翌日、なかなか寝付けなかった僕は、自分の席に座ってあくびを噛み殺していた。
昨日あんなことがあったにも関わらず、教室はいつもと何も変わらなかった。意図的に意識しないようにしているのか、本当に誰も気にしていないのか。当事者である真鍋と佐々木の二人が休んでいるため、触れない済むと思っているのかも知れない。誰だって爆弾のスイッチは押したくない。いつも時間ギリギリに登校してくる加賀と住吉が登校していないため、まだ様子を窺っているだけなのかも知れない。
不思議な静けさが支配する中、いつも通りの声が響いた。
「おっはよう!!」
教室内に響いた声に、僕は思わず振り返る。
「おはよ、陽斗君」
いつもと違い、僕に声を掛ける日向。
目を見開いたままの僕に背を向け、日向は自分の席へと闊歩する。ムリはしているのかも知れない。それでも、いつもと同じ笑顔を浮かべた日向は、大勢のクラスメートに囲まれる。いつもと同じ日向の様子に、安堵して泣き始める高木。そんな高木の頭を撫でる水島。何も変わらなかった。これまでと同様に存在を受け入れらた。昨日の宣言通り好奇の目にさらされながら登校し、昨日の宣言通りに自分の居場所を固め直してして見せた。
信じられなかった。
あれだけの屈辱的な仕打ちを受けたのだから、メンタルも大幅に削られたはずだ。だからこそ、あんな場所にうずくまっていたんだ。それなのに、たった一晩で立ち直ることができるるものなのだろうか。例え、今日登校した方が良いと頭では理解できたとしても、そんなに簡単なことではない。信じられない。だって、現に僕は―――
受験に失敗したあと、誰にも会わなかった。
一歩も外に出なかった。
恥をかかせた親に申し訳なくて部屋からも出られなかった。
いや、不合格になったことが恥ずかしくて顔を合わせたくなかった。
志望校に進学した友達に、恥ずかしくて会いたくなかった。
登校する必要がなくなった中学校には卒業式まで行かなかった。
卒業式も行きたくなかった。
誰にも会いたくなかった。
高校にも行きたくなかった。
偏差値が低いヤツラに混ざりたくなかった。
一緒に見られるのがイヤだった。
受験に失敗しなければ、こんなところにいなかったのに。
こんな学校に、こんなヤツラと一緒にいなかったのに。
一緒に見られたくなかった。
一緒にされたくなかった。
そうだ。
だから、自分を納得させるために何も考えないようにした。
感情を消して、存在を消して、自分の操作を放棄した。
その他大勢なら注目されることはない。
注目されないなら、何も恥ずかしいことなんてない。
そうだ、だから僕は。
だから、僕は自分をNPCだと公表する。
チャイムの音で我に返ると、対角線上に座る桐島と目が合った。



