻を示して日向を急かせると、いつもの場所へと向かう。途中、シャッターが下りていく様子を見た日向が珍しそうに立ち止まったりしたが、どうにか開始時間には間に合った。
アーケードの隅っこには、すでに推し宣言をした3人組が陣取っている。一昨日騒ぎになったにも関わらず、桐島の出待ちをしている人がさらに4、5人立っていた。歌い始めれば、もっと増えるに違いない。
「何これ?弾き語りの路上ライブ?」
ソワソワした様子で、日向が周囲を見渡す。今日は日向が一緒のため、定位置の店舗より少し前に立っている。それから5分もしないうちに、ギターケースを背負った桐島が現れた。「明莉ちゃん!!」という3人組みの声援に、桐島が軽く会釈をする。堂々と我が校の制服を纏った女子高生が登場して驚く日向。しばらく凝視した後、こちらに振り返った。
「あれって、桐島さんじゃない!?」
オレは平然とした態度で、少し自慢げにうなずいて見せる。
「そうだよ」
なぜか殴られた。
いつものようにギターを奏で、歌い続ける桐島。
隣では手拍子をしながら、知っている曲を一緒になって口ずさむ日向がいる。
いつもと同じはずなのに、歌に緊張感がある。
いつものように1時間弾き語りをした桐島が、集まっている人たちを見渡して口を開いた。
「今週の土曜日、14時から駅前で歌いたいと思います。もし時間があったら、聴きに来てください。お願いします!!」
歓声を上げて拍手する3人組。
いつの間にか、日向も一緒になって拍手している。
オレはというと、拍手すせず、頭を下げる桐島を見詰めていた。
オレは、それがどんなに重い決断か知っている。
自分の無力さを思い知らされ、現実に跳ね返され一度は諦めた。ぞの状態から、自分を見詰め直し、弱さを認め、限界を目指した。
桐島は今、もう一度自分の限界にチャレンジしようとしている。
そんなこと、並大抵のことではできない。
また、打ちのめされるかも知れない。
今度こそ、立ち直れないかも知れない。
オレには、怖くてできないかも知れない。
素直にスゴイと思う。
心から応援したいと思う。
もし、また負けたとしても、きっと立ち上がるに違いない。
周囲から一拍遅れて、精一杯の拍手を贈る。
頑張れ、今度こそ大丈夫だ!!



