「やめろ!!」
全く躊躇することなく、二人の間に身体を滑り込ませる。盾になるような形で、住吉の視界から桐島を隠した。
「あれれ、北山君じゃないですか。これは、いったい何のマネかな。もしかして、オレらの会話を盗み見して、ああ、また裏切ったってことなのかなあ。幼馴染の青崎を見捨て、今度はオレらを裏切るってことですかあ。―――マジで、舐めてんのかオマエ!!」
住吉の怒号が響き、伸びてきた手が胸倉をつかむ。
加賀と岸田の高笑いをバックに、佐々木が笑いながら近付いて来る。
「青崎のときは見てただけだったんだから、今さらかっこつけても仕方ないだろ。クズはクズらしく隅っこで震えとけばいいんだよ」
佐々木を睨み付け、住吉の手首をつかんだ。
「確かにオレは卑怯者のクズだよ。
ウソ告を知っていながら、日向に伝えなかった。
このことで日向を傷付けもした。
でも、実際にダマしたのはオマエたちだろ。
だから、オレは悪くない。
オレは知っていただけで何もしていない。
だから、オレは悪くない。
そう思ってた。
そう信じ込もうとしていた。
でも、オマエたちのおかげで思い出したよ。
やっぱり、オレが悪い。
ずっと、オレが悪かった。
本当の目的を忘れて、受験に失敗したことを引きずっていた。
自分の勉強不足を棚に上げ、他人のせいにした。
あと一歩の努力を怠ったのに、環境のせいにした。
自分のせいだったのに、不合格になったことが恥ずかしくて外に出なくなった。
見捨てられるんじゃないかと思って、こちらから友達の縁を切った。
自分の能力を見限って、目立たないようにしていた。
でも、そうじゃなかった。
偏差値が高い高校に行くことが目的ではなかった。
手段と目的を混同して、目標を見失っていた。
確かに、オレはバカだ。
何も分かっていなかった。
屁理屈で、自分で自分を小さい型には嵌めていた。
まだまだ、限界ではなかったのに」
住吉はオレの手を振り解き、もう一度胸倉をつかんで絞り上げる。
「オマエ、何わけが分からないこと言ってんだ?」
「学校の外なんだし、ぶん殴っても大丈夫なんじゃない?」
住吉と加賀の会話が聞こえ、それを了承するように住吉の笑みが深くなる。そして次の瞬間、日向に殴られた場所に再び激痛が走り、同時に後方にたたらを踏んだ。
「北川!!」
桐島が慌てて立ち上がり、背後からオレの背中を両手で支えた。その様子を見て、加賀と岸田がお腹を抱えて笑っている。佐々木は「オレも真鍋の代わりに殴ってもいい?」と言って近付いて来た。
そのとき、不意に少し離れた場所で経過を見ていた女子高生3人組が口を開いた。
「もしかして、アンタ、加賀?」
突然自分の名前を呼ばれた加賀が、不機嫌さを隠さずに振り向いた。
「誰?馴れ馴れしくアタシの名前呼ぶなんてさ」
「ア・タ・シ、だけど」
女子高生たちの方を向いた加賀は、3人の顔を見て真っ青になった。
「アカネ!?」
「アカネさん、だろうが。何を小生意気にイキってんだ?」
二人の様子が力関係を如実に物語っている。
住吉は3人の制服を確認して黙り込んだ。3人組の高校は、悪い意味で有名な学校だったからだ。
「明莉ちゃんは、アタシたちの推しなんだよ。何か文句があるのかよ。それ以上面倒臭いことするなら、それなりの対応させてもらうぞ。分かったらサッサとどっか行けや」
加賀は振り向いていた住吉に対して左右に首を振ると、急いでオレたちの前から去って行った。それを見届けたアカネと呼ばれた女子高生は、自分のスマートフォンを見せながら近付いて来た。
「ごめんね、痛かったよね?
でもさ、おかげで決定的瞬間を撮ったから。後で、アンタのとこの学校にメールしとくから、ね」
翌日、4人の暴力行為と大騒動の一部始終を撮影した動画が、誰かの恥ずかしい演説とともに学校に送り付けられた。顔が鮮明に写っていたところから犯人が判明し、4人はこれまでの余罪を含め厳しく処分されることになった。



