そのまま非常階段を下りて行き、校庭に出ると下校中の生徒の波に乗って駅に向かう。
日向は真っ直ぐ帰宅するらしく、一緒に帰ることになった。ご近所さんなだけに、利用する電車も最寄り駅も一緒。下車した後も、残り時間5分まで同じ道だ。
「で、どこに行くの?」
途中で購入したペットボトルで左頬を冷やしていると、日向が目を輝かせて訊ねてくる。最寄り駅で下車せず、そのまま中心部に向かうと伝えたからだ。友達もいないオレが寄り道するとか、よほど面白いことがあると思ったのかも知れない。
「いや、まあ、本屋に行ったりとか、美術館に行ったりとか」
「ほう、美術館ね」
日向がスマートフォンを操作しながら追及してきた。明らかに、手元で現在美術館で公開されている芸術家の名前を調べている。
「で、美術館は今何を展示してるの?」
ぐ、キビしい質問だ。知っていはずがない。中学生のときも、美術の評価が低くて内申点が足りなかったくらいだ。美術品に対し微塵も興味がない。何なら、ベートーベンくらいしか知らない。
かっこつけて美術館と口走ったことを後悔しながら、とりあえず知っている名前を答える。
「えっと、ベートーベン、とか?」
「何で疑問系?というか、ベートーベンは作曲家だからね!!」
「え、ああ、マイケル何とかだったかも」
そういえば、ベートーベンは大工とか何とか、建築家を応援する曲を作った人だった気もする。記憶の引き出しを全部開けても、入れていないものは出てこない。
ジッと顔を覗き込んでくる日向と視線を合わせないようにして、大きくため息を吐いた。
「まだ、言えない。でも絶対に教えるから、週末まで待ってくれないか?」
「そっかあ、うん分かった」
正直な気持ちを真摯な口調で伝えると、日向はあっさりと了承してくれた。不満そうではあるが、今は関わらせるわけにはいかない。せっかく加賀たちのターゲットから外れたのに、また狙い撃ちされる可能性もある。それに、桐島に襲撃のことを教えるのは、オレの役目だと思う。
途中の駅で日向と別れ、いつものようにアーケード街に向かう。
何としても、被害を出さないように桐島を止めなければならない。暫く路上ライブを中止するとか、時間帯をズラすとか、場所を変更するとか、何らかの対策を講じなければならない。
いつものように時間を潰し、頃合いを見計らって路上ライブの会場に足を運ぶ。定位置にポジショニングし、ライブが始まるときを待つ。そろそろ夏至ということもあり、19時を回っても随分と明るくなったように感じる。桐島が現れてギターケースを開ける頃には、市内にある女子高の制服を着た女子高生3人組をはじめ、大学生風のカップルなど、すでに8人もの人たちが集まっていた。
演奏が始まって歌声が響くと、聴衆は一人、また一人と増えていき、一番多いときには20人以上の人たちが立ち止まっていた。個人的には、すでに駅前で弾き語りとしている人たちと遜色がないように思えた。



