NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 加賀をはじめとした4人は、学年途中であるにも関わらず、普通科に転籍という異例の措置が採られた。しかも、4人がそれぞれ違うクラスという徹底ぶりだった。これは、動画が外部から送信されてきたこと。そして、撮影者が不明であることから、その他のデータが存在する可能性を考慮しての対応だった。下手に処分を誤れば、メディアに情報が漏洩することも有り得るからだ。2週間の停学明け、4人はここに戻ってくることはない。


 教室内の様々な場所で離合集散を繰り返すクラスメートたち。その様子を眺めながら苦笑する。まあ、そうなるのも理解できる。昨日は、グループAの中心人物であった日向の離脱。今日は、グループKが事実上の解散。クラスメートたちが、面白いほど右往左往している。まるで、獲物を探すアリのようだ。

 そんな中、いつもと変わらないのは3人だけ。

「で、いつ連れて行ってくれるの?」

 日向がオレの隣にしゃがみ込み、机にアゴを乗せて問い掛けてくる。日向には桐島の名前は伏せた上で、昨日起きたことを大雑把に説明してある。隠していてもオレが関わっていると発覚した時点で、何をしていたのか分かってしまうからだ。
 考えながら視線を前方に移すと、相変わらず桐島はイヤホンを耳に突っ込んだまま机を抱き締めている。そのとき、少しだけ顔を上げた桐島と目が合い、学校では常に険しい表情が少しだけ緩んだ。

「今日はちょっと用事があるから、明日なら大丈夫」
「じゃあ、明日の放課後ね」
「おう」

 日向は教室の中でも、普通に話し掛けてくるようになった。これまでのように一部のクラスメートだけで固まることはなくなったが、それでもクラスの中心になっている。真鍋は昨日、日向に告白して玉砕。窓際の一番後ろで真っ白な灰になっている。結果など初めから分かっていたことだが、本人は自信満々だったと聞いた。


 昨夜、とうとう決意したことを実行した。
 何度も躊躇してはやめたため3時間以上かかってしまったが、どうにかメールフォルダを開いた。読んではいなかったものの、削除することもできなかったメール。その数は最近のものも含め100件を超えていた。
「ストーカー防止法違反で検挙されるぞ」
 悪態をつきながら、1年以上が経過して初めて内容を確認した。

>ちょっと背が伸びたんじゃないのか?もしかして抜かれてたり?
>クレーンゲームの景品にあのキャラクターがあったぞ!!狙わないのか?

>ちゃんと2年生になったかー?塾いくなら一緒のところに行こうぜ!!
>真二がフラれた

>クリスマスを前にして彼女ができましたー!!
>真二に彼女ができた。オレも彼女欲しい・・・

>学園祭来いよなー
>オレらヤキゾバするんだぜ。こっそり安くしてやるからさ!!

 画面に表示される二人のメール。
 1年以上も返信すらないのに、毎月1度は必ず届いていた。何でもない内容だけど、読んでいるうちに文字が滲んで読めなくなる。
 だたの日常が書かれているだけなのに、一緒にいた頃の楽しい時間を思い出して、もう二度と戻らないものと諦めていたのに、それがずっとここにあったことが嬉しくて、溢れる涙を止めることができなかった。

>一緒の高校じゃないけど、放課後遊ぼうぜ!!
>大学は一緒のとこに行こうな!!

>ずっとオレたちは親友と書いて「ダチ」だからな!!
>忘れんなよ、何があっても友達だからな!!

 そうだった。
 受験に失敗したくらいで、簡単に切れるような関係ではなかった。
 でもな真二、オレたちは親友と書いて「ダチ」ではないんだぞ。「マブダチ」って読むんだよ。

 大きく息を吐き出して、文字を入力していく。

>明日、ゲーセンに集合。クレーンゲームであのキャラクター落とすぞ!!

 送信した直後、すぐに返信が届いた。

>OK!!
>了解!!

 そして放課後、普段見慣れない特別進学クラスの生徒が教室に顔を見せた。廊下から教室の中を見渡した後、一番手前に座っていたオレに気付くと眉根を寄せる。

「ヒドイな、何で仲間外れにされてんの?」
「一緒に行くつもりなのか?」
 少し震える声に、颯真は中学生の頃と変わらず飄々と答える。

「もちろん!!」

 そして、ニッとあの頃と同じ笑顔を見せた。