NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 どうすればいいのか、何も思い付かないまま放課後を迎えた。残り時間は刻一刻と減っていくが、本格的に何も思い付かない。とりあえず学校を出て、アーケード街に向かう。集合時間が19時と言っていたことから、その20から30分後がタイムリミットだろう。もう桐島を止める方法がない。

 逸る気持ちを落ち着かせているつもりでも、自然といつもより速足になる。
 路上ライブの会場に到着したのはまだ17時前だった。立ち読みに行っている場合ではないため、すぐ近くにある公園のベンチに腰を下ろす。時間が迫っても何も浮かばない。イライラしたまま時間だけが過ぎていく。少しずつ増えていく帰宅途中の社会人。騒ぎながら通り過ぎていく高校生。うるさくて考えがまとまらない。徐々に影が長くなり、陽の光が弱くなってくる。気が早い街灯が点灯し、夕暮れが辺りを飲み込んでいく。そして、ついにギターの音が耳に届いた。

 視線を上げると、少し離れたシャッターの前で、桐島がギターの音を確認している。公園の時計を見上げると、いつの間にか19時を回っていた。

 知らせない。
 桐島には伝えない。
 知っているけど、教えない。
 いつも通りに歌って欲しいから。
 雑音に惑わされず、目標に向かって突き進んで欲しいから。
 どうすればいいのか分からない。だけど、絶対にその歩みは止めさせない。
 うん、正義の味方がどうにかするよ。

 いつものシャッターよりは少し遠いものの、公園は一段高くなっていて周囲がよく見える。歌い始めた桐島の前には昨日もいた女子高生3人組が陣取っている。その他、すでに5名ほどが立ち止まって聴いているようだ。着実に認知度は上がってきているように感じる。だからこそ、ヒマ潰しの道具として足を引っ張らせはしない。

 流行りの歌を3曲聴いたところで、ピンク色が視界に入った。まだ少し距離があるが、間違いなく岸田だ。制服から私服に着替えているが、4人がまとまって歩いて来る。オレは公園を離れ、いつもとは違って聴衆紛れた。


 それは、桐島が4曲目を歌おうとして前奏を弾き始めたときだった。
 突然、4人組の男女が桐島の前に身を乗り出してきた。そして、その中の一人、住吉が周囲に聞こえるように大声で叫んだ。

「ヘタクソ過ぎて耳が痛いんだけど!!よくそんなヘタクソなのに、公衆の面前で歌ってるなあ。騒音だよ、騒音。マジで迷惑なんだよ。もう、やめちまえよ!!」

 高笑いが響き、演奏を始めていた桐島の手が止まる。そんな桐島に少しずつ近付きながら、他人のフリをして追い込むように詰る。せっかく立ち止まって聴いていた人たちが、一人、また一人とこの場を後にする。誰だって、面倒なことに巻き込まれたくはない。

「どうせオマエみたいなヤツは、教室の隅で小さくなっているような陰キャなんだろ。学校の外に出たらどうにかなるかも、とか夢を見ているのかも知れないが、どこまでいってもザコはザコだ。他人の迷惑なんか考えずに騒音を撒き散らして、自己満足に浸ることぐらいしかできないんだよ!!」

 再び響く4人の嘲笑。しかし、それを遮るように桐島が一歩前に出た。

「アンタたちにとやかく言われる筋合いはないわ。聴きたくなければ、どっかに行けばいいじゃない。アンタたちに聴かせる歌なんかない!!」
「ああっ!?」

 次の瞬間、突き飛ばされた桐島がシャッターにぶつかり大きな音が響く。
 ギターを抱き締めて倒れている桐島を、住吉がヘラヘラと笑いながら見下ろす。その背後には残りの3人が、酷薄な笑みを浮かべて立っていた。