NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 いつも通り1時間ほでライブは終了。最初からいた女子高生3人組に声を掛けられ談笑する桐島。女子高生たちが手を振って去って行った後、ゆっくりと桐島の元に歩み寄った。

「お疲れさん」
 そう言って、少し温くなったスポーツドリンクを差し出す。
「ありがと」
 桐島は受け取ったペットボトルのキャップを回し、ゴクゴクと喉を鳴らしながら流し込む。一息ついた後、カバンから取り出したタオルで顔と首筋を拭いながら、こちらにチラリと視線を向けた。
「で、何かあるの?」

 話し出すきっかけを得たオレは、意気込んで身を乗り出した。
「明後日、加賀たちがここを襲撃するって言ってるぞ」
「ふうん、そう」
 桐島は何でもないことのように、空返事をして受け流した。目の前に迫っている危機を伝えたはずなのに、桐島はまるで他人事のように相槌を打つだけだった。

 今度は、少し語気を強めて告げる。
「いや、だから、人数集めて荒らしに来るって!!」
「だから何?」
「何って」
 状況が判断できていないのか、気にする素振りさえ見せない桐島に少しイライラする。事前に知っていれば対策もできるし、安全に回避できるかも知れない。それなのに、こんな感じでは、わざわざ教えに来た意味がない。

「だから、襲って来る日時が分かってるんだから、アイツらを避ける方法とか考えることができるだろ。その日は路上ライブを中止するとか、場所を移動するとか、時間帯を変えるとか、今からなら」
「どうして?」
「いや、だからっ」
「どうして、私が逃げないといけないの?」

 桐島の言葉に、説得を続けようとしていたオレは二の句が継げなくなった。
 そんなオレの様子を見て、桐島は呆れた様子でため息を吐いた。

「あのさ、あの人たちが来るからといって、なぜ私が路上ライブを止めないといけないの?止める理由なんて、どこにもないよね」
「いや、でも―――」「ないよ」
 オレの言葉を、桐島が強い口調で遮る。

「私は自分の目標を決めて、そこに向かって進んでいる。それなのに、どうして、どうでもいい人たちのために立ち止まらないといけないの?
 他人のジャマをして、迷惑かけて喜ぶなんて、ただのお子様じゃん。現実を直視できずに逃げてるだけじゃん。そんな人たちに負けるほど、もう私は弱くない。そんな人たちのために道を譲るほど、私はヒマじゃない」

 そう言い切った桐島を見て、その強い意志が宿った瞳で見詰め返されて、オレは肩から力を抜いた。
 何を言っても桐島は自分の意思を曲げることはないし、路上ライブを中止することはないだろう。もう桐島は目標を決めた人間だ。
 それならば、オレはオレでできることをやるしかない。