「何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
路上ライブが終わり聴衆が散会した後、僕は桐島に声を掛けた。桐島はそれが分かっていたかのように、驚くこともなくギターをケースに片付けながら応える。
「別に何もないけど、どんな心境の変化かな、って」
「何が?」
「感情が顔に出てたから」
その問いに思わず口ごもる。
確かに、桐島と目が合う直前、つい考え事に没頭してしまっていた。本当に姿を見せた日向。5年ぶりに交わされた挨拶。当たり前に受け入れた仲間たち。一連の出来事が記憶を呼び覚まし、つい素になってしまっていた。
ギターケースをシャッターに立て掛けた桐島が、カバンから水筒を取り出して呷る。水筒を手にしたまま、ギターケースの横にシャッターを背にする形で座った。そして、僕を見上げて返事を聞かないまま先に口を開いた。
「まあ、私には関係ないから、どうでもいいんだけど」
その言い回しが妙に腹立たしくて、シャッターにもたれかかるようにして桐島の隣にドッカと腰を下ろす。そして、手にしていたペットボトルのキャップを回し、スポーツドリンクを一気に流し込んだ。その勢いを借りて秘密を告げる。
「日向は、青崎は幼馴染なんだよ。ずっと前に疎遠になって、同じクラスになっても挨拶さえしない関係だけどな」
初めて桐島の驚く顔を見た。それはそうだ。僕は元であっても、平然と幼馴染を見殺しにしたのだから。あのとき桐島が言ったように、無関心を貫いた僕は正真正銘、卑怯者のクズだ。
反応に困っている桐島を目にし、「それはそうだよな」と苦笑いをして続ける。
「昨日、ここから帰る途中、たまたま青崎を見掛けたんだ。あ、幼馴染だから家が近いんだよ。だから、隠れる場所も同じだったりするし」
「隠れるところ?」
「あ、いや、まあ、とにかく偶然一緒になったんだよ。それで、罪悪感もあったし、いや、つい5年ぶりに声を掛けた」
「ふぅん、そうなんだ」
桐島に話しても、それが外に出るとは思えなかった。こうして関わるようになってまだ時間は短いものの、その辺りについては信用している。それに、桐島の意見を聞いてみたくもあった。
「詳しい内容は省略するけど、佐々木に対する思いや、今の気持ち、これからどうするかってことを聞いた。たぶん、3時間以上」
「え、3時間?」
まあ、半分以上は日向が泣いていただけだけど。さすがに、これは黙っていた方が良いと思う。
「それで、全てを吐き出して落ち着いた青崎は、最後に宣言したんだ。明日、つまり今日、誰にどう思われようと絶対に学校に行くって。どんなにツラくても、行かないと終わらないからってさ」
昨日の情けない泣き顔と、最後に見せた強い意志。そして、今日の凛とした姿を思い出し、思わず笑みが零れる。
「ホント、すごいヤツだよ。あんなに堂々とされたら、誰も何も言えない。元通り、いや、それ以上にポジションを確立してしまった。僕にはできなかったことを、アイツは息をするようにやってのけた」
僕の話を聞いた桐島は、両足を前に投げ出して少し視線を上げた。



