その後、表向きには平穏な時間が流れた。
加賀たちに動きはなく、日向を狙い撃ちするようなこともなかった。日向自身も警戒していたし、親しい者たちが目を光らせてもいた。それに、生活指導から厳重注意を受けていたため、次に何かあれば停学は間違いなかった。
>さーや:イライラ
>るいるい:イライラ
>あさひ:イライラ
>まい:なにそれwww
>さーや:青崎が復活しているし
>るいるい:美しいカオがハレてるし
>あさひ:ヒマだし
>まい:わがままかっwww
>まい:あーそいえばオモシロイもの見付けたよ
>あさひ:ん?
>さーや:くわしく
>まい:んーもうちょっと調べてからねー
>るいるい:ソッコーでたのむ!!
>まい:はーい
水面下では、再び不穏な雰囲気が漂い始めていた。だけど、平常運転の僕は黙って眺めているだけだ。
ときどき待ち伏せするように早起きした日向と登校し、たまに学校でも話しをするようになった。疎遠になっていたとはいえ、過去に9年ほど毎日一緒に過ごしていたのだ。お互いの空気感が馴染むまで、大して時間は必要ではなかった。
自然体で接しているため、クラスメートたちは気になっていないようではあったものの、ときどき加賀や住吉の視線が側面から突き刺さっている気がする。
それが気のせいではなかったことが、その日の夜に分かることになる。
いつものように、放課後になると桐島の路上ライブの会場に足を運ぶ。
聴衆は少しずつ、でも確実に増えているよう感じる。拍手の大きさが違う、気がする。あれから話す機会が増えたこともあり、今後のスケジュールも聞いた。そろそろ、昼間の駅前にリトライしようと思っているそうだ。そのときは、鳴り物を手に声援を贈ろうと思っている。まかせとけ!!
―――ん?
ふと桐島から3メートルほど位置に、ピンク色の髪をした女の子がいることに気付いた。派手な色だから記憶に残っているが、少し前にもいた気がする。また来るなんて、すっかり桐島のファンになったのだろうか。そうだとしたら、ファンクラブの立ち上げも考えなければなるまい。などと思っていたが、ピンク色の髪ということに引っ掛かりを覚えた。
この地域はそんなに都会ではないから、奇抜な格好をしている人は少ない。妙に浮いてしまうからだ。かなり目立ってしまうため、髪をピンク色に染める人などほぼ見掛けることはない。教室の中以外では。
もしかして、岸田、か?
シャッターの前から移動して、気付かれないように近付いて確認する。
どこからどう見ても100%岸田だ。
その瞬間、ルーム内での会話を思い出した。
>まい:あーそいえばオモシロイもの見付けたよ
もしかして、桐島の路上ライブのことなのか?
慌てて周囲を見渡すが、岸田以外は誰の姿も見当たらない。
ふう、と大きく息を吐いて安堵する。
しかし、絶対的な安心にはほど遠い。
いつ路上ライブをやっているのか、それを調べに来た可能性は否定できない。
このことを桐島に教えるべきか?
何をしようとしているのか分からないのに?
僕の勘違いという可能性もある。
それに、これを教えたからといって、桐島が路上ライブをやめるとは思えない。
どうすればっていい?
「って、もう傍観者じゃないな」
そう吐きして苦笑する。
結局、桐島には何も話さなかった。曖昧な情報提供をしても、何にもプラスにはならないから。



