NPC(ノンプレイヤーキャラクター)


 2年生になり、1週間が過ぎた。クラス替えがあり顔ぶれはかなり変わったが、僕に変化はない。1年生のときと同じように、息をひそめ、まるで忍者のように教室の景色に溶け込んでいる。いや、そんなことをしなくても、僕のちっぽけな存在など初日に吹き飛んだ。誰かの謀略なのか、同じ学年で目立っていたメンバーが揃ってしまっていたからだ。

 「マンガかよ」と、笑ってしまいそうになるけど、現実世界の高校生にもカーストは存在している。容姿、学力、運動能力等で優劣はついてしまう。上位能力者は申し合わせたように集まり、いわゆる勇者パーティを形成する。当たり前のようにクラスの中心になり、周囲もそれを自然に受け入れる。それで学校生活が円滑に回るのであれば、それはそれで都合が良いからだ。

 しかし、1年生のときに別々のクラスで勇者パーティーを形成してたメンバーが、このクラスに集結してしまった。先生が問題児を1つのクラスに集めただけかも知れないが、そこに僕を入れるのはどうかと思う。でも、たぶん余り者の僕は、ただの人数合わせだったのだろう。

 まるでハルマゲドン、日本風でいうなら関が原の合戦のように、初日から2つのグループがクラスの主導権をめぐってマウントを取り合う。その結果、誰もがどちらかのグループに入り、クラスメートはきれいに二分した。それぞれの主要メンバーとは違い、その他大勢のクラスメートは普通に会話もしているが、何となく雰囲気はどんよりとしている。

 そんな中でもNPCとしての立場を理解している僕は、いつも通りの学校生活を送っている。1週間も経てば物珍しさから話し掛けてくる人もいなくなり、1年生のときと同じように、同じ表情で、同じセリフを繰り返す日々だ。
 だからなのだろう。おそらく、みんな僕の顔と名前が一致していない。それぞれのグループが開設しているSNSの専用ルーム、その両方に僕は所属している。そんなクラスメートは僕ひとりだ。教室のオブジェクトとでも思われているのだろうか。

 まあ、それでいいんだけど。それが、僕の役目なんだし。でもさ、こんな僕でも知っている。
 教室の壁、その向こう側には違う世界が広がっている。この私立第一高校には偏差値が65以上の特別進学コース、50前後の進学コース、47以下の普通科コースが存在している。入学式当日、特別進学コースは別室で学習計画の説明会があり、専用タブレットが配布された。進学コースは体育館に残されて短時間の学習説明会が、普通科コースは閉式と同時に解散。僕は別室に移動する特別進学コースの生徒と、騒ぎながら退場していく普通科コースの生徒を見送った。さらに、学校の塀の向こう側には、果ても見えない世界が広がっている。

 僕はNPC。目の前で繰り広げられる熾烈な戦いを、何も考えずにただ眺める。

「―――北川、北川 陽斗」
「あ、はい」

 僕の名前を呼ぶのは、担任の先生くらいだ。